【150m以上、物件投下等で一部規制緩和】航空法の大幅アップデート、2021/3/30改正版の意味とは?
今回の航空法改正の狙いを端的に表しているのは、河野大臣のブログ記事です。ここに全てが記されていると言って良いのですが、私見で解釈をつけていこうと思います。
河野大臣の記事(ドローンに関する規制改革)より引用
ドローン飛行に関する航空法上の許可基準の改正と手続の合理化を行いました。今回の改正は大きく2つあります。
ドローン飛行を規制する航空法は(国民の安全性を担保するためではあるのですが)、今までがんじがらめの内容でした。ドローンを飛ばす側からすると必要以上に煩雑な許可取得手続が数多くありました。これは全て、法律を作る側と運用する側の経験レベルのギャップによるものだと感じていましたが、今回のアップデートは現場に即した形に落とし込まれたと、個人的には喜んでいます。
1つ目は、目視外の高高度飛行です。これまでは、目視外での高度150m以上の飛行には、どのような場所であっても原則、補助者の配置が必要でした。今後は、一時的に150mを超える山間部の谷間における飛行や、高い構造物の点検のための構造物周辺に限定した飛行などは、「必要な安全対策」を講じていれば、150m以上であっても補助者を配置せずに飛行できるようになります。「必要な安全対策」も、これまでは、飛行前に現場確認をすること、立入管理区画を設定して立て看板を設置することなどが規定されていました。今後は、飛行経路の直下及びその周辺に第三者が立ち入る可能性が極めて低く、飛行前の現場確認や立入管理区域の設定が難しい場合には、立て看板の設置などの対策が不要になります。縦割り110番で、「災害時は、倒木や土砂崩れ等で現場確認ができないからこそドローンを飛行させるのであり、現場確認の要件を満たすことは困難」との意見も寄せられていました。今回の改正により、災害時の被害状況確認で、ドローンが活用しやすくなります。
例えば山間部ドローン物流の現場で言うと、ここで言われている「補助者」というのが曲者でした。ドローンを運用する側にとって、これはコスト以外のなにものでもなく、ここに人をはり付けてしまうと、せっかくの自動・非接触型のモビリティであるドローンの意味が全くありません。看板にしても、その都度立てるわけにもいきません。
一方で、第三者の上空をドローンが飛行するというのは非常にリスキーです。以前スイスで起こった以下の事故がそれを物語っています。
スイス国営郵便の配達ドローン、墜落事故でサービス中断--幼稚園児から50mの地点に
このような事故が発生すると、サービスそのものが中断されてしまうのです。飛行機が墜落して地上に激突すれば、下に生活する人々は犠牲になりますし、物流ドローンや空飛ぶクルマが落ちてもそれは同じことであり、社会受容はこのような事故によって一気に消し飛んでしまいます。
今回の改正においては、「インフラ点検」「災害時のドローン活用のために」という大義名分もあるため、社会にも受容されやすい文脈であることは間違いありません。
2つ目が、目視外の物件投下です。
これまでは、目視外で荷物を切り離す場合は、原則、補助者を配置するか、荷物を下ろすためにわざわざ着陸する必要がありました。
今後は、ドローンによる荷物配送を想定し、荷物を切り離す場所及びその周辺に立入管理区画を設定し、高度1m以下で荷物を切り離す場合は、補助者の配置が不要となります。
この改正も非常に重要でした。ドローンから物を投下する場合にも補助者が必要というルールでしたが、これでは物流ドローンの荷物の送り先に常に補助者をつけるという全く無意味なオペレーション(補助者が行くなら補助者が荷物を運べば良い)が発生するのです。
では物を投下するのではなく、着陸させて置けばよいとなるのですが、そうも簡単にいきません。高度が低いとGPSを捕捉しにくい、風(ダウンウォッシュ)の影響をうけるなど、安全性を確保できないという問題もあります。しかし、上空から切り離せば不要なリスクを取らなくてもすみます。
重量のある物を投下するのは危険ですし、搬送物を破損するリスクもあります。しかし、薬や封書など軽量なものを自動配送するには非常に有効な手段となるでしょう。この法改正を受けて、2021年は今まで不可能だったオペレーションのPoCが増えるのではないでしょうか。
手続の合理化についても2つあります。
まず、インフラ点検時の手続の簡素化です。
昨今、インフラ点検を目的としたドローン飛行が増大していることを踏まえ、国土交通省がインフラ点検の際の飛行マニュアルをホームページで公表します。このマニュアルに沿った安全対策等を行う場合は、許可申請時の審査が一部省略されることになります。
インフラ点検といえば、送電線・線路・道路・橋梁・水路など、様々なものがありますが、以前の法律ではこれが非常に難しかったのです。全てのルール及びマニュアルを守っていると、効率的な点検などできません。仕事は完遂しないといけない、しかしルールは守らないといけない、、、ドローン操縦士はそのようなジレンマと常に戦っていました。
しかし、現場に即したマニュアルを国が準備してくれるのであれば、インフラ点検の現場でも活用が進みます。効率的な点検作業を行うためには、今まで一部でグレーな操縦が必要だったので、コンプライアンス上、参入できなかった企業も自社で利活用をはじめ、市場はレッドオーシャン化することも想定されます。
2つ目は、物件管理者への手続の有無の明確化です。
これまでは、ドローンが、道路、河川、港、国立公園等の上空を通過する場合、航空法及び電波法上の飛行許可以外に、それぞれの管理者に対する飛行許可等が必要か否かについて整理がされていませんでした。
そこで、手続の洗い出しや所管省庁との調整を行い、ドローンが単に上空を通過する場合は、原則、手続が不要となる法令を整理しました。
今後、原則手続が不要となる法令
道路交通法、道路法、河川法、自然公園法、国有林野の経営管理に関する法律、港則法、海上交通安全法、港湾法、漁港漁場整備法
今後は、ドローンの飛行に関する航空法や電波法をはじめとした各種手続のオンライン化、ワンストップ化を進めていきます。
このポイントも非常に重要な改正となります。ここに挙げられている「道路交通法、道路法、河川法、自然公園法、国有林野の経営管理に関する法律、港則法、海上交通安全法、港湾法、漁港漁場整備法」に関連するエリアというのは、主に国や自治体が管理しており、所管がそれぞれ違います。
所管部署にはドローンに詳しい人と無知な人が入り混じっており、統一的な見解を得ることは難しく、それぞれの場所で独自ルールがありました。最悪、たらい回しにされて飛ばせないということも多々ありました。今後はこれらの空域活用が進み、ドローンを飛ばしやすくなるでしょう。
ただ、今回整理されたのはあくまで国や自治体が管理する土地の話であり、民間の土地上空を勝手に飛ばしてよいという判断ではないので、この点には気をつけないといけません。民法207条による土地所有権は上空にまで及ぶので、災害時や公共利用で飛ばす以外の場合は、地権者の許可や理解が不可欠となりますので、ご注意ください。
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