◉【おもてなしに学ぶ】(茶道家メモVol.22 無鄰菴)#54
南禅寺の帰り道、ふらっと無鄰菴(むりんあん)を訪れました。
無鄰菴は京都の東山を望む岡崎地区で南禅寺の西側にあります。ここは琵琶湖疎水(琵琶湖の湖水を西隣の京都市に流すため、明治時代に作られた水路)からの流れをとりこみ、山縣有朋(やまがたありとも)が細かく指示を出してこだわって造られたといわれています。
欧米視察などを経て取り入れた形式ともいわれていて、京都の近代化にも強く影響されたそうです。
無鄰菴は、庭園と母屋・洋館・茶室の3つの建物で構成されています。
それまでは、庭園は池を海に、岩を島に見立てる象徴的にもちいたようですが、この庭園では懐かしい風景や原風景の川の流れをもつ自然主義的な観点をとりいれて造園されたと聞きました。
南禅寺界隈の別荘群のなかで唯一通年公開されている庭園で、1951年に国の名勝に指定されています。
「この庭園の主山というは喃(のう)、此前(このまえ)に青く聳(そび)える東山である」
山縣有朋は優れたデザイナーでもあったと伝えられています。
この庭は、すべてが東山を軸につくられています。向こう側の山と庭園がつながっていました。
「苔によっては面白くないから、私は断じて芝を栽(つく)る」
苔の美しさが京都の庭の美だといわれていた時代、山縣有朋はお好みの芝をおきました。
何気ない芝生も、その時代の京都の人では理解できない常識を破ったのです。
無鄰菴の明るい芝生の空間演出は、当時の英国の自然風景式庭園にも近かったのでしょう。
ただ、造園からしばらくすると、京都の高湿度の環境に苔は成長していくのです。
「苔の青みたる中に、名もしらぬ草の花の咲出たるもめつらし」
山縣有明の詩心も魅力的で、時が経つごとにその美を受け入れていく情景が目に浮かびます。
現在では、多くの種類の苔が絨毯のように織りなされ広がっているのです。
無鄰菴の名前の由来は、論語からという説もあります。
「徳は孤ならず、必ず隣あり」
徳のある人には、必ず理解者や協力者が現れるということです。
高潔な人や実直な人はとかく近寄りがたく敬遠されがちだが、真に徳がある人には教えを求める人や支持する人が集まってくるという教えです。
この話は茶道の世界観にも通じているのではと感じました。
お茶の世界観を紐解く茶道には自らを整えることにとどまることなく、同じ空間に同じ時を過ごす相手に対する配慮や相手に喜んでもらえるよう、茶人にとっても相手にとっても、一期一会の人格形成の旅路にある人間関係学だと思います。
おもてなしは心身ともに幸せになる為の人間関係学だと感じています。
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