君は希望を作っている #28

 さて、報告も終えて社長はいつものように皆を見て回る、利用者の誰かの質問に、僕はこうやってお金を出すしかできないけれど、こうしてみんなの育つのが楽しみなんだ、と真面目な顔で言うが、何故か皆で笑っている。
 その笑いの意味がわからなくて首をかしげている沙羽のところにも、いつものように社長は来た。
「あれ?今日はwordの画面だ、プログラミングは?」
「公募があるの、プログラミングは家ではやっているけど、ちょっとお休み、これはなんとかできたけど」
沙羽は三択の画面を出す、社長は軽く操作してコードを見た、
「H」
プログラミングのコードを見るのはHではない。
「ふぅん、まぁ両立できるようにするといいよ」
わかった、と社長は去って行った、黒崎が髪を整え、社長をあでやかに誘う。
「鈴木さん、私を思う人がいるって聞いたんです」
「うん、そう、よかったね」
社長はあっさりと言って黒崎から去ろうとした、黒崎は杖で音を立てて言った。
「そうだちょっと聞いて、沙羽ってば好きな人が出来たって言うのよ」
え?社長は何か新しいおもちゃを見つけたように目を光らせ、黒崎の近くに椅子を持って座った。
「何、またナンパされたの?」
「なんか、古典文学のサークルだって」
「ちょっと詳しく、ってか沙羽さん、それ言ってよ」
社長はどこまでも無邪気に笑っている、
「で、どんな人?」
「確か……公務員」
「え、ハイスぺじゃない、そんなことさっきは言ってなかったわよ」
黒崎は口を挟んで地団駄を踏むが、社長はこともなげに冷たくこう言った。
「でもそれだって女性相手に嘘をついているかもしれないよ、公務員は一番危ない」
沙羽は何故この人はお母さんみたいにやたらと心配してくるんだといぶかし気に社長の顔をしげしげと見つめたが、表情は読めなかった。
「案外忙しくて出会いがない、もっとハイスペックな男だってどこかにいるかもよ?」
「え、どこどこ」
沙羽は思わず辺りを見回すが、社長がふざけて自分を指していても、それには気が付かない風にきょろきょろしていた。
 そして、沙羽はその古典文学の会にいそいそと行くようになった……かどうかは定かではない、公の催しだったのもあって、いつかっていつだろうと話になり、沙羽はまたため息をついた。

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