君は希望を作っている #4

 沙羽はその日プログラミングの練習サイトで学び、勉強しながらでいいと佐藤が言うので「みなのいいところを見つけて褒め合おう」という課目に参加し出した。
「この人のいいところ?さぁ、それこそ本当になんにもないんじゃない?」
沙羽と同じぐらいに見える車椅子の女性が、その中で唐突に言った。豊満な体型をしている沙羽とは対照的にやせ型で、全体的に丸く幼い印象を受ける沙羽とはこれまた対照的に鋭利な顔つきをしている、服装も化粧もナチュラル系ですっぴんの沙羽とは反対に幾分か華美なものだ。
「……あの、趣旨と違いませんか」
会ったばかりでろくに話していないのに急に変なことを言われて、沙羽は少し面食らい、思わず敬語でこう言った。
「意地悪なの」
その黒崎というメンバーは何故かにやにやと笑って答えた。すいません、黒崎さんも悪気はないんですけれど、人の良さそうな支援者が出てきて、黒崎を別室に連れて行った。
黒崎の座る車椅子に、二つあるはずの脚先の片方だけが無かった。
 障害者が清く正しいなんて物語の中だけでいいよ。沙羽はただ笑ってそう言った。
さて、頓挫したかに見えた希望を今日こそは食べよう。
 ある晴れた日、沙羽は母と二人で少し大きな街に来ていた。
「検査異常ないといいわね」
「手術後一か月か、腫瘍は大きくはならないって言っていたけれど」
そんなことを話しながら、沙羽は母と街を歩く、アーケード街のケーキ屋、クレープ店、お菓子屋。ここだ、沙羽は舌なめずりをした。この街ならきっと屋台で売っている、苺味にしようかなグレープ味かな、メロンもいいなぁ。
 すれ違う女子高生がお互いのをシェアしながらそれを食べている、汁がたれていた。数学赤点サイアクなんだけど、そんなことを言い合っている。
「病院終わったらちょっと買い物いい?」
「いいよ」
沙羽の質問に母は答えた、病院で沙羽はMRIを撮り、医者はそれを見ながら手術のかいもあってすっかり小さくなりましたね、リハビリ頑張っているからですよ。あとは紹介状を書くので、少しだけ残っている腫瘍をガンマナイフで取り除きましょうね。と説明した。
「はい」
沙羽は病院を終えると早速アイスキャンディーの屋台に並びかけて、木の棒をポイ捨てする客を尻目に、はて、これ希望味ってあったっけ、と呟いた。
 オレンジクリームミント……やっぱやめた、フレーバーに希望が見当たらないなぁ。そうだ。沙羽は母に言う。
「カードゲーム屋さん寄っていい?」
「もう一人で大丈夫?いいけど、十五分でいつものところに来てね」
沙羽は希望が食べられないから買い物でもと歩いていった。
 アーケード街の一つの建物に入る、途中で新刊をチェックした本屋には『希望(のぞみ)のボーイフレンド』という漫画が売っていたけれど少女漫画嫌いとだけ言って沙羽はカードゲーム屋へ行った。
 カードゲーム屋でせめて「希望」というカードがあれば……沙羽はそう言ったけれど、ここのショーケースにはなかった。
 希望が無い街にはあんまり来たくない。こんなところに私よく来ていたな。
 沙羽はLINEで友人にそう呟いた。

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