macOSでMetaTraderを動かすには?
作成日:2024.11.11
更新日:2024.11.19
はじめに
MetaTraderはWindows用のソフトウェアであるため、基本的にはmacOSでは動きません。なんとか動かそうとした場合、最初に思いつく手段は仮想マシンでしょう。VirtualBoxやVMware Fusionなどを使ってWindowsを動かし、その上にMetaTraderをインストールする方法です。しかし、以下の問題があります。
Windows領域をホストのmacOSに割り当てるため、ディスク容量を圧迫する。
ホストOS(macOS)とゲストOS(Windows)間でのファイルのやり取りが、Finderでサクッとコピペというわけにはいかない。
Windowsのバックアップも必要になってくるかもしれない。
Appleシリコン版の場合、ARM版WindowsがゲストOSとなる。
Windowsのライセンスが有償である。
なんとか無償ですませたいし、できるだけmacOS側に干渉して欲しくありません。試行錯誤の結果、辿り着いたのがWine環境を構築してその上で動かす方法です。WineはWindows APIをLinuxやmacOSで実装し、その上でWindowsアプリケーションを動作させる環境です。macOS上でのWine環境を構築する方法はいくつかありますが、選択したのはWineskinServerを使う方法です。WineskinServerはWine環境と対象のWindowsアプリをラップして、Macアプリ化してしまいます。ちなみに、現在はWineskinServerからKegworksに変更されています。
macOSのWineはMojaveまでは32bitと64bitアプリの両方にOSが対応していましたが、Catalina以降は64bitのみの対応で32bitは切り捨てられました。その後しばらくして、32bit/64bit変換レイヤを備えたCrossOver 20が登場しました。WineskinServerはWineskin(既に開発停止)としては非公式ですが、CrossOverのソースコード公開によりこの32bit/64bit変換レイヤーを組み込んだ環境です。尚、macOSのWineの対応状況などは、以下を参考にしました。
一部のFX業者からMac版MetaTraderは提供されていますが、同じような方式のようです。
環境構築の流れ
環境構築は以下の順序で行います。
MetaTrader用取引口座の準備
Homebrewのインストール
WineskinServerのインストール
Wineskinの設定
MetaTraderのインストール
MetaTrader用取引口座の準備
MetaTraderについて
現在、MetaTraderにはMetaTrader4(以降、MT4)とMetaTrader5(以降、MT5)があります。Windows版においてはMT4が32bitアプリでMT5が64bitアプリです。
MT4が使えてEAでの自動売買ができ、両建て取引も可能な国内業者を以下にピックアップしておきます。
MT4の後継に当たるMT5の方が機能的に優れていますが、国内の業者としては以下に限られています。
利用する取引口座を選ぶ場合、期間に縛りのないデモ環境、スプレッド、1週間が日足5本、プラットフォームの安定性、証券会社の安全性などを考慮する必要があります。できればサーバー時間が海外で一般的なGMT+2またはGMT+3であれば、海外と同じチャートの見え方になります。
私の場合、リアルトレードは「楽天MT4」の口座を利用し、EAやインジケーター開発には海外の「XMTrading」のMT5のデモ口座を利用しています。「楽天MT4」」は上記の条件を満たしていますが、EAから複数ポジションを連続で約定させる場合には、1つの約定(OrderSendやOrderClose)に2秒程度かかってしまうようなので注意が必要です。またMT5で開発している理由は、バックテストの処理速度と機能にあります。MT4よりも処理速度が早く、またスプレッドも実際とほぼ同じ動きです。
但し、EAやインジケーターの開発環境がMT5で運用環境がMT4の場合、両方の環境で動作するソースコードがほぼ同一である必要があります。別ソースコードだと二重の開発となってしまいます。尚、同一ソースコードでも口座が異なると、スプレッドやサーバー処理時間などの違いから動作は若干違います。
MT用取引口座の準備
MTを利用するには取引口座を開設する必要があります。
「楽天MT4」の場合、「楽天FX口座」を開設した後、「MT4口座」や「MT4デモ口座」を開設するという流れになります。
「XMTrading」の場合、口座開設で登録してから、デモ口座を開設するという流れになります。
ここでは取引口座開設の詳細は割愛しますが、取引口座開設が終わったら、MT用のログインID、パスワードとサーバーを控えておいてください。インストールの後半でログインする必要があります。
Homebrewのインストール
WineskinServerはHomebrewを使ってインストールします。したがってHomebrewを先にインストールします。ターミナルで以下を実行してください。
/bin/bash -c "$(curl -fsSL https://raw.githubusercontent.com/Homebrew/install/HEAD/install.sh)"
Homebrewについては以下のサイトを参考にしてください。
Homebrew Caskを一括アップデート(brew cu)などを利用したい場合は、ターミナルで以下を実行ます。
brew tap buo/cask-upgrade
詳しくは以下のサイトを参考にしてください。
https://github.com/buo/homebrew-cask-upgrade
WineskinServerのインストール
WineskinServerのインストールはターミナルで以下を実行します。
brew upgrade
brew uninstall --force --zap wineskin
brew install --cask --no-quarantine gcenx/wine/kegworks
2行目に
brew uninstall --force --zap wineskin
を実行するように記述されていますが、以前にWineskinをインストールしていなければ不要かと思います。
コマンドを実行すると最終的にアプリケーションフォルダに「Kegworks Winery.app」ができます。
詳しくは以下のサイトを参考にしてください。
https://github.com/Kegworks-App/Kegworks
Wineskinの設定
最新のエンジンをインストール
アプリケーションフォルダの「Kegworks Winery.app」を起動します。
「+」ボタンをクリックしてエンジンを選択し、「Download and Install」ボタンをクリックして追加します。
現時点で最新(通常は先頭)の「WS12WineCX23.7.1」を選択しました。
最新のラッパーをインストール
Wrapper Versionのところの「Update Wrapper」ボタンをクリックして、Wineskinの最新のラッパーをインストールします。
現時点での最新は「Wineskin-3.0.9」でした。
ちなみに、ラッパーは「/Users/ユーザー名/ライブラリ/Application Support/Kegworks/Wrapper/」の下に最新のものが1つだけ保存されるようです。アップデートしてしまうと元に戻せないので、Wrapperフォルダをバックアップしておくとよいでしょう。
ラッパーを作成
「Create New Blank Wrapper」をクリックし、好きな名前を設定(MT4.app とか)して「OK」ボタンをクリックすればラッパーの作成が開始されます。(開始が若干遅くて無反応の状態が少し続きますが、イライラして連続クリックなどせず気長に待ちましょう。)
作成が終わり「View Wrapper in Finder」をクリックすれば、設定した名前のWineskinラッパーアプリ(この例では「MT4.app」)が、「/Users/ユーザー名/アプリケーション/Kegworks/」の下に生成されています。
フォントのインストール
WineではWindowsが標準搭載しているフォントがかなり抜けているため、日本語環境で文字化けしない程度のフォントを「Winetricks」を用いてインストールします。
まずは「/Users/ユーザー名/アプリケーション/Kegworks/」の下の作成したWineskinラッパーアプリ(この例では「MT4.app」)を起動します。
設定画面を表示されますので、「Winetricks」をクリックします。画面が表示されたら、先に「Winetricks」をアップデートしておきます。
続けて、「fakejapanese_ipamona」と「fakejapanese_vlgothic」をインストールします。チェックボックスを選択して「Run」ボタンをクリックします。
以上でフォントのインストールは終了です。「Close」ボタンをクリックしてください。MetaTraderのセットアッププログムを入手していない場合は、一旦、設定画面で「Quit」をクリックして終了させても構いません。
MTのインストール
MT4もMT5もインストールの手順に殆ど違いはありません。したがって、ここでは楽天MT4を例に説明します。
セットアッププログラムの入手
楽天MT4の場合は、以下からダウンロードできます。
ラッパーにMTをインストール
「/Users/ユーザー名/アプリケーション/Kegworks/」の下の作成したWineskinラッパーアプリ(この例では「MT4.app」)を起動して、「Install Software」ボタンをクリックします。
「Choose Setup Executable」をクリックします。
入手したセットアッププログラム(楽天MT4では「Rakuten-MT4Install.exe」)を選択すると、楽天MT4のセットアップを開始します。
「次へ」ボタンをクリックして進めます。
インストール中です。
「完了」ボタンをクリックします。
MT用取引口座の準備で控えておいた取引サーバーを選択します。
MT用取引口座の準備で控えてログインIDとパスワードを入力して「完了」をクリックします。
MTが起動しますが、一旦、終了させます。「ファイル」メニューから「プログラムの終了」を選択します。次に「起動プログラムの変更」を行います。
起動プログラムの変更
MTを終了すると、起動プログラムの選択画面になります。
初期状態だと「uninstall.exe」が選択されているので、「terminal.exe」を選択し直して「OK」ボタンをクリックします。(MT5の場合は「terminal64.exe」を選択します。)
設定画面に戻ります。「Quit」ボタンをクリックしてインストールは終了です。
これでWineskinラッパーアプリ(この例では「MT4.app」)を起動すれば、MT4が起動するようになります。お疲れ様でした。
Wineskinラッパーアプリ
簡単な構造の説明
ラッパーアプリ内には疑似Windows環境が展開されています。作成したラッパーアプリ「/Users/ユーザー名/アプリケーション/Kegworks/MT4.app」を右クリックして「パッケージの内容を表示」をクリックします。
「Contents/ShareSupport/prefix/drive_c」がWindowsの「Cドライブ」に相当します。
楽天MT4のイントール場所は「/Users/ユーザー名/アプリケーション/Kegworks/MT4.app/Contents/ShareSupport/prefix/drive_c/Program Files (x86)/Rakuten MetaTrader 4」になります。尚、64bitアプリであるMT5は「Program Files)」の下にインストールされます。
ここまでくれば、EAやインジケーターの置き場所などは、通常のMTと照らし合わせればわかると思います。
もう少し補足しておきます。この環境には「drive_c/windows」も存在します。この配下に「Fonts」フォルダもあります。つまり、ライセンスの問題が解消できるなら、「Fonts」フォルダ配下にフォントを置いてしまえば「Winetricks」でのフォントのインストールは不要ということになります。
再設定
何らかの事情で、ラッパーのアップデートやエンジンの変更、Wineskinのプロセスを強制終了させたい場合があるかと思います。ラッパーアプリ内に「Wineskin.app」という設定アプリが含まれています。
「Wineskin.app」を起動すると、空のラッパーアプリのときの設定画面が表示されます。これで再設定できます。
「Advanced」ボタンをクリックすると、
コンフィグレーションの画面が表示されます。
「Tools」タブをクリックすると、ここで「winecfg」「regedit」の起動やWineプロセスの終了、ラッパーのアップデート、エンジンの変更ができます。
アイコンの変更
初期状態のアイコンは、樽とワイングラスのイメージになっています。何のアプリケーションか識別しずらいですし、複数のアプリケーションをインストールして全部同じアイコンだと困ることが多いと思います。アイコンは変更した方がよいでしょう。
方法は2つあります。1つはmacOSのFinderでアイコンを変更します。もう一つは設定アプリ「Wineskin.app」を使う方法です。
macOSのFinderでアイコンを変更
macOSのFinderの機能を使ってアイコンを変更します。
ラッパーアプリ「MT4.app」を右クリックして「情報を見る」をクリックします。
ラッパーアプリ「MT4.app」の情報が表示されます。画面の左上のアイコンの上に別のイメージファイルをドラッグ&ドロップして、アイコンを変更します。MTの場合、インストールフォルダ(/Users/ユーザー名/アプリケーション/Kegworks/MT4.app/Contents/ShareSupport/prefix/drive_c/Program Files (x86)/Rakuten MetaTrader 4)直下に「terminal.ico」というアイコンファイルがあります。これに置き換えます。
MT4インストールフォルダにあるアイコンファイルをドラッグ&ドロップして変更します。
アイコンの変更ができました。Finderで見ても以下の通りです。
設定アプリ「Wineskin.app」を使う方法
再設定で行った手順で、設定アプリ「Wineskin.app」を起動して「Advanced」をクリックすると、コンフィグレーションが表示されます。
「Browse」ボタンをクリックします。
MTインストールフォルダ「(/Users/ユーザー名/アプリケーション/Kegworks/MT4.app/Contents/ShareSupport/prefix/drive_c/Program Files (x86)/Rakuten MetaTrader 4)」直下の「terminal.ico」を選択します。
これでアイコンは変更できるはずです。もしFinderやDock内のアイコンが反映されない場合、セーフモードで再起動してみてください。キャッシュがクリアされて反映される可能性が高いようです。
日本語等幅フォントの追加
MetaEditorのフォントや、EAやインジケーターで日本語等幅フォントを表示したい場合、追加するフォントはパッケージ内のdrive_c/windows/Fonts配下に入れる必要はなく、macOSに登録するだけでOKです。
お勧めの日本語等幅フォントには、「PlemolJP」「Moralerspace」「UDEV Gothic」「HackGen」などがあります。
最後に
この方法であれば、macOSにMT4、MT5共にインストールできます。楽しんでください。
最近は、別のWineラッパー「Whisky」が公開されていて、Appleシリコンであればこちらがよいかもしれません。MTは取引プラットフォームなので簡単に構築でき安定動作するのがベターです。最近のWineskinServerは何かと変更が多く、ちょっと不安です。私のMacはIntelなので(T_T)
今後、「運用環境」「開発環境」「MT4とMT5のコード統一化」などについて記事にしたいと思っています。それでは。