君は希望を作っている #37

 黒崎の希望が、一つ叶おうとしていた。
 黒崎は、もう杖はいらないと、自慢するように歩くようになっていた。
 そして支援者が、お祝いにファッションショーをしようと言ったのだ。
 黒崎はこの日の為に、努力をしてきたのだ。
 さおり織りを織り、ミニスカートに仕上げて、モデルウォークの練習。
 より美しく見せるために化粧も練習して。髪型も。
 全てはあの人の為。
 その日、ジャズがかかったきぼうを、黒崎が誇らしげに歩いた。
 もう、車椅子はいらない、黒崎は演出で車椅子から杖で立つ。
 健康な脚も綺麗にストッキングでおめかし、ハイヒールを履いて。
 少し証明を落として、杖を手でくるくる回して。
 暗く光る義足を見せびらかすように、あやしくくねって。
 皆はため息。
 あぁ、見て、私を……。
 その席は空だった。
「社長さん、誘ったんですけどね、急に仕事が入ったって……」
どん、健康な脚で音を立て、杖を投げ捨て、黒崎はステージから降りた。
「黒崎さん!」
海老原が黒崎の後を追った。
 小さな部屋で、黒崎は座り込んで泣いていた。
「何で、何で、楽しみにしているねって……」
「お仕事なら仕方ないよ」
海老原は言った。
「私無様でしょ?こんなのってないわよ、私に興味ないの?えぇ、きっとそう」
「黒崎さん、今日は来なかっただけだよ、大丈夫だよ」
「いい、私、もう歩けない」
海老原は一言だけ言った
「僕は、今日の君はかっこよかったと思うよ、社長にも後で写メ送るよ。でも、今は……ちょっとカッコ悪いかな、僕は好きだよ」
「うるさい!ほっといてよ」
海老原は泣きじゃくる黒崎を置いて部屋から出た。
 そして、それから、黒崎はいつしか歩かなくなっていったのだ。
 先生には歩くように言われている、でも、と黒崎。精神的なものだろうか。海老原はそんな黒崎の車椅子を何も言わずまた押していた。

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