君は希望を作っている #20

 それでも、沙羽は希望を探していた。
 ある日、沙羽はいつものようになんとなく見ていた新聞を見返した。
 太陽系外惑星の名前を付ける企画があるらしいのだ。
「ほら、きょうはきぼうでしょ」
「あ、うん」
沙羽は慌てて準備をする。
 きぼうで沙羽は珍しく活動に参加した、今日は近場のカフェテラスがカフェオレの淹れ方をする日だった、希望は食べられなくてもクリームの乗ったシフォンケーキぐらいは食べられるかもしれない、沙羽は舌なめずりをする。
「今日はよろしくお願いします」
 佐藤は極上の作り笑顔で喫茶店のスタッフに挨拶をする。
「いいえ、よろしくお願いします」
髪を後ろで束ねた清潔感のある彼女は言った。
「きょうはきぼうさんの姉妹施設、ゆめかなの子供達もお手伝いに来てくれました、さぁ、どうぞ」
きぼうの扉を開けて子供達が入ってくる、ゆめかなは子供の発達障害の施設です、佐藤が簡単に皆に説明した。
 子供達が入ってきてしまえば、沙羽はそのきゃあきゃあという声に圧倒されてつまみ食いどころではなかった。
 バックから携帯用のいつものイヤホンを取り出して、支援者に声を掛けて小さな部屋に休みに行った。
 そこは黒崎と、彼女についている優しそうな支援者がいた。
「え」
「あ、何よ、ここに居ちゃ悪いの?」
黒崎はさおり織りをしていた、
「……ちょっと休ませて」
沙羽は黒崎に構う余裕もなく、椅子に座って机に突っ伏した。
「ねぇ、なんか楽しいことない?」
黒崎は沙羽が寝ているのも意に介さず話しかけて来た、沙羽は「ごめん今無理」とだけ言って縮こまった、黒崎の支援者は自閉症の沙羽は今パニックを起こしているから、と黒崎へ柔らかく言ったけれど、黒崎は納得がいかない顔で乱暴に沙羽の腕を動かして、身体を起こした。
「人が話しかけているんでしょ、なんかいいなさいよ、そういうところが協調性ないのよ」
やめて、沙羽は小さな声を挙げたけれど、ほら起きている、と黒崎は言い放った、黒崎の支援者はハラハラして見ている。
「なんか楽しいことないって聞いているの」
また疲れを残した淀んだ目で、沙羽は黒崎を見つめ、やがてだるそうに言った。
「星に名前つけられるって」
 それだけいうと、寝させて、と沙羽は突っ伏してしまった。
「え、何それ、何が楽しいの」
沙羽はもうダウンしている、黒崎の支援者は「これ、いいですか沙羽さん」と断って「……はい」と力なく声を出す沙羽を尻目に部屋から出ると、皆に少し大きな声で言った。
「皆さーん!沙羽さんが星に名前を付けようって提案してくれました!みんなで考えましょう」
「はーい!」
支援者は無駄紙を短冊のように切って配った。
 ゆめかなの子供達は皆目をキラキラさせて、星の名前を考え、書きだした。
 きぼうの利用者も紙にめいめい星の名前を書きだす、パソコンで調べて几帳面にやるもの、鉛筆で鼻を掻いて頭を抱えるもの、それぞれが見たこともない星に、希望を込めている。
 沙羽も少し落ち着いたのか、小さな部屋から出てきて短冊に「希望」と書いた。
 空にあるならそれでいい、無いってことは、無いって言える価値が有るはずだから。
 支援者はみんなの短冊を回収すると、応募はわたしがやりますから、と言った。
 それからゆめかなの子供達の淹れたカフェオレと、スタッフの用意してくれたシフォンケーキにクリームをやはり子供達がのせて、配膳もして、お茶の時間になった。
 それは、どことなく希望の味がするかもしれなかった。
名前を付けようとしたその星がどこか、希望の名はついたのか、それはわからない、それでも沙羽はそれが希望だと、空を見上げる日が多くなった。

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