あそこまであるこう 02
検索や公式リファレンスに学習サイトのお世話になり、散々初学者の質問をして時に蔑まれ、それこそ業界のジョウシキを知らないゆえのいろんなポカもやりながら学んだ。
例えばSNSの手芸アカウントで『スプリングピンクに行きたい』と書けば買えばいいようなアイバッグを縫うアイスクールの女のくせに、と。べつにほしいものをつくっているだけだけど、そんなやつはまれだ、ということはスプリングピンクに行くこともできる?行きたいなぁ、私は少しずつだけどできることを増やしていく。最初はできることを増やさないと作れるものも少ないだろうし。そうだよね?若菜はすくすくしている。
If文から、Buttonを押したら、変数scoreが100以上なら、switchでballが10から20と30に40もうひとつ50で分けていく、なみ縫いから返し縫いやまつり縫いになるように。簡易なゲームを作って公開するようになったけれどみんなうまいなぁ。シナリオに凝ったアドベンチャーゲーム算数が得意なパズルゲーム、可愛い絵のアクション。私もなにか得意がほしいなぁ、そうしたら少しだけ扉が動く気がする。若菜もはやくそっちに行きたいでしょ?ね?
きっと人口太陽は若菜を照らしてくれない、だったらあそこまで行こう。おまえに花を咲かせてあげる。
作業用のロックミュージックは休憩のため一時間で止まるようにしてある、カレンダーに書いたアカネのコンテスト締め切りが近づいてきた。私はできることが少し増えたものの、単純なものしか作れないでいた。そんな時SNSでふとオンラインのアプリ制作もくもく会『銀色』を見つけた、雑談自由カメラオフ可、私は参加のボタンを押す。
リモート会話ツールのアイコンがいくつか並んでいる、当日私はTシャツだった。なんでも人口太陽のシステムエラーでスプリングピンクにもこのアイスクールにも夏日が来ているそうで、熱中症に厳重注意だとか。放送モニターのアナウンサーも、会でカメラオンの人もみんな半袖だった。
黄色の花のようなシャツを来た女性が一人いた、モミザさんと言った。
「では始めたいと思います!」
皆のタイピング音がする、私は図書館で借りた技術書を開き見ながら参加した。苗字のみしか表示されていないシンプルなアイコンの誰かが小さな声を出す
「みなさん何作っていますか」
「僕は案件やっています」
「わたしは『アカネ』のコンペに向けて案を練っています」
「あー!あれね僕も出そうかな」
「私も」声を出し雑談に混ざった。
「いえ~い!だよねぇ、賞金欲しいものねぇ」
カタカタ、皆作業に戻る
「あう~ん。誰かこの部分分かりませんか?」
モミザさんは自分の画面をシェアした、カタカタ、皆自分のことに精一杯でモミザさんの質問は空を舞っていた、私も自分の画面を見るのに精一杯だったけれど、なんとか一区切りした時にちらっと見えたからうん?と声を上げ、そして言った
「あ、これ、この初心者向け本に乗っています!」
「え?本当?」
「変数の問題らしいですけれど、ほら」
私は量子コンのカメラに本のページを写した、モミザさんはお茶らけた
「うわ!本当に初歩だ!こんなところ忘れているんじゃあやばい」
「初歩かぁ、俺もちょっと復習しよう」
和やかに会は終わって、私は暑いからとアイスを冷蔵庫から出した。冬にこたつで食べるようなバニラじゃなく、スイカのやつ。
開かれたウィンドゥを閉じた後参加した会の応募フォーマットを見返すと、参加表明のSNSのアイコンが並んでいてそこにモミザさんもいた。ヘッダーにはスプリングピンクを意味する桜のアイコン、ガラスの扉の向こうの人だ。SNSをフォローしてみた、少し話しかけてみよう
「あの、もくもく会お疲れ様です。フォローよろしいでしょうか?」
「ありがとうございます!翡翠さん、こちらからもよろしいでしょうか?」
「よろしくお願いいたします!」
会話を締め切る。私のHNはまだ、元彼女に黒翡翠の指輪をあげたあのころのままだった。ちょっとごつくない?私は好きだよ。人に呼ばれることはあまりない名前だったけれど。
モミザさんとはそれから少しずつSNSで絡むことが多くなった
『ゆる募 夕食メニュー』
『回らない寿司!』私は答えた、モミザさんもはしゃぐ
『寿司食いたい!回らないの』
『スーパーで売っているよ~』
なぜだか大笑いされた。じゃあちらし寿司?また笑われた。モミザさんはまた銀色会を企画し私は参加した。もちろん警備のバイトは続けている、生活してかなきゃ。なんだって冬なのに一週間ほど夏日だから冬服をまくってはいけないし汗だらだらで大きな紙パックを足元に置いて誘導棒を振っていた。冬の夏日は何日続くのか、米とか野菜なんかの農作物はだいじょうぶなんだろうかこれ。
そんな感じで冬なのに半袖でスイカアイスの日々、SNSにモミザさんの書き込み
『ゆる募 もくもく会銀色メンバーでオフ会をしたいです!出たい人は返信お願いします!』
『喜んで!』と返信した
『翡翠さん!ありがとうございます是非お願いします!』
警備の帰りに蒲公英を見つけたけれど、小さな蕾は固いままだった、来るのは春を飛び越した夏日だけ。なんだかアイスクールの植物たちがかわいそうになった、若葉だってここにいては春がこないのに。水あげてたまには栄養材もあげて手入れしてはいるけれど。でもそうだな、アカネの近くに住むことをちょっとだけ真面目に考えてみようか。幸い、あのあたりしょっちゅうイベントやなんだと警備の仕事あるし、調べたら転職しなくても安いアパートならなんとかなりそう。
(続)