君は希望を作っている #42

 社長の希望ってなんだろう。
 どうしてあの人はあんなに寂しそうなんだろう。
 沙羽は呟いた、佐藤は皆にビジネスマナーの一巻としてハンコの押し方をレクチャーしている。
「あぁ、沙羽さん」
ぼんやりとパソコンの画面を見つめる沙羽に佐藤が声を掛ける。
「これから児童発達支援施設ゆめかなの子供達のところへ行くんです、一緒にどうです?」
「あ、はい」
沙羽は小さく声をあげ、パソコンを切った。
 佐藤の小さな車で、小さな住宅へ。
 細い道をいくつも曲がった一見なんの変哲もない平屋、そこが児童発達支援ゆめかな。
「さぁ、今日はきぼうのみなさんが、みんなにおもちゃを作ってくれましたよ」
「わーい」
数人の子供達が段ボールで作られたロボットや紙コップで作ったカップケーキのおもちゃに飛びつく、佐藤は作ったのではないらしい笑顔で、それを見守っている。
「きょうね、鈴木のお兄ちゃんが来てくれたんだよ」
沙羽はおっぱいに甘えてくる子供達にへぇ、そうなの、と笑顔で答える。
 支援者が新品のオルガンを弾く、皆が歌う。
 沙羽もカスタネットを鳴らす、静かに、安らかに、温かに。
 歌が終わると児童が言った。
「これね、お兄ちゃんにわたしてくれる?オルガンありがとうって」
それは、折り紙の手紙だった。
 佐藤の車でゆめかなを後にする、途中でブブゥ、とクラクションを鳴らされ、社長が顔を出した。
 誘われるまま沙羽は近くのコンビニへ、そこで社長は煙草を吸いながら沙羽にこう言った。
「『華麗なるギャツビー』ならディカプリオの映画で見たんだけど」
うん、沙羽は頷く。
「レオ様とはご名誉な。でも悪いけど、イケメンで成功者ってことしか共通点がないね。僕に思い人がいる?どこに?それに僕は誰にも手紙を出してない。だいたいみんなの知っている鈴木翔だよ?淋しいわけない。まぁ、君は知らなかったらしいけど」
社長は両手を大袈裟に広げた、沙羽ははっきり言ってのけた。
「あなた宛ての手紙ならあるわ」
「え?君が?」
社長は沙羽ににじり寄る。
「はい、これ、ゆめかなの子供達から、『オルガンありがとう』だって」
折り紙の手紙を社長に渡し、そして沙羽は言った、
「社長が思っている人なら知っている、沢山の障害者を雇った。社長を愛する人も知っている、こんな風に」
社長は折り紙の入った手紙を大切そうにしまってから沙羽を茶化した。
「でも沙羽さん、君からの愛のこもった手紙はないの?」
はいはい、沙羽は苦笑いした。
「からかうならもっと若くて美しい人にしたら?」
社長はふっ、と視線を細め、軽く俯くと、すぐに明るい口調になった。
「じゃあま、僕はちょっとここに用があるから」
あ、私も、沙羽は社長とコンビニに入る。
 コンビニでは自閉症の重いらしい青年が一人、耳に大きなイヤーマフを付けて、けして高くはない作業費を握りしめ嬉しそうに菓子を選んでいる。
 私ね、プログラミングであぁいう人たちも生活しやすいようにできないかって、沙羽は社長に夢を語った。

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