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青はそこにいるだけ


家にある二つの青いぬいぐるみ。

 イルカのレイとサメのロイ。並んでいるのはおかしいけれど、水族館みたいで好きだ。  

 青は好き、レイとロイの二人も海と空も青だし。私の日でもある自閉症啓発デーには、東京タワーが青くライトアップされるけれど、その青は少し嫌いだ。

「だって誰も知らないじゃないのかな?」

とレイに話す。レイは

「ちょっとずつ知っている人増えるといいね」と答える。

青はそこにいるだけ。

 四月二日、市の若葉公民館で自閉症啓発デーのバザーが開催されるという広報が来た、私はカレンダーにマークをつけた。

 今日は天気が良いから、アパートのベランダにある物干しでレイとロイを干していたら、越してきたばかりのお隣さんもベランダにたまたまいた

「こんにちは」

「こんにちは。この辺りってどんなイベントありますか?」

私は自閉症啓発デーのバザーの話をした。

「バザー、出てみようかなぁ」

私は部屋へ戻る。

次の日、お隣さんが作ったバッチを見せに来たが、青いものがなかった。

「青がない」

と思わず口にすると

「青?」と驚かれてしまった。

「やっぱりみんな興味ないか」

思わずため息が漏れる。

「公民館のイベントは自閉症啓発デーで青がイメージカラーだそうです」

それでも、その日を覚えてくれている人が一人いる、自室で私はスマホを開く。

「みどりのブログ」

みどりさんは私の好きな俳優さんだ。テレビでよく自閉症の友人についてよく楽しそうに話していている。

「今日は自閉症啓発デーです!みなさん自閉症と言えばどんなイメージがありますか?私は……」

ブログに写真が載った東京タワーは青い色。そこにいる人の何人かはただきれいだとスマホを掲げているのだろうか。

 産まれもったものにコンプレックスなど感じていないということをいちいち説明しなくてよいように私は、理解者に見えるよう務めていることで自閉症であることは人に言わないようにしていた。

「話せるのですね」

と驚かれることがあるからだ。「身の丈にあった暮らし」を勧める「親切な」人たちの目を避けるのは難しい。一人で生きているだけで美談にされ、そうでなければ迷惑な邪魔者扱い。罵声を浴びせられるのはまだいいほう。ただいるだけで殺され、犯人に共感もされた相模原の事件の被害者のなかにも自閉症のひとはいた。

 思い出しただけで辛くなる。家に帰って水を飲み、好きな音楽を流す。レイとロイに相談しよう

「ねぇレイ私どうして自閉症なの」

激しく落ち込んでしまう

「そんなのわからないよ~」

レイはのんびりしゃべる

「おれ知っているぞ。あんずは自閉症じゃなきゃあんずじゃない」

ロイが口をはさむ

「なんでよ~」

思わずため息が漏れる、ロイははっきり言う

「自閉症じゃなきゃたぶんあんずは別なあんずだよ」

「なんで?わかんないよ~」

泣き声の私をレイは元気づけてくれる

「おれ知っているぞ。わかんないぐらいには、自閉症はあんずを形づくっているってこと」

「そうだそうだ」

二人は楽しそうだ、私は大きく泣きそうになって、慌てて小さくなり二人を抱きしめる

「そうだよ、きっとそうだよ」

二人はあたふたしだす、スマホでいつも流すお気にいりの音楽のバックには青い海。

 青はそこにいるだけ。

 希望と癒しの青、お隣さんも作ってくれた。私はちょっと変わっているから、大切にしなきゃいけないと学校の先生は言った

「私のことじゃなくても」

私は二人につぶやいた

「自閉症を理解してくれる人が増えるのはいいよね」

私は音楽に耳をそばだてると、少しずつ落ち着きをとり戻し、音楽をパソコンに切り替え仕事を始める。

 明日だ。

 若葉公民館は青くライトアップされ、ヤマルマギクも咲いていた。バザーには親子連れやヘッドギアをつけた人々が集まり、活気があった。お隣さんの友人が青いリボンのチャームを作り

「自閉症に理解をおねがいします」

と渡してくれた。じゃ、これをつけていたら、街中で人込みのノイズに倒れても誰もたすけてくれないの?私は洗濯機のなかにいるみたいに混乱してその場に倒れてしまった。

 ヘルプマークを出して静かな場所で休むと、お隣さんと周囲の人々が助けてくれた。

 帰り道、お隣さんのお店で再び青いクジラのチャームを見つけた。

「これはあなたのために作りました!」

と言われそれを購入した。

 バスの中で袋を開けると、ふわふわしたタオル生地のチャームがあった、レイとロイに新しい仲間、クジラのライが加わった。

 家に戻ると、三つの青いぬいぐるみ。ライは寂しがり屋だからどこにでもついてくるの。私は音楽とぬいぐるみに見もられながら今日も仕事をする。

 青はそこにいるだけ。


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