君は希望を作っている #15

 どこでも見かけるハンバーガーチェーン店ビッグの入り口は、バリアフリーの波にのってかどうか入口にスロープがあり、中も車椅子で動けるほどには余裕がある。
「まぁまぁね」
黒崎が機嫌よさそうに鼻で笑う、
「いらっしゃいませ、ご一緒にポテトはいかがでしょうか」
ミニスカートの店員に、黒崎は冷たい目で「いらない」と言った。
 それから、とにかく三人でそれぞれセットを頼んで席で食べ始めた。
「沙羽っちはアプリ作って売るの?」
「うーん、友達にそう言われたんだけど」
海老原が沙羽にたわいもないように切りだす。
「黒崎さんはウェイトレスだっけ?」
海老原は黒崎にも同じことを聞く。
「当たり前じゃない」
黒崎はつれない。
「でもさ、黒崎さん、厳しいこと言うようだけど、車椅子でしょ?歩けるの?歩けないのにウェイトレスは無理なんじゃ……」
海老原は素朴な性格が災いしてか黒崎の癇に障るようなことを言う、当然むっとした黒崎は強い口調で海老原に反撃した。
「できないんじゃないの、やらないの。病院の先生は今からでも義足を付けて練習すれば、またミニスカートで歩けるって言うけど……」
黒崎はメロンソーダをすすって言った。
「痛くない?」
「?」
海老原も沙羽も、黒崎の言っていることがわからず聞き返した。
「こんな年で、ミニスカートでウェイトレスなんて、痛くないかって言っているの。私も結構年だし、普通に就職して、普通に旦那さんが欲しい」
「結構年ねぇ、俺と同じぐらいじゃないの?」
そう言って海老原はさらっと自分の年を言った、沙羽からは五歳ぐらい年下だった。
「え、若い」
黒崎も沙羽も驚いて、それから沙羽は言った。
「黒崎さんの言うことわかるなぁ、私も……」
「え、何言ってんの」
ところがその共感を黒崎は撥ねつけた。
「あんた私と同いぐらいじゃない?じゃあ、もうこの年でそうなんてどんなにお勉強しても無駄じゃないの?努力するだけ無駄。可愛そうな車椅子の私はいつか心優しい誰かに見初められて車椅子の花嫁となり、自閉症のあなたは映画のように見つけた愛も上手くいかずに病院で暮らすの」
それ、何の映画だったっけ?沙羽は言った。
「でも結婚したいし、正社員にだってなりたいなぁ」
そんなことを沙羽は言うと、黒崎は海老原に押されて文句を言いながらきぼうに帰った。
なんでも支援者によれば、海老原に言われてから黒崎は義足を付けることを考えるようになったらしい。

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