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「推し」を「推し」と呼びたくない

一年ほど前、ひょんなことがきっかけでとある女性声優さんのファンになった。 
元々某マスPだったとは言え、他のアニメやゲーム全般に対しては周りに驚かれるほど疎く、当然声優にも興味を持たずに過ごしていたはずの私が今や、毎日何かしらの配信を追い掛け、時間が許せばメールやイラストを送り、Twitterの通知に心を躍らせ、イベントが告知されれば就活中であろうと学会直前であろうとチケを取り、節目節目には事務所宛にお手紙やプレゼントを送る生活を送っている。

1年半前の自分に言っても信じてもらえない程の変わり様。友人にも怖がられるレベルの真っ逆さま具合で、”人生何があるか分からない”とはよく言ったものだ。

私にとってのその女性声優さんは、憧れで、一番応援している人で、好きな人で、元気に笑って過ごしていてほしい人。世の中的にはどこからどう見ても「推し」だし、先程の文章の通り、今の私が所謂「推し活」に支えられているのは間違いない。でも私は、その人を「推し」という言葉で表したくなくて、回りくどいとは分かっていながらも、「応援している声優さん」という言い方をしてしまう。

(検索エンジンパワーなのか、アイマス曲記事だけ閲覧数が伸びてしまったことがあるので、以下も声優さんの名前は出さないor伏字で書かせてもらう。)


「推し」に感じるニュアンスは各々で少しずつ違うと思うが、私の中では「神格化」の意味合いがかなり強い。
分かりやすく言うならば、「推しは神」「推しは世界を救う」「推しは宗教」……といった言い回し。
推しを神になぞらえたこの表現は、響きのキャッチーさはもちろんのこと、なにかを一心不乱に愛するオタクの感情を端的に表していて好きだ。

推しの神格化といえば、アイドルが英語のidolに由来していることを思い出す。idol=「偶像」「崇拝対象」。「推し」という言葉はアイドルに対して使われることが多いことを踏まえれば、推しを神に例える表現にも納得が行くというか、話として面白いなと思う。

でも、だからこそ、私は面倒くさいオタクであるが故に、一番応援している人であるrrkさんのことは、神格化したくないのだ。それは、一番応援している人だから、という単純な話ではない。じゃあどういう理由なんだ、と聞かれると一言で説明するのは難しくて、自分なりにいろいろ考えてみた。

1点目。
アイドルが、彼ら自身の存在そのものを夢として売っているのに対して、声優は、声を当てる「技術」が根本にあるお仕事だと思っている。神格化は存在に対して行われるものであるのに、顔出し文化が進んでいるとはいえ、あくまで裏方の存在である声優さんを神格化するのは、なんとなく気が引けてしまう。
これは、声優は裏に引っ込んでろ等という過激派主張をしたい訳ではなくて、声を当てるお仕事をされている方に対して、キャラCVへの敬愛の念よりもご本人への愛を先行して語ることは、相手によってはむしろ失礼にあたるのでは……?と言いたいのだ。。。(うまく伝わるように書けていない気がする、、

とはいえ某マスのような二次元アイドルコンテンツを中の人と切り離して語ることの難しさは、ここ一週間の騒動でも怖いほどに明らかだし、CVを抜きにしても、若手女性声優のドル売り(→声を当てる以外のお仕事。配信番組、歌手活動等)は王道ルートだ。
声優さんの仕事が、声を当てる以外にも幅広いものであるのは事実で、ここらへんは、ファン個人の捉え方とご本人の心持ちの問題だと思う。歌って踊りたくて声優さんを目指したような方、そこからさらに進んでキャラと中の人の一体化を自ら望むような方もいれば、キャラとしての振る舞いをある程度求められるライブ活動自体をよしとしない声優さんもいるのだから(hnmrymrさんとか)。同じ声優さんでも全然ちがう。
後者のような方に対して、CVに先行して存在を神格化するような行為をするのは違うんじゃないか……と思ってしまうのだ。


2点目は、普段の言動を勝手にオタク特有の深読みをして勝手に雁字搦めになってしまっているからだとか、if世界の自分と彼女に本当に微かな、接点とも呼べないほどの接点があるせいか妙にリアルな人間として認識してしまうだとか、そんな、どうしようもなくて、自己中心的なこと。どうしよいもない内容なので、ここには書かない。

内容ぼかすんか~い。※公共の場で晒すにはあまりにも見苦しい内容になるのに加え、私の個人情報をある程度晒さない限りはまともな説明にならない(だいじ)ので、興味がある人は直接聞いてください。


話は少しずれるけれど、人生の大部分を自身の手で何かを生み出すことを趣味として過ごしてきた自分にとっては、生きがいを自己供給できないライフスタイルの極みである「推し活」の概念自体が、そもそも好きではない。私は、人の作ったものに乗っかりたくない自己中心的な人間だから、他の人間の生きざまに乗っかり、崇め、全肯定することをアイデンティティとする「推し活」で、自分の輪郭を形作ることに耐えられないのだ。生きる希望だなんだというけど、所詮は他人なのだから。

推しを批判するオタクはよくないとか、全肯定オタクこそあるべき姿だとか言う話が最近流れてくるけれど、そもそも他人は自分ではないのだから、全肯定できる訳がない。よって、どこか嘘をついているように見える、自分を殺して推しのアイデンティティに寄せることを良しとするような、全肯定オタクという言葉が苦手だ。全肯定すること自体を否定しているのではないし、批判オタクがいいと言っているわけでもなくて、ただ、出来ないことをあたかも出来ているかのように表現する言葉のニュアンスが苦手……ということだ。表向きはもちろん全肯定オタクでいるべきだと思う。

誤解されると嫌なので念のため。①推し活が悪いと言いたいのではなく、自己中心的で献身性の欠片もない自分の性格に合わないというだけ……。考え方は人それぞれだと思うし、むしろ私のようなタイプの方が少数派なんじゃないだろうか。②肯定できないことをご本人にわざわざ伝える必要はないという部分には同意するけれど、否定的な感情を持ってしまうのはオタクに非ず、っていうニュアンスが漂っている部分が苦手、という意。言論統制はいいけどとして、思想統制までされてる気がするので。


だから正直、今の私の過ごし方は楽しいとはいえ、自分の性格には全然合っていないし、良い状況だとも思っていないし、推しに全てを捧げている他のオタクを見て時折嫌悪感を覚えることもある。でも、他の人に向けているこの感情だって、結局は自己嫌悪、鏡写し。どこかの誰かの名言、「推しは自分の人生を生きてくれない」という言葉を、うっかりするとすぐに忘れそうになる自分がいて、そんな自分が本当に嫌いだ。

ここで、私が「推し」を「推し」と呼べない理由の3つ目を付け加えるならば、「自分の応援する人を自分のアイデンティにしたくないから」。恐らく、これが最大の理由だ。

たかが呼び方如きとはいえ、「推し」と呼ぶことで好きな人間を神格化してしまった時点で、推しが自分のアイデンティの一部になってしまう気がして、元々の自分がどこかに消えてしまうんじゃないか、という気持ちがあって怖い。

私は、他人の言葉で自分の気持ちを代弁した気になるのが嫌だから、noteにしょうもない記事を延々と投稿して、既存の気に入らない楽譜に頼るぐらいだったら、面倒でも自身の手で編曲して演奏する方が好き、そんな人間なのだ。大したものを生み出せる人間でもないのにプライドが高い、と鼻で笑われても仕方ないと思うけれど、私は、私が作ったもので私の輪郭を形どりたいいし、出来ているかは別問題としても、そういう心構えでいたい。たとえどんなに好きな人間だったとしても、それが自分でない以上はだめ。根本的にオタクに向いていない性格なんだと思う。


ただ、そんな自分にとって今の状況がいいものではないと自覚しつつも、幸いだったのは、彼女が極度のゲーマーであるのに対して、私がゲーム音痴、かつ興味が希薄な人間だったことだ。彼女を推しとして神格化して入れ込むために不可欠な、一番大きなピースが欠けているのだ。

彼女のファンになって初めてゲーム配信というものを見るようになり一年が経つ。でも、未だに大抵のゲームシステムは見ても分からないし、自分でプレイしたくなることは本当に稀だ。とはいえ、オタク大学のサークルの部室に入り浸って過ごした3年間、常にスプラかスマブラが付いている環境だったにも関わらず一度もコントローラーに触れることなく引退した記録を持つ私が、ごく稀とは言え興味を持つようになっただけでも、自分としては本当に大きな変化なのだ。でも、一年経っても微々たる変化で収まっているあたりは、恐らくそういうことなのだろう。やはり、ピースが根本的に欠けているし、これから大きく変わることも多分ない。

でも、そこが欠けているおかげで、私は彼女の全てを追わずに済み、彼女の魅力を全て理解せずに済み、距離をある程度保つことができているのだと思う。欠けているが故の悲しみももちろんあるけれど、私にとっては欠けていてよかったのだと心底思う。本当にだめになってしまったかもしれないから。


驚くほどの駄文大作になってしまったので、このあたりで筆を置く。理由はどうであれ、たった一言の言葉が持つ意味に拘りすぎていて、面倒なオタクになっている自覚はある。傍から見たら、私にとっての彼女は「推し」なのだから。でも、これからも、彼女を「推し」と呼ぶことはないと思う。オタク、一人のファンとして彼女をリスペクトする感情という点においても、オタクではない自分のちっぽけなプライドを守るためにも。

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ちゃんぱ
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