
TRPGのシナリオを書いて公開したいあなたのための手引き(後編)
前回の記事
5.公開に向けてシナリオを整えよう!
さて、あなたのシナリオが最高の出来になったところで、公開に向けてシナリオを清書しましょう。
構成を考えよう
シナリオの構成は、その人の好みによります。
また公開する媒体にもよるので一概に言えません。
この項目では、筆者の好みを書きます。
筆者は、以下のような構成をベースにすることが多いです。
シナリオの基本情報
シナリオの雰囲気を伝える情報
遊ぶ人が見てもよい情報
進行役だけに知っておいてほしいシナリオのまとめ
シナリオ本文
データ
あとがきや作者の連絡先
シナリオの基本情報
まずはじめに、目につくところにあなたのシナリオの基本情報を書きましょう。
あなたのシナリオがどんなものだかわからないと、シナリオを必要とする人に届かないかもしれません。
以下の項目を網羅しておくとよいでしょう。
シナリオのタイトル
シナリオのシステム
ルールブック以外に使うサプリがあるか
遊べる人数
遊ぶのにかかる時間
権利表記
シナリオの雰囲気を伝えよう
この項目は、あなたのシナリオの雰囲気を伝えるためのものです。
どんなに傑作のシナリオだったとしても、事前にわかる情報とシナリオの内容がズレていると、遊ぶ人の期待とシナリオのミスマッチが起こってしまいます。ラーメン店だと思ったお店にカレーしか置いていなかったら、どんなに美味しくても困惑してしまうようなものです。
あなたのシナリオの魅力を過不足なく伝えられるように、しっかりこだわるとよいでしょう。
例えば、以下のような情報があると、伝わりやすいです。
シナリオを表現する文章
シナリオの雰囲気を簡潔に
遊びにきてほしいキャラクターの要素
シナリオの舞台
シナリオに含まれる要素(注意書き)
注意書きって必要?
注意書きと言うと身構えてしまうかもしれませんが、あったほうが良いでしょう。
その要素が好きな人は喜んで手に取れますし、好意的な印象を持ってくれる可能性が高いでしょう。
その要素が苦手な人が避けられれば、その分否定的な印象を持つかもしれない人が少なくなります。
特に、以下の要素がある場合は注意書きをしておくと安心です。ほかに何を書いて良いかわからない場合は、他の作品がどんな注意書きをしているか、参考にしてみるのも良いでしょう。
実在する団体・歴史的事件・災害等の現実とリンクする要素
生き物に関すること(特に嫌悪を目的として描く場合や、生死について触れる場合)
死に関すること
恋愛に関すること
暴力に関すること
性に関すること
犯罪に関すること
さらに、これらの要素のなかでも、遊ぶ人が操作するキャラクターを巻き込む場合には、そのことも記載しておくことをおすすめします。
TRPGは遊ぶ人がキャラクターの行動を考え、発言を行うことで、感情移入が起こりやすい傾向があります。
そのため、他人がやっているのを見るよりも、自分のキャラクターが巻き込まれる方が、ダメージを受けたり、嫌悪感を抱いたりしやすいです。
犯罪が行われるのを見るのと、自分のキャラクターが犯罪を行うことになるのでは、かなり印象が異なります。
人を選ぶ要素を最初は隠して後から出すと、悪い印象を持たれやすいですし、場合によってはシナリオが進行不可能になって、楽しくない思い出になってしまうかもしれません。
あなたも、それは本意ではないはずです。
成分表示をするつもりで、気軽に、けれどしっかり書いておきましょう。
注意書きがネタバレになってしまう
人を選ぶ要素がシナリオの根幹になっていて、誰でも見られる場所に書くとネタバレになってしまうような場合もあるかもしれません。
筆者個人としては、「遊ぶ人には注意書きの要素がどこに、どのように含まれるかわからないので、ネタバレかどうかもわからない。なるべく書いてしまった方がいい」と考えています。
ですが、どうしても知られたくない場合もあるかもしれません。
そういった時は、誰でも見える部分には「ほかにも人を選ぶ要素があります」と書いておき、進行をする人向けの情報に「こういった要素も含みます。遊ぶ相手がこの要素について苦手でないかどうか、必ず確認してください」と書いておくのも一つの手段です。
「地雷チェックシート」と検索すると、有志の方が作成した、「遊ぶ人が何を苦手としているか、申告してもらうためのシート」がたくさん見つかります。提出してもらうことで、シナリオに出てくる要素を明かさずに、相手が何を苦手としているか確認することが出来ますので、それを利用してもらうのも良いでしょう。
ただし、これらのチェックは、シナリオがあなたの手から離れた後に行われることになります。つまり、相手の善意に頼ることになります。
うっかり進行役が読み落としたり、忘れてしまったりする場合もありますので、できるだけ、全ての要素を誰でも見られる所に書いておくのがおすすめです。
遊ぶ人が見てもよい情報を書こう
シナリオによっては、「シナリオを読むのは進行役だけで、遊ぶ予定の人は見ないでください」とするものもあります。特に、ルールブックに掲載のあるシナリオは、そういったものが多いです。
ですが、筆者個人の印象として、今は「遊びたい人がシナリオを探し、遊びたいシナリオが見つかったら進行役を探す」ケースも、とても多いです。
ネタバレを心配せずに見られる範囲で、「遊びたい人に見せられる情報」をはじめの方に記載しておくとよいでしょう。
例えば、キャラクターを作るときに設定の指定や、データ的な指定がある場合、シナリオの舞台となる場所の情報がある場合などは、公開しておくとよいでしょう。
それらの情報は、ネタバレを含む情報とは空間を開けたり、ページを変えたりしておくと、より親切です。
進行役に知っておいてほしい情報を書こう
シナリオの真相を簡単にまとめておいたり、キャラクターの一覧や敵について書いておく項目です。
進行をする人が、このシナリオが面白いかどうか、遊べるかどうか、遊ぶ人の苦手な要素に抵触しないかどうか、等をすぐ判断できるように、なるべく簡単に色々な要素をまとめておきましょう。
ネタバレになるので、間違えて遊ぶ人が見ないように、冒頭に注意書きをしておくとよいでしょう。
前の項目とは空間を開けたり、ページを変えたりしておくと、より親切です。
シナリオの本文を整えよう
いよいよシナリオの本文を書いていきます。
ここまで来ると、あなたのセンスが頼りになります。
小さなテクニックとして、
「そのままコピー&ペーストや読み上げを行っていい文章」と
「進行役に対して補足を入れる真相に関わる文章」は一目でわかるように分けておくと、進行がやりやすくなります。
また、目次の機能があるツールで執筆をしている場合は、積極的に活用しておくと、より親切です。
セッションの進行をしているときは、色々な情報を管理する必要があるため、とても忙しくなります。
「ひとめでわかる」を意識しておくと、進行役にも優しいシナリオになるでしょう。
あとがきや作者、連絡先について書こう
忘れがちですが、シナリオを書いた人の連絡先を書いておきましょう。
もしかしたら、あなたのシナリオの感想が届くかもしれません。
あとは、あまり嬉しくはないですが誤字脱字の報告や否定的な感想なども……。
もちろん、本名を載せる必要はありません。SNSのアカウントやショップのメッセージなど、比較的連絡がつきやすいものを掲載しておきましょう。
トラブルに巻き込まれないために、普段使っているSNSのアカウントとは別に、シナリオの連絡用のアカウントを作って、そこを連絡先にしている人もいます。あなたの好みに合わせましょう。
不備がないか確認しよう
最後に、明らかな誤字や、表記ゆれ、書き忘れやページの抜けがないかどうか確認しましょう。
全てを無くすのは難しいですが、もし大きな不備があった場合、シナリオを遊んでもらえなくなってしまうかもしれません。
シナリオとの出会いは一期一会です。遊べないような不備が見つかったときに、遊びたい気持ちが強い人は報告してくれるかもしれませんが、そうでない人は、そのままシナリオのページを閉じて、別のシナリオを探しに行ってしまうことも十分ありえます。
また、遊んでいる最中に不備が見つかったらもっと大変です。
そうならないように、できる限り完璧な形で、公開できるようにしておきましょう。
6.公開方法を考えよう!
さて、シナリオが整ったら、いよいよ公開の準備です!
最近は、シナリオの公開の方法も様々です。
あなたのやりやすいものを探して選びましょう。
全てには触れられませんが、主要なものは大きく分けて3種類あります。
「直接文章が掲載できるサイトに投稿する」か、「データファイルを配布する」か、「紙で頒布する」かです。
それぞれのいいところと、気を付けたほうがいいところについて紹介していきましょう。
①直接文章が掲載できるサイトに投稿する
タイトルの通り、サイトに文章をそのまま投稿する方法です。
この方法のいいところは、特殊な知識があまりなくても、シナリオが公開できる手軽さにあります。何かあった際の修正も簡単です。
筆者個人としては、初めてシナリオを公開する場合はこの方法をお勧めしています。
しかし、シナリオを遊ぶ側の人にとっては、遊ぶ度にそのサイトを確認しに行かなければいけないため、少し手間かもしれません。
遊んでいる最中でも、通信障害などがあると、シナリオが確認できなくなってしまうリスクがます。
また、他の方法に比べると、やや目に留まりにくい印象があります。
直接投稿のいいところ
特別な知識がなくても公開しやすい
修正や更新に気付いてもらえる
直接投稿で気を付けること
配布サイトがなくなると、シナリオが見られなくなる
遊んでいる最中にシナリオが見られなくなるリスクがある
文章の配置やデザインは基本的に同じものになる。
誰が見るかは制御しづらい
代表的なサイト:pixiv、TALTO、個人制作のホームページなど
②データファイルを配布する
PDFやテキストファイル、Word文書、HTMLなどのデータファイルをあらかじめ作っておいて、そのファイルをダウンロードできるようにする方式です。
良くも悪くも、シナリオがあなたの手から完全に離れることになりますので注意が必要です。
データファイル配布のいいところ
配布サイトがなくなっても、シナリオは受け取った人の手元に残る
文章の配置やデザインにこだわることができる
シナリオの他に、画像なども一緒に配ることができる
データファイル配布で気を付けること
ファイルの作り方にこだわると専門の知識が必要になる
手元にあるシナリオで遊べてしまうので、更新や、修正があっても気づいてもらいにくい
WindowsとMacの違いで、文字化け等のバグが発生する可能性がある
誰に公開するかは制御しづらい
代表的なサイト:BOOTH、Ambass、DLsite、DropboxやGoogledriveやギガファイル便等での直接配布
③紙で頒布する
同人誌やペーパーなど、実物を用意して売ったり、配ったりする方法です。
この方法のいいところは、何といっても実物が手元に残る達成感と安心感でしょう。
一度はやってみたい憧れの方法かもしれませんが、制約が大きく、お金がかかるのも事実です。
自分の状況も含めて、この方法を取るかどうか考えましょう。
紙で頒布する時のいいところ
実物が手元に残る
部数、誰に渡すか等を制御しやすい
作るときに同人誌のノウハウを参考にしやすい
紙で頒布する場合気を付けること
印刷代や送料など、お金がかかる
一度頒布したものの修正はほぼ不可能
印刷できる状態にするのに知識が必要
代表的な方法:即売会での同人誌販売、BOOTHやコノスやその他同人誌サイトでの通販、ネットプリント(ペーパーのみ)
7.無料にするか、有料にするか
公開方法を決めたのなら既に決まっているかもしれませんが、あなたのシナリオを無料で公開するか、有料で購入してもらうか考えてみましょう。
これはかなり重要ですので、じっくり悩んだ方がよい項目です。
①無料で公開する
特別な準備が少なくて済み、すぐに公開することができるのが、無料公開の良いところです。責任も、有料と比べれば軽いものになります。
シナリオを探す人も手に取りやすいため、幅広くあなたの作品を知ってもらいやすくなります。
また、あなたが学生や会社員であれば、無料にしておいた方が安心でしょう。理由については、有料の場合の項目で触れます。
無料の場合に気を付けること
無料での公開は責任が軽くて簡単だと書きましたが、これはあくまで「有料の場合と比べて」のお話です。
無料なら何をしてもいいわけではない、ということは心がけておきましょう。
あなたの作品が何かを侵害したり、何かを傷つけたり、何かに損害を与えた場合、たとえ無料でも責任を取る必要が生じるからです。
ここまでの項目をすべて確認していれば、大きな問題は起きづらいと思われますが、あなたのシナリオと、シナリオに含まれている要素が、権利元のガイドラインに沿っているか、改めて確認しておいた方がよいでしょう。
また、書く側としては悲しいことですが、無料で公開している場合は「ダウンロードやブックマークだけしておき、そのまま忘れられてしまう」というケースがあります。
これについては世の中に出ているシナリオが膨大な反面、遊ぶ時間は有限なので、仕方のない面もあります。
しかし、それを避けるために有料で出すというのは、あまりお勧めしません。後述しますが、有料で購入してもらうのは、売る側の責任がとても大きいからです。
「こういうケースもあるんだな」と理解しておいてあまり一喜一憂せずに、「すぐに遊びたい!」と思ってもらえる工夫をした方が、最終的には良い結果になると信じましょう。シナリオの公開には根気強さが必要です。
②有料で公開する
さて、ここまで少し脅かしてしまいましたが、シナリオを書くのは本当に大変です。対価が欲しいと思うのもまた、当たり前の感情でしょう。
有料で公開することを希望する方もいるでしょうから、この項目で触れておきましょう。
あらかじめ申し上げておくと、筆者はシナリオを有料で販売したことはありません。ですから、この内容を守っていれば大丈夫、というものではありません。
それでも、素人が把握しているだけでも、気をつけなければいけないポイントがこんなにあるのか、と知っていただくためにもご紹介します。
SPLL(スモールパブリッシャーリミテッドライセンス)について
いきなり横文字が出て来て困惑された方もいると思いますが、大切なことなので必ず確認してください。
簡単に言うとTRPGの二次創作のガイドラインの一つです。
有料でデータを販売する場合と、同人誌やサブスクリプションの見込みが20万円を超えそうな場合に申請する必要があります。売り上げの一部を、元の権利者に支払うためのものです。
前編で紹介した二次創作のガイドラインを指定している会社は、同じくSPLLの利用を求めています。
つまりほとんどのシステムのシナリオは、有料での販売をする場合は申請が必要だということです。必ずサイトをよく読み、確認するようにしましょう。
『スモールパブリッシャーリミテッドライセンス(SPLL)』について
権利関係の再確認
勘違いされがちですが、SPLLで許可を得られたからといって、それで有料での販売の全てが許されたわけではありません。
SPLLはあくまで「TRPGの権利者から認められた」というものにすぎないからです。
もしあなたがTRPGのルールブック以外に、参照した作品や、資料があった場合、そちらのガイドラインにも従う必要があります。
何かあった場合、裁判や賠償に発展する場合もありますので、有料での販売の場合は、特に権利のことを念入りに調べておきましょう。
シナリオを売るということ
あなたがシナリオを販売するということは、商売を行うということです。
同じようなことを言っているように見えますね。でも、ぜひ意識してみてください。
売買するということは、あなたは「商売をする人」になります。
つまり、普通に生活する上では、考えたこともなかった法律を守る必要が出てきます。
例えば、セール一つとっても、景品表示法でやり方が決められています。
シナリオに何か不備があった場合、返金をすることになる可能性もあります。
あってはならないことですが、それらを守らないことで、犯罪を行ったと判断されてしまうこともあります。
その責任を取ることができるかどうか、きちんと調べる手間をかけられるか、改めて考えてみてください。
あなたにお金が払われるということ
あなたがシナリオを販売するということは、あなたがお金を得るということです。
これも同じことを言っているように見えますね。でも、ぜひ意識してみてください。
あなたは、シナリオを売ることで、お金を稼いでいるということになります。つまり、金額によっては当然、その稼ぎに税金がかかります。
確定申告。あなたが学生さんでも、聞いたことはあるでしょう。やっている人が目の敵にして苦しんでいる、あれです。
筆者もあまり詳しくはないので説明は書けないのですが、とにかく面倒くさいです。面倒くさいのに、知らなかったでは済まされません。やらない場合は下手をすれば脱税です。
というわけで、これもしっかり調べておきましょう。
あなたが学生で親に養ってもらっている場合や、会社に勤めている人の場合はもっと厄介です。
学生さんの場合、あなたの親は「あなたを養っている」として、税金が安くなっている場合があります。
つまり、あなたがたくさん稼いで「養う必要がない」と判断された場合、その分の税金を払うことになるのです。あなただけでなく、あなたの親もです。
もちろん、そうなるにはかなりの稼ぎが必要ですが、あなたがアルバイトをしていたりすると、意外と超えてしまったりもします。そうなったら大変なことになるのは、想像に難くないでしょう。そうならないために、きちんと調べておきましょう。
会社に勤めている人の場合は、さすがに自分で調べていらっしゃるかもしれませんが、念のため確認しておきましょう。
あなたの会社は、「副業」が可能な会社ですか?それを申告する必要はありますか?
少額であれば許されるケースもありますが、下手をすれば懲戒や減給になる場合もあります。最悪の場合、職を失うことになりかねません。
許されるラインは様々ですが、後ろ暗いことはしないに越したことはありませんので、しっかり調べておきましょう。
買った人への配慮
あなたのがシナリオを販売するということは、あなたのシナリオを買うために、誰かがお金を払うということです。
さすがに使いまわしすぎですか?でもこれで最後です。
お金が絡むと、トラブルが発生する可能性は上がります。
それらの原因の中で一番多い(と思われる)のは、シナリオの値段と、買った人が思う価値がズレてしまった場合です。
重ねて言いますが、シナリオを書くのはとても大変です。
また、あなたがシナリオを販売するにあたって、誰かにイラストを依頼したり、資料を買ったりした場合、販売価格でそれらのお金を回収したいと思うでしょう。そうすると、高額になってしまうこともあると思います。
しかし、買う人の視点に立った時、あなたのシナリオに、その金額を払ってもらう価値があると自信をもって言えるかどうか、意識することも大切です。
もちろん、あなたのシナリオにその価値がないと言っているわけではありません。シナリオに限らず、売買をする場合……特に芸術分野では、作った側のコスト感覚と、買う側のコスト感覚はとてもズレやすい、ということを言いたいのです。
同じくらいの価格帯の娯楽や食べ物と比べて、どれくらいの満足感があるか考えるクセをつけておくとバランスを取りやすくなるでしょう。
特にTRPGのシナリオは、本や映画と違い、基本的には「遊ぶことで価値が生まれるもの」です。
「買ったはいいものの、結末が好みではなくて遊べない」となった場合、その人はそれだけ損をしてしまうことになります。そういった事態が起こらないようにするには、工夫が必要です。
不満を持たれないための工夫
現在主流の頒布方法は、「買うまでは中身がほとんどわからない」ところで、買う側の人にとって、かなり不利な状態です。
一般的な人は、その状態でお金を払うのは、とても慎重になります。
もちろん、買うと決めたのはその人ではありますが、その内容が値段に沿う価値がない(と思われてしまった)場合、不満は作者であるあなたに向くことになります。そうなりたい人は、ほとんどいないはずです。
……いないですよね?詐欺はいけませんよ。
そうならないための工夫をいくつか紹介しましょう。
★試し読みをつける
中身がわからないのが良くないのであれば、中身をわかるようにしてしまえ、という考え方です。
無料である程度まで読めるようにしてしまいましょう。
この手引きであげた構成で言うと、「進行役に知っておいてほしい情報」までと、「シナリオ本文」の冒頭あたりを入れておくとよいでしょう。
そこまで読めれば、買う人も、あなたのシナリオの書き方についてある程度把握することが出来るはずです。買うかどうか判断する材料はかなり増えます。
とはいえ、結末や道中はわからないため、満足できない可能性はまだありますので、注意は必要です。
また、公開する内容については、機械的に「ここからここまで」とするのではなく、見られたくない部分は隠してしまっても構いません。
どこまで見れば価値を感じてもらえるか、考えてみましょう。
★販売価格を分ける
これは画像や部屋素材など、シナリオ以外のものと合わせて販売する場合の工夫です。
例えば、素材とシナリオを一括で1,000円、とするよりも、シナリオ500円、素材500円とする方が、内訳がわかって安心感を持ってもらうことができます。
もしあなたのシナリオを買った人が、シナリオを読んで遊べないと思った場合、画像の素材やその他のデータはセッションを遊ぶためのものなので使えないことになります。そうなった時、1,000円の損よりはシナリオ分の500円の損の方が不満が生まれにくい、という考え方です。
ただ、この場合であっても、500円の損が発生していることは違いありません。そうならないことが一番ですので、価格は慎重に決め、試し読み等も合わせて使うことで価値を感じてもらえるようにしたほうが良いでしょう。
★遊んだ人にだけ販売する
パスワードを駆使したりURLの公開方法を工夫して、遊んだと確信が持てる人にだけ販売する方法です。
買う側の人もシナリオが楽しいと確信したうえで購入できるので一番安全ですが、一番難しい工夫でもあります。
まず購入してもらうためにはあなたが進行役として遊んでもらう必要がありますし、それ以降も相手が遊んだかどうかを確認してから案内をするので、とても手間をかけることになります。
これについては「こういう発想もあるのか」という程度で認識しておきましょう。
8.公開サイトの紹介
さて、それでは公開するときのサイトで、よく見るものについてもご紹介しておきましょう。あくまで主要なもののみですので、ご自身でも調べてみてください。
BOOTH
公開方法 :データ配布・同人誌の配布
値段 :無料・有料ともに可
取り扱い :TRPG以外も取り扱いあり
SPLL :対応
よく見かけるサイトです。
出品数がとても多く、シナリオを探すときは初めにこのサイトを見る、という方も多いのではないでしょうか。
無償・有償どちらでも対応可能で、データファイルだけでなく、同人誌の出品もできるため、複数の方法でシナリオを公開したい場合は、ここを検討してみるとよいでしょう。
TALTO
公開方法 :データ配布・直接投稿
値段 :無料・有料ともに可
取り扱い :TRPGのみ
SPLL :対応
これもよく見かけるサイトです。
筆者はここをよく使っています。
魅力は直接執筆するときに機能が豊富で見やすいのと、PDF等も登録ができる点です。
TRPGに特化しているため、システムによっては権利表記などを自動で入れてくれます。とても便利です。
Ambass
公開方法 :データ配布のみ
値段 :有料のみ
取り扱い :TRPG以外も取り扱いあり
SPLL :対応
デジタル販売に特化したサイトです。あまり詳しくはないので説明は控えさせていただきますが、意外と件数があります。調べてみるとよいでしょう。
pixiv
公開方法 :直接執筆のみ
値段 :無料のみ
取り扱い :TRPG以外も取り扱いあり
SPLL :未対応
オタクをやっていればおなじみのサイトですね。
実はBOOTHやTALTOなどの販売サイトが出てきたのは最近なので、それまではここにもかなりのシナリオが投稿されていました。最近でも時々新作が投稿されています。
「小説を読むため」の機能が豊富なので、読みやすいのが特徴です。ルビも振れます。
DLsite
公開方法 :データ配布のみ
値段 :無料・有料ともに可
取り扱い :TRPG以外も取り扱いあり
SPLL :対応
実はここもSPLLに対応しています。
実は、と言ったようにあまりTRPGのシナリオの取り扱い先としての認知度は高くないのですが、登録者数は多いのではないでしょうか。
なぜ多いのか?……さあ、どうしてでしょう。
コノス
公開方法 :同人誌のみ
値段 :有料のみ
取り扱い :TRPG以外も取り扱いあり
SPLL :対応
こちらは同人誌のみになります。ボードゲーム等のアナログゲームに特化した販売店さんで、TRPG同人誌の取り扱いもあります。
ブログもとても面白いので、ぜひ覗いてみましょう。
9.もしあなたのシナリオに否定的な意見が来てしまったら
これは本当にない方がよいことですが、念のため記しておきます。
あなたのシナリオに批判がきてしまったときの指針です。
シナリオを公開するということは、不特定多数の目に入るということ。
あなたのシナリオが原因でたくさんの否定的な意見が来てしまうこともあるかもしれません。
あなたに否があるかどうかは、なってみないとわかりません。
もしかしたら相手が面白がっているだけかもしれませんし、あなたが気づかないうちに、何かマズいことをしてしまったのかもしれません。
もしそうなってしまった場合は、とても取り乱してしまうと思いますが、慌てて行動するのは控えたほうがよいでしょう。
とはいえ、無視もよくありません。
そうしているうちに、どんどん話が広がって、取り返しがつかないことになってしまうこともあり得るからです。
まずは「意見をいただいたこと」「真摯に受け止め、対応したいと思っていること」「対応に少し時間がかかるかもしれないこと」を伝えましょう。
可能であれば、配布の窓口を一度閉じるか、配布用のページの目立つところにも、上記の文言を入れることも視野に入れましょう。知らないうちに購入してしまった人が損をするのを防ぐためです。
そして、一旦気持ちを落ち着けましょう。
慌てて対応しても、適切でない対応をしてしまうかもしれないからです。あなたの心を守りましょう。
あまり長くは待たせない方がよいですが、あなたの気持ちが落ち着いたら、届いた意見について、何が問題になっているのか調べてみましょう。
色々な人の意見を見て、あなたが対応可能かどうか考えます。
もしかしたら悲しくなるかもしれませんし、腹が立つかもしれませんが、けんか腰で対応したり、感情的になるのは控えたほうがよいでしょう。火に油を注いでしまいます。
あなたが対応できる範囲を考え、真摯に対応すれば、きっと相手もわかってくれるはずです。
もちろん、相手の要求を全て飲めばいいというものでもありません。冷静な頭で、できれば他の人とも相談しながら、現実的なラインを探っていくのがよいでしょう。
そして結論が出たら、そのことを報告しましょう。
それでもまだ批判が届く場合は、専門家に相談をしましょう。お金はかかりますが、弁護士の先生であれば、真摯に対応してくれるでしょう。あなたの対応がまずかったのか、相手が悪いのか、明らかにしてくれるはずです。
大変かもしれませんが、悪意がなかったのであれば、そして真摯に対応する意思があるのであれば、どんなにまずいことをしてしまったとしても、あなたの心は守られるべきです。
あなたのさいわいを願っている人間は、ここに必ずひとりいます。忘れないでいてください。
10.あとがき
さて、勢いにまかせて始めた手引きでしたが、ずいぶんと長くなってしまいました。
ここまで読んだ方も、とても疲れていると思います。お疲れさまでした。
もしかしたら不足があるかもしれませんが、そこは個人が作成した手引きということでご容赦ください。
もし追加したほうがよい内容があれば、場合によっては追加させていただきます。
あなたが素晴らしいシナリオ書きになれることを。
そうでなくても、楽しいTRPGライフを送られることを願っています。
空乃 (X @soranomnmn)