君は希望を作っている #22

まぁ、ありがちな話ね、黒崎を無視して沙羽は続ける。
「だって会っていたんでしょ?それ」
ていうかあんたのいつぞやのもそうだったかもよ?黒崎は嫌味を言う、沙羽はそれには耳を貸さないのか、わなわなと震えている。
「女だけが涙を飲むなんて、シングルマザーは貧乏でもなんて、物語だけでいい」
キッと口を結ぶ、でも、河合の支援者である佐藤は眉を挙げて、明らかに強い口調で言った。
「だからあれほど、私達に相談してくださいって言ったのに」
絡みつくような佐藤の視線に河合は怯える。
「あなた達は純粋で騙されやすいんですから、これからはそうしなさい、私達になんでも話してもいいのよ、なんでも……」
河合の肩を揉もうとして、河合はそれを躱す。河合は勇気を振り絞って反論する。
「私達にプライバシーはないんですか?」
「もちろん、プライバシーに配慮して外部に漏らされることはないですよ」
沙羽はこの、福祉関係者にありがちな自分達だけがあなた達の味方ですとでもいいたそうな作り笑顔が嫌いだった。沙羽は河合に助太刀をする。
「私達だって恋します、誰にも言えない悩みだってあります」
「ですからそれを、一緒に解決しましょうと言っているのですよ」
佐藤は能面のように笑っている、地獄への道は善意で舗装されているんだっけ?沙羽は何か言いたそうに
「でも」
と反論を試みたけれど、
「そもそもインターネットで知らない人と会うのはよくないことです、もっと目と目で会って、そう、愛は身近にこそ……」
沙羽はひたすら佐藤の言わんとしていることがわからずに叫んだ。
「そんな、利用者同士のプライベートな付き合いこそ禁止じゃないですか、私達の近くにあと誰がいるっていうんですか?障害者は障害者どうし、って言うんですか?」
「何それ、私に余り物で我慢しろって言うの?私余り物なの?」
余り物という言い方はともかく、黒崎と沙羽は珍しく意見が合って、少し驚いてお互いの顔を見た。
「……とにかく、河合さんには産婦人科に行ってもらいましょう、幸いまだお腹は大きくなっていないようですから」
「嫌だ、赤ちゃん、産むの」
河合は泣いている。それを佐藤がなだめずに、大きな声で叱り飛ばす。河合は怯える。
「それで、泣いて生活はどうなるの?お母さんになんとかしてもらうの?お母さんはなんて言っているの?ね、あなたのためでもあるのよ」
私と彼の思い出だもん、泣く河合をなだめて、佐藤は河合をやや乱暴に連れて行った。
 はぁ、見ていた支援者はため息をついて、それから、皆に自習にしよう、と言った。
 皆河合のことを思ってか、何も雑談をすることはない。
 支援者はその静けさの中重たい口を開く。
「あぁ、まぁな、そういうことは……そうだな、そういうことしたいか、そういうことしたいって、そりゃあるよな」
皆支援者を見つめる。
「君たちだって、もう結婚とかしていてもいい歳だ、確かに施設内の付き合いは禁止だし、ここに来るだけでは出会いもない、かと言ってインターネットはどうだろう?何か……何かないかな」
支援者は黙り込み、皆はまた自習に戻る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?