ちいさくてしろい
※BFC4二回戦に出す予定だったものです、描写はないですが、犯罪被害について書いたものなのでご注意ください。
あたし、おとうさんにおこられたの。
いつもランドセルについている防犯ブザー、なんでならないっておしえないのかって。
だって、そんなこわいひとなんかいないよ、近所のスーパーの警備員さんもみどりのおばさんもあいさつしてくれるおおきな犬のかいぬしも、みんないいひとだもん、こわいことなんかないもん。
でも、こないだのおとうさんはこわかった。でもね、それ、だれにも話しちゃだめなの。婦警さんだけ特別ね。
ひっこすまえね、近所の公園でいつものともだちとかくれんぼしていたら、あきちゃって、家で動画みようって帰ったことがあったの。
それでね、家でみんみくちゃんの動画みて、おなかすいたからアイス買いたくなって、コンビニ行ったの。
だけど、コンビニでアイスを食べたら、なんだか急に家に帰りたくなったの。お母さんの用意したおやつあるのにお小遣いつかったって怒られるかなとか宿題やんなきゃとかいろいろぐるぐるして・・・。
それで、ついそこにいた近所の子ども食堂のおばさんに嘘ついたの。「家の鍵なくしたの、どうしよう」ほんとうは帰りたくなかっただけ、ちょっとみんなを困らせてごめんなさいで終わりたかった。
でも、そうならなかった。
おばさんはね、ちゃんと心配してくれた、うん。すぐお母さんかお父さんのスマホに連絡して!って言ったけど、スマホの電源がないって二つ目の嘘ついたの。
そしたらね、とりあえず子ども食堂に来なさいって、だって、雨が降りそうだし、わたしもおなかすいちゃってぺこぺこだったの。
ハンバーグ!うん、子ども食堂のハンバーグ!お金いらない、おかわりしちゃって三個も食べた、いっぱい食べるのねってほめられた。
でも、五時になるから帰りましょうって、わたし、わかった!って嘘ついて帰るふりしてかくれちゃったの。
「あぁ。だからあのおばさんは『帰ったと思う』って言ったのね」あなたは聴く。
うん、ほら、あの食堂、二階はおばちゃんの家でしょ?
だからねー、おばちゃんのこどもの秋絵ちゃんの部屋の押入れにかくれてたんだよ。秋絵ちゃん、冷蔵庫のケーキくれるっていったの!
それなのに、秋絵ちゃん、食べちゃったの〜!!
ひどいよ、やくそくやぶって。
「それで、それが嫌な思い出なの?」あなたはどこかほっとした声になる。
うん!すごくきれいなケーキだったんだよ、ちいさくてしろい。たぶん高いんじゃないかなぁ。
ずっとよなかまで秋絵ちゃんとおしゃべりしてね、かくれてお菓子たべて、秋絵ちゃんのベッドで寝た。
起きたら学校行かなきゃなんだけど……先生に宿題忘れたって怒られるって思ったら、なんだか嫌になって、昼まで秋絵ちゃんちの物置にかくれてたら、のどがかわいて、おばさんが留守なのを見計らって水を飲んで、ちょっとだけ、レジから、お金もらった。
「それは返そうね」とあなた。
うん!お母さんといっしょにちゃんと返したよ!それでね、一人ぼっちで、どんどんさびしくなって。
黙って秋絵ちゃん家を出て道端でわんわん泣いてたら、それを通りすがりの近所の人が見つけてくれたの。
それだけ。
「うん、嫌だったね、ケーキ食べたかったね」
あなたはそう言って、『何事もなし』と報告書をまとめようとする、この子の行方不明事件は、子ども食堂から小銭が僅か消えて関連を考えられ、この子自身引っ越したり、この子の親夫婦もそれから不和だと聞いたが、問題はないのか。
よかった、犯罪には巻き込まれていなかったんだ。
「じゃあ、また嫌だったこと思い出したらいつでも話してね」
別れ際その子に言うと、ぱぁっ、と顔を明るくして、その子はなんでもないことのように無邪気に笑ってこう言った。
えっとね!おとうさんがね!
ぜんぶはなしたのに、せけんのみんなは、もうわたしが『ちいさくてしろい』って思わないんだからな、っていったの。
ね、婦警さん、これってどういういみ?
なんでわたしお嫁さんにいけないぞとかっていじめられて引っ越すことになったの?
どこにも傷はないよ?
前のともだちと遊びたい!それに子ども食堂のハンバーグ!
ね~、婦警さん、なんで?
私はただその子を抱きしめることしかできなかった。
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