君は希望を作っている #33

 地名の希望に希望はあったのかもしれないけれどわからないまま、沙羽はきぼうで希望を探しあぐねていた。
 佐藤は相変わらず沙羽に詰め寄る。障害者枠はどうですか?
 凹を補って凸を生かすんじゃなかったの?
 黒崎は相変わらず沙羽に取ってかかってきている。自閉症って人を好きになることがわかんない、他人に関心が少ないって聞いたんだけど。
 そんな人が小説書くかなぁ。
 あなたの為です、同情しているだけなの、大事な一歩を、独り立ちしてこそ、自閉症らしく、生活保護でももらって、障害年金がありますので、慎ましく暮らせばいいの、お金のことは二の次、それで幸せでしょう?あなた達は、他の人と同じものを、欲しがってはいけません、それが幸せとはかぎりませんから、多様性の時代じゃない、私でもそうします、もっと大事なものが、そう、そうよ、あなた達らしく。
 黒崎の声と佐藤の声が混じり合って、エコーのようになった、沙羽はくらくらして小さな部屋に逃げ込んだ、わかってくれたかしら、だといいけど、佐藤と黒崎は去った。
 河合はあの騒動からしばらく傷ついて休んでいたけれど、お小遣い程度でいいからお仕事がしたいと最近ようやく復帰してきていた。
 海老原が河合に声を掛ける、
「どう、仕事見つかった?」
「うん……A型行こうかなって思っていて」
「河合さん今日はそのA型に見学へ行くのよね、さぁ、行きましょう」
あっ、河合は声をあげることもなく佐藤に連れられて行った。
海老原が戸惑っていると、黒崎が誰にともなく呟いた。
「あぁあ、私障害者枠で事務って納得してないんだけど、このままもヤバいし、行かなきゃ駄目か」
「見学だけですから」
黒崎の支援者が黒崎に微笑む、黒崎は不貞腐れながら杖をついて彼女について歩く。
沙羽はフリーランスに向けて黙々とプログラムを組んでいる。
「もしかして、何も決まってないの、僕だけ?」
ヤバい、と海老原は支援者に相談し、「ハロワへ行って来ます」と外出した。
昼休み、それぞれが帰ってきたので、河合も混じって皆で弁当にした。
「で、みんなどうだったの?」
河合が小さく声を上げた、河合はお弁当も可愛く小さい。
「障害者枠で雇ってくれるって言うから見学に行ったの、うーん、いい人だし車椅子や義足でもいいらしいけど……ねぇ、私それ以前に事務に適正あると思う?全然わかんない、帳簿?計算?パソコンに任せれば?ってかAIに取られたりしないのかな。
私はやっぱりウェイトレスがやりたいなぁ、せめて、接客。支援者は顧客の笑顔だったら上司や同僚の笑顔でもって言うけれど、事務でどうやって?って思うの」
黒崎はサラダにドレッシングを山盛りにかけすぎながらぼやいた、
「僕はハロワに行ったけど、職員さんと上手く話せなくて……でも、少し検索してみたんだ、応募とか相談するのはまだだけど、少しずつかな」
海老原は大きなカップラーメンに割りばしを乗せて待っている。
「私プログラミングしていただけ」
沙羽は大きな弁当のこれまた大きなカツをパクついている。
皆は河合を見た、河合は小さな俵結びをつまんで「あ、私?」と言うと慌てて飲み込み、少しむせてお茶を飲みながらぽつりぽつり始めた。
「A型ね、行ってみたの。小さな建物でね、隣が会社で、そこで梱包するの。色んな障害の人がいたなぁ。私は見学だったからただ見るだけかなって思ったけど、ちょっとやってみますかって言われて、やってみたら、すごい褒められて、向いていますよって、でも私、A型行かないことにしたの。
お賃金が安いからじゃない、確かに最低賃金割っているけど。あの……沙羽ちゃんが教えてくれたけど、イベントで手作りのもの売ったり、ネットで売ったりするの、ちょっとやってみたの。
そしたら『かわいい』って言ってくれた人がいて、だから、こういう風にちょっとずつお店を大きくするのが今は夢なんだ。沙羽ちゃん、教えてくれてありがとう。
だからね、もっとたくさん売れるまで、A型じゃなくて、事務軽作業……ライターとか入力ならほら、沙羽ちゃんもやっているクラウドソーシングとか、今はあるから、始めてみようかと思うんだけど……駄目かな?」
つっかえつっかえだけど、河合がこんなに懸命にみんなと話をするのも珍しい。
「「駄目じゃないよ!いい夢だと思う」」
皆が一斉に口にする、河合は小さく頷く、海老原はカップラーメンを開けた。
皆は励まし合った、いつか、どこかにある希望じゃなく、ここで教えられた希望でもない、自分だけの希望が見つかれば……希望はどこにあるんだろう。
「早く食べたい」
と沙羽、みんな笑った。

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