君は希望を作っている #19

ところが、それで食べていくという希望のある話がきぼうで持ち上がってきた。
 きぼうの近くに鉄工所がある、真面目な作業者を求めて、時々きぼうからも雇ってくれる工場長さんが、こないだきぼうに来た時こんなことを言っていたのだ。
「いやぁね、いつもきぼうさんからは真面目な人を紹介してもらって感謝しているよ」
「はい、それはそれは」
佐藤は猫なで声で工場長にお茶を勧めた、工場長はお茶をすすりながら言った。
「でね、うち人工衛星とかの部品も作るんだけど、こないだそこの社長が、ギフト券……?なんか能力あるやつなら欲しいって言っているのがいるから、紹介しようかって」
「ギフト券……?」
佐藤は首をかしげる、工場長は笑う。
「うん?なんかこいつ頭いいかもなってやついないか?」
「あ、ギフテッドですね」
佐藤はあたりを見回し、沙羽と目が合うとなんだか気に食わなそうに言った。
「沙羽さんIQは?」
「さぁ、最近はあまり計らなくて、でも確か学校に入ったころは『天才』ってあだ名ついていました」
「……高いのね、まぁ障害者枠でも理解さえもらえれば」
佐藤は何が気に食わないのかいらいらしていた、そこへ黒崎が割り込んだ。
「でも今は……ってことは所詮IQなんてそんなものじゃないの?評価してもらえる能力なんてないんじゃないの、そんな体型じゃ頭よさそうに見えないし」
見つめられて、沙羽は咄嗟に豊かな胸を隠した、
「胸は関係ないじゃない」
そういう黒崎は一見どこに凹凸があるのかわからない控えめな体型だったけれど、またそれが誇りらしく、
「まぁ私のようなスレンダーな体型なら垂れるなんてないのよねぇ、あなたみたいに」
と言いたいことを言って去っていった。
「まぁともかく、会社教えるから、テストだけ受けたら?」
工場長が明るく言った。
 テストの結果だけ言えば、黒崎の言うことも当たらず遠からずだった。
 と、いうか数学が駄目だったのだ。
 確かに沙羽の記憶力は良かった、慌てて調べた宇宙のことも、在野の学者にしては、よく覚えたほうだろう。
 だけど、沙羽はもともとガテンをしながら宇宙の勉強をしていたのだ。
 それでもなんとかなる人はなるだろう、しかし、沙羽はその一握りではなかった。沙羽の幼少期のエピソードはギフテッド的だと支援者は言ったけれど、「何の」かはわかっていなかった。
 そして、沙羽はその会社が求めているものには届かなった、ただそれだけのこと。
 まだ電車が怖いので、支援者についてもらって、沙羽は面接にも行った。
 若い社長は、いつか日本実験棟きぼうのようなものを作りたいと希望に燃えていて、沙羽はその熱度に押されてただ圧倒されてしまい、検索すればわかること、科学雑誌を見ればわかることしか言えなかった。
 そしてそんな人はいらないのだった。
 沙羽はすっかり落ち込んで、私もちゃんとした高等教育を受けたかった、言ったのに、と母を責め、沙羽の母は何を言っていいかわからずあなたはそれでいいのよと呪文のように繰り返していた。
 沙羽はひたすらに泣いた、私だって知能に合った仕事に就きたかった。沢山勉強したかった。
 それが叶わないのが『わたしらしい』の?
 沙羽の母は、黙っていた。
 沙羽は希望があっていいじゃない。来ていた妹がそういうので、沙羽は驚いて泣くのを辞めた。
「主婦でパートもある私はそこから先のことなんて考えられない、でも沙っちゃんはこれからどこかで働いて誰かと結婚したい、いいよね、希望があって」
 沙羽は自分が希望を持っていると言われたことに驚いたようだけれど、冷蔵庫に冷えているアルコール度数の低い発泡酒は希望味でないことを思い出したのか、パニックになった。
 また応募すればいいのよ、母は言った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?