君は希望を作っている #23

きぼうが終わる頃、河合が支援者に連れられ帰ってきた。
「で、どうするの?」
「……私は……」
「産まれてくるものに罪はないです、ただ……」
「聞いて!」
と佐藤を制し、皆が河合のらしくない強い口調に何かを感じる、河合はそしてはぁ、と告白した。
「生理、ただちょっとのびていただけだった」
「え」
「妊娠、してなかった……」
あっけないオチに、皆力が抜けてしまう。
「赤ちゃん育てたかったよ、えーん」
河合が可愛らしく泣く、皆はなんて言っていいかわからず黙っていたが、河合を病院に連れていった佐藤は厳しい顔になった。
「いいですか、今回はこれでおしまい、でも私はあなた達の為にも言いますけど……」
皆の顔が沈む、すると、佐藤は顔をあげて高らかに笑った。
「あなた達は、恋もこれから沢山出来るわ!赤ちゃんだって産めるわよ!みんな、明日の講義はお休み、パーティー開きましょう!」
「え?いいの?」
私が許可します、佐藤は言った。
 軽快なダンス音楽が流れる。
 それに乗って、城田と沙羽は首を振りながら折り紙で飾りを作っている。
 買い出し組も近くのスーパーで予算内の買い物を済ませた。
 お惣菜、ロールケーキ、お酒は駄目なので、ジュース、それからお菓子。
 ダンス音楽から、洋楽のものに変わる。
沙羽は歌いだす、


どんな素敵な人が私の恋人になるの
これからどんな出会いがあるの
優しくて、真面目で、温かな人がどこかに……


即興で作ったらしい歌を歌う沙羽を、黒崎が軽く押しのけて、支援者に支えてもらいながら立ち上がり、マイクを奪った。


そんなの恋じゃないわよ
もっと相手を見るのよ、そう
性格悪くてもいいじゃない 貧乏でもいい
どんな時も自分を見てくれる、そんな人が、いつか……
真実の愛を
運命の恋なんて、どこに惹かれるかわかんないのよ?
愛すべきは長所だけじゃない
真実の愛を


黒崎の声量はすごい、皆黒崎にこんな才能があったのかと圧倒されて、気が付けば手を叩いて踊りだす者もいるほどだ、


 ハンディがあるから何?
 ヒロインにはだいたいコンプレックスがある
 ヒーローもそう、
 でも前を向いていればいつかは……
すっかり自分の世界に入っている黒崎に気付かず、社長がドアを開け、「なんで教えてくれなかったの」と声を挙げ、慌てて輪に入ってくる。


 性格が悪くてもいいじゃない


社長が喜んで笑う。


 貧乏でもいい 


海老原がタンバリンを叩く。


どんな時も自分を見てくれる、そんな人が、いつか……


皆、黒崎に拍手を送り、黒崎は誇らしそうに皆の声援に応えながら車椅子に戻った。
それからは河合が魔法少女アニメの主題歌を歌い、海老原は邦楽ポップと持ち歌を歌うカラオケ大会となり、自閉症の沙羽と城崎はくるくる回る自閉症の常同行為をちょっともじったらしい自作の前衛的な独特のダンスを踊り、黒崎まで支援者に椅子を動かしてもらって踊っている、


まだ 支えがないと立てないけれど
支えられてばかりいるわけじゃない
支えることもできる
存在そのものが幸福でもある
そう 私達は幸福も作れる
恋に 夢 愛 希望だって


黒崎の歌に、皆は酔っていた。

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