君は希望を作っている #5

 またきぼうには慣れていない。
 今日は何の課目だったか、沙羽は持ち込んたノートパソコンでプログラミングをしていた。
 ……エラーばっかりで全然言うことを聞いてくれない。
 それでもなんとかしないと、沙羽は呟いて、参考サイトとにらめっこしている。
「はい、今日は仕事で皆さんがミスしてしまった時の謝り方を練習しましょう」
佐藤は高い声を張り上げて言った。皆は
「わたしは障害特性でミスが多く……」
などそのミスの説明になっていないことまで一生懸命に説明しようとしては汗をかいている。
 上手く言えなくて、想像しただけで泣き出してしまうメンバーもいた。
「それはね、ミスはしかたないから、まずは謝ろうか」
佐藤もなだめたりすかしたり忙しい。
 沙羽はカタカタとキーボードを叩いている。
「沙羽さんは参加しないんですよね」
佐藤は猫撫で声で沙羽に話しかけたけれど、沙羽は意に介さないように告げた。
「……あの、ミスをして謝っても許してくれなかったらどうするんです?いじめとか」
「私どもは皆様が集団で加害者にならないように、問題を起こさないようにはしますけれど、いじめられないようにですか」
そんなのは無理だ、とでも希望の無いようなことを言いたげな佐藤を、沙羽は冷たい目で見下した。
「いじめられたらどうすればいいか教えてもらえると助かりますね」
「……少し考えてみますね」
佐藤はあくまで笑顔を崩さず温和に言ったけれど、それは、沙羽を苛立たせるだけだった。
「どこかで躓くということは、集団での協調性に問題があるんじゃないですか。では」
佐藤にこんなに侮蔑的な言葉を投げかけられるのは今に始まったことではないのか、沙羽はもうこの人に何を話しても駄目だと言わんばかりに黙り込んでいる。
 そしてキーボードを叩いてまだテスト段階のプロジェクトに『kibou』と名前を付けた。
「なんとなくだけどこれでいいのかなー。ま、テストだし」
希望作ってみよう、そう軽く冗談めいて言って、沙羽はパソコンを閉じてプログラミングの本を読み出した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?