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英国見聞録[機能性ディスペプシア闘病記-4]
金八先生のドラマにハマって、毎朝1時間、お説教を存分に味わってから登校するのがルーティーンになった。
学区のハズレに住んでいたから、徒歩30分ほどかけて登校していた。
行き帰りの時間はずーっとイヤホンで海援隊の曲を聴いていた。
校則違反である。
懐かしのMDウォークマンである。
校則違反である。
海援隊のCDのみならず、武田鉄矢さんの著書も全て集め、すっかり傾倒してしまった。
金八先生と武田鉄矢さんは別人であるのは百も承知で、それぞれ欠点も含めて素敵だと思っている。
2年生になってもいじめは相変わらず続いていて、特に1年から所属していたバスケ部での関係性が辛かったため、帰宅部になった。
夏休みを控えた時期、住んでいた自治体に、中学生を毎年イギリスに短期留学させる事業があることを知った。
1次選考の作文、2次選考の面接をクリアした10名強のメンバーが、2週間ほどホームステイをさせてもらえるのである。
気分転換にちょうどいいかな、と思い、応募した。
すでに当時、鉄矢さん原作の『お〜い!竜馬』を読んでいたため、「黒船に出会った坂本龍馬のように、異文化を吸収して自分の人生と社会に役立てたい」と猛烈にアピールして、選考をパスできた。
初めて飛行機に乗った。それも国際線である。
飛行機のトイレの水流は勢いがすごく、このまま機外に吹っ飛ばされるのではと怖くなった、と、うん、そんなことしか覚えていない(哀れ)。
初めての異国の夕陽は美しく、同室の友人と嬉々として写真を撮った。
当時は携帯電話がまだ普及していなかった。
インスタントカメラ、という名称で合っているだろうか。
ギーギーとフィルムを巻く仕様のものであった。
あちらは日本の軟水と違い、ミネラルの含有量が多い硬水である。
飲料水の質が全然違いすぎた結果、初日から下痢が止まらなかった。
同室の友人がグーグー寝る横で、一晩中便器と仲良くしていた(哀れ)。
なんでトイレの話ばかり出てくるのか。
グリニッジ天文台やトラファルガー広場、ビッグベン、オックスフォード大学などを見て回った。という記憶はあるけれど、トイレほど鮮明には覚えていない。
ホームステイ先は母親と、7歳&5歳の兄弟のいる家庭だった。
あと、ドーベルマンが1匹。
こいつに睾丸を噛まれそうになって必死で避けて、ギリギリジーパンに穴が空いただけで済んだのだ💢
勝海舟になるとこだったのだ(睾丸を犬に噛まれて1つ失っている)💢
余談だが僕の本名は勝海舟にちなんで付けられている。
だーからこーいう目に合うんだ💢
この兄弟もヤンチャで、僕が眠っている横で財布からお金を盗もうとするので、日本語でわめいて叱った。
英語で怒る語彙力がなかったのだけれど、こういう時は訳のわからない言語で勢いで押した方が有効なのだと思った。
あちらのコンビニの寿司はガチガチに機械でプレスされており、形も食感も消しゴムのようだった。
イクラも全て潰れていて、中の液体がしみ出ていた(哀れ)。
しかもタイ米である。ボソボソである。
噂通り、イギリスの料理は全く美味しくなかったため、マクドナルドなどチェーン店に通った。
ホームステイも後半になると、つたない英語力ながら意思疎通ができるようになった。
とりあえず断片的な単語、そしてボディランゲージと勢いでなんとかなるのだな、とだいぶリラックスしてきたのを覚えている。
学校生活では閉塞感を覚えていたけれど、最悪、こうやって場所をガラリと変えれば希望はどこにでもある、と開き直れた2週間だった。
夏休み明け、生徒会の会長に立候補した。
生徒会長をいじめる奴はさすがにいないだろう、と帰りの飛行機で思いついた策を実行したのである。