君は希望を作っている #8

 沙羽は『kibou』づくりに戸惑っていた。構築環境は何とか……つっかえつっかえ自習用のパソコンのスペックでも使える少し昔のを入れたけれど、まだ何せ何の言語で何が作れるのかも含めわかっていないことが多いのだから、
「わたし、才能ないのかなぁ」
まだ自作の何かを作っていなくて、いつも教科書通りやっては遊ぶだけだったことは、少なからず沙羽のコンプレックスになっていたみたいだった。
 ため息をついて意味もなくHPを作りだして、リストの項目を増やしたりする、バックの色を変える、勉強しているようで遊んでいる……一体こんなんでプログラマーとして就職できるのかと、沙羽は一人呟いた。いくら求人多いって言ってもまた女性とか年齢とかではねられてあまりいい扱いを受けないんじゃないか、はぁ。
 もうやだ。
 構築ソフトを閉じて人のサイトを見て復習しようかとしだす沙羽を佐藤が見咎めた。
「あら、今日はプログラムしないの」
「うーん、ほんとうに完成できるのかなぁ……なんかけっこう挫折している人いるみたいだし」
「なら今日は気分を変えて皆さんに参加してみないですか?」
「んー、今日は何をやるんですか?」
どうせなんかあれだ、なんかビミョーなんでしょ、とでも言いたそうな沙羽に佐藤は何かを誤魔化しているような作り笑顔で言った。
「でも、その前に少し話をしませんか?どうも沙羽さんはわたしどものことを誤解されているというか、活動をわかってらっしゃらないようで……」
「はぁ」
誤解ねぇ、どうせあれなんでしょ、沙羽はそれを佐藤に言うことは無かった。
 この人には、何を言っても無駄でしょ。
 その「誤解」というものが何だったのか、いくら佐藤の長い話を聞いても佐藤がどんな風に「わかってほしい」のかは結局沙羽にはわからずじまいだった。
 そして佐藤は皆に笑顔でこう言ったのだ。
「そうだ皆さん、沙羽さんは見ての通り脳の手術痕もありますが、城田さんと同じ自閉症、高機能自閉症です。ではあらためて『よろしくお願いします』」
「よろしくお願いします」
沙羽はそんな佐藤を見て見開き、やがて悲しげにため息をついた、障害を本人の許可なく公示するなんて、この人は本当に福祉関係者なのだろうか。でもそれを言うと、「障害受容」とかの言葉で誤魔化されてしまうのだろうなぁ、はぁ。
 まぁいいや、幸いプログラミングしながら音楽聞いていいって言うし、まずは早くアプリで『kibou』を作ろう。
 だからどんなんなのよ、それは。
 あぁもう……とりあえず自分のサイト作ろう。
 アプリを作るんだって、エディタに慣れないとどうにもならない。アプリを紹介するサイトも作らないと。
 そうだ、こないだ作りだしたHPがある。
 とりあえずこないだからリストの項目を増やしたりして遊んでいたそのHPをエディタで開き、h1に「夏空の小説道場」と書く。
 とりあえず文字の表示はOK。
 そしたらサイトの説明だ、沙羽はネットを見出したのが震災後なのもあってか、こういう時のネットの「おやくそく」を知らないらしく、短い文章に何を書いたらいいのか首をかしげている、休み時間にTwitterで友達の一人に声を掛けて、とりあえず参考にさせてもらう。
 「ここは夏空花火の創作サイトです。ネットあまり詳しくないので色々教えて下さい」とだけh2に書いて、また確認。
 うーん、h1とh2だとこんな風に大きさが違うのか……h2だけでいい気がする、参考サイト見たら別にh1無きゃ駄目ってこともないのか、じゃあ両方h2にしてっと……。
 背景色はこれでいいかな?いや、そもそもどうやって背景変えるんだっけ……あぁ、idを作るのか、じゃあそれプラス文字の見やすい背景色で二重にして、えーっと。
 っていうかどんなデザインにするとか何も決めてないや、まぁいいや、えぇっと何がこのサイトにあるかってリストにすればいいのかな?黒丸は命令で外して、あー、それだとリンク張れないんだ、じゃあどうすればいいんだろう……。
「おっ、やっているね」
遊びに来ていた社長が、沙羽のパソコンを覗き見た。
「ちょっと、あの」
沙羽はパソコンの画面を自分の艶やかな写真のように照れて隠す、作りかけのサイトには沙羽のHな写真など勿論載ってはいないし官能小説もだ。
「だから、ネットで公開するものは誰でも見られるよね?ん?『夏空花火』?」
リアルの知人にネットでの活動がバレるというこのあまりの恥ずかしさに沙羽は耳まで真っ赤になった、社長はそんな沙羽を揶揄って笑いながらこう言って去って行った。
「あとでググろうっと、BLかな?ぐっちょんぐっちょんの」
「純文学です!」
照れて怒る沙羽を社長は愉快そうに笑いながら別の利用者に声を掛ける、ほんとうに変な人。沙羽はそう呟きながらまたHP作成にとりかかる、その真剣なまなざしを、社長は懐かしさを感じたのか少し遠くから目を細めて見ていた、黒崎が面白くなさそうに、やりかけのさおり織りを机に投げつける音がした。

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