続々 信託型ストックオプションの課税関係 前門の虎、後門の狼
信託型ストックオプションは、株式を売却するまで課税されず、かつ、給与所得ではなく譲渡所得だという擁護論の一つに、「新株予約権は発行会社から与えられたものではなく、委託者であるオーナーから法人課税信託を通じて与えられたものである」というものがあります。
擁護論の概要
概観: 新株予約権は誰から与えられたものか?
オーナーAが委託者、信託会社Bが受託者となり信託契約を締結します。
信託設定時は、税法上受益者とみなされる「受益者としての権利を現に有する者」、以下、「受益者等」といいます。)が意図的に存しない信託を組成します(これが法人課税信託です。)。
当該法人課税信託に金銭を信託するのは、新株予約権の発行会社ではなく、オーナー個人です(オーナーが信託に資金拠出すると法人課税信託では当該拠出金を受贈益として法人税を課税します。)。
オーナーが発行済株式数の大半を有する会社が新株予約権を発行し、受託者は、信託契約に基づき新株予約権を時価で購入します(時価取得なので課税関係は生じません。)。
受託者は、信託契約に基づき、発行会社が指定した役員や従業員に新株予約権を無償で交付します(受託者が時価で購入した新株予約権の取得価格を役員や従業員は引継ぎます。この時にも課税は生じません。)。
役員や従業員が新株予約権を行使して株式を取得した時点で(役員や従業員は、労務の対価として受け取ったのですから)給与所得として課税されるというのが国税庁の見解のようです。
役員や従業員が新株予約権を行使した時点で課税されないとする擁護論は、役員や従業員は、法人課税信託を通じて新株予約権を取得している。役員や従業員は、発行会社と新株予約権の購入契約を結び、新株予約権を取得したのではないから、役員や従業員が取得した新株予約権は、「会社から与えられたのではない」、それ故、所得税法施行令84条3項2号の適用はないというものです。
確かに、所得税法施行令84条3項と84条3項2号をあわせ読むと、「発行法人から会社法の手続きに基づき発行された新株予約権で役務の提供の対価として与えられたものは、権利の行使により取得した株式の時価から新株予約権の取得金額と株式購入の払い込み金額を控除した金額」と定めています。
信託契約は、資金拠出者(委託者)であるオーナー、受託者は、信託会社、信託契約は、「発行法人の指示に従い、発行法人が指定した役員や従業員に発行法人が指定した株数を交付するというもの」だと想定されます。
オーナーと信託銀行との信託契約に基づき、発行法人の指示により、新株予約権が役員や従業員に与えられたことは明らかです。
これを、「発行法人から与えられた場合に当たらない」と解することができるか?
所得税法施行令84条3項2号の解釈の問題ですが、全体の仕組みを総合判断すると発行会社の裁量により新株予約権の交付が行われているので発行会社から与えられたものと事実認定される可能性が極めて高いでしょう。
加えて、この擁護論には2つの弱点があります。 ① 一つは、国が予備的主張として、前回解説した「法人課税信託を使って役員や従業員に交付した新株予約権の実質は無償取得である。加えて、税制適格ストックオプションの全ての要件を満たしていない」と主張した場合に反論できるかというものです。 ② 今一つは、役員や従業員がオーナーから新株予約権を取得したと主張するのならば、オーナーから新株予約権を贈与されたのであり、贈与税が課税せれるのです。新株予約権を贈与されたと事実認定すると、贈与された新株予約権の評価が問題となります。
悩ましい問題です。