君は希望を作っている #45

 数日後、事務的な連絡が少し来た。
「趣味がプログラミングとありますが、当社ではプログラミングの求人は現在行っておりません。プログラミングは続けるつもりですか?」
「もちろんです」
沙羽は短く返信をした。
 そして、あと少しの公募作を前に、『kibou』を動かす。
 きぼうに黒崎の持ってきた林檎、きざし。明るい兆し。
 人にそれを渡せる者にも明るい兆しが現れている、見出した希望が表れなくても。どんな暗闇に見えてもそこには仄かな明かりがある。
 少しずつ、黒崎は海老原に会釈で礼をするようになっている、相変わらず海老原は時々肘鉄を喰らって笑っているが。
 こないだは黒崎が沙羽にはっきり宣言してきた。
「やっぱり、会えない時間が愛を育てるのよね」
「うん」
沙羽はスマホに忙しい。
「何よあんた人の話聞かないで、誰と何の話しているのよ」
「友達、プログラミングの話」
あんた相変わらずよねぇ、黒崎は呆れつつ威張るようにして言った。
「もっと現実見なさいよ、性格だってそれなりで、一緒ならお金だって何とかなる、誰よりあなたのそばにいる人がいるじゃない」
「どこに?」
沙羽はあたりをきょろきょろする。
「海老原君よ、あたし、狙っちゃおうかな」
え、沙羽は小さな声を出した。
「本当!」
その言葉を聞きつけて、近づいてはしゃぐ海老原を黒崎がまた肘鉄を喰らわす、
「家事でも仕事でも、ちゃんとしてから女を口説けっての」
黒崎はそんなことを海老原に説教した、沙羽は小さく笑った。 

 好きなキャラの同士を見つけて、引きこもりだった利用者はイベントに出たりイベントの手伝いをやったりと少しずつ外へ出ている。
 城田は入力の仕事を見つけた。
 河合はフリマアプリで絵を売り出している。
 佐藤は最近少し忙しそうだ。
「はい、皆さん、ここで希望を見つけていらっしゃるのですよ」
電話で営業トークをしている。
「希望の仕事に就いた人、希望を胸に、大事な一歩を踏み出した人、まだ踏み出せなくても、少しずつ人と関わるようになって、新たな希望を見つけた方もいらっしゃいます。それぞれがそれぞれの希望を見つけています」
佐藤は幸せそうに笑った。
「そのそれぞれが、私どもの希望なのですよ」


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