君は希望を作っている #27

 さて、沙羽がお昼を買いに行こうとすると、やはり黒崎が杖を持って立ち上がって、沙羽の行く手を塞いだ。
「またお昼買うんでしょ?私、まだ一人じゃ歩けないの」
「あの、どいて」
「だいたいさっきはよくも誤魔化してくれたわね?ほら、送っていきなさいよ」
黒崎はふん、と手を差し出す。
「え?でも手つなぐの?」
沙羽が差し出した手を、黒崎はぴしゃり、とやった。
「なんであんたなんかと手を繋がなきゃいけないのよ」
「海老原君でいい?今日いたかな」
沙羽は黒崎に聞いた、まぁいいわ、と黒崎。海老原くーん、沙羽は海老原を探しに行った。
 杖を突きながらでも、スーパーときぼうの短い距離はまだ歩きにくい。
「がんばって」
「がんばっているわよ、何よあんたなんか、この私に触れようなんて何百年早いのよ」
「知っているよ、がんばっているね、でももうちょっとだからね」
差し伸べられた手を、黒崎は少し照れたように繋ぎはせず、彼の手首を握る。
 なんとかスーパーについた。
「あ、でも、ここ甘いから嫌よ」
「じゃあ、今日もビッグだね」
わかっているじゃない、と黒崎、車椅子の感覚が残っているのか、まだ階段が怖いのか、入口をスロープで登っていく。
 皆がめいめいに食べ物を頼んで、席に座る、黒崎はまだ座るのにつっかえがあるので、海老原に介助をしてもらって座る。
「……ありがとう」
黒崎が照れて言う、はしゃぐ海老原に、黒崎はふてくされて言う。
「何よ、障害者は何でも感謝しなきゃならないの?海老原くんはいいわね」
「あ、うん、いちいちありがとうはいいよ、当たり前だよね」
「そういうこと」
黒崎は当然のように吐き捨てた。で、皆が座った所でとひと息入れて黒崎は爆弾発言をかました。
「沙羽は誰が好きなのよ」
「え」
海老原も驚いた。
「あ、ごめんね、人に言えない恋だったら。どこまで聞いていいかわからないからぁ」
「え、そんなんじゃないよ」
沙羽は慌てた、黒崎はじゃ、いいなさいよ、と沙羽に詰め寄った。
「こないだ古典文学を読む会に行ったの」
「また渋いとこにいくわね、で」
「お年寄りだけかと思ったら、一人海老原くんぐらいのがいて、なんか、いい人だなぁって……」
「あんた、こないだといい今回といい、何気に恋多き女なのね」
黒崎は言い放った、そして年収は?職業は?と沙羽を問い詰めたけれど、沙羽は、照れて笑うだけ。
「でね、二十代後半か、三十歳ぐらいだと思われているみたいで……」
沙羽の何気ない言葉に、皆は慌てる。
「そりゃ確かにあんたは童顔だけど!」
「うん、まぁね、それはともかく、『またお会いしませんか』って……」
呆れた、あんた私とおないぐらいでしょ?何さくっと年誤魔化しているのよ、と黒崎は空いた口が塞がらない、
「でも、それだけだから、またこういう催しがあったらぐらいで、別に連作先聞いてないから」
そしてきぼうへ戻る、午後に社長は事務補助で雇った元利用者に何も差し障りがないときぼうに報告に来ていて、支援者はいえ、お陰様で、と笑った。

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