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さよなら、浪漫に焦がれた──
推しが死んだ。私の中で決定づけられてしまった。大きな画面で、自身の半身に決定打を打つ為、その身を捧げた彼は光の粒子となって消えていく。主人公が、ずるいよと泣きそうな声で男を追求した。それに対し、やや困ったように微笑んで彼はその目尻に浮かぶ涙を拭う。
どうして、どうして、彼は消えなければならないのだろうか!
シートに腰をどうにか押し付けながら、私は憤る。零れ落ちる雫は、止まることを知らず、私の頬を濡らしていく。推しを見るのだと、いつもはしないメイクがきっと見るも無残なことになっているだろうが、私は乱暴にタオルで拭う。
無駄死にだと、ラスボスは嘲笑う。うるさいと、叫びたかった。無駄死になものか。無駄死にであってたまるか。お前が、彼の心を図れなかったばかりに、彼は死んでしまったのだ!主人公は、相棒の遺したモノを振るう。彼の胸には、彼の道を作り上げた、二人の犠牲の灯火が点っている。その彼の道を、多くの縁の証が紡いでいく。それは、拳であり、剣であり、弓であり、槍であり、魔法であり、盾でもある。
獣であった存在に、主人公の想いは届いた。ラスボスは、その権能を彼の犠牲により剥がされた。そう、無駄死になんてものは、無かったのだ。
私は推しの死を初めから知っていて、その物語を手に取った。私の前には多くの先人達が、その物語を手に取っていて、その記録を電脳状に遺していた。私は、それを見ていた。故に、彼の死の前で、私は背を向けた。認めたくなかった。進んでしまえば、きっと彼の死に向き合わなくてはならないから。後に始めた友人が、私を追い越しても。私は、ただ足踏みをして、その死から目を伏せた。
そうして、ある日、思い立った。そろそろ彼と向き合うべきだと。もう忘れてしまったそのきっかけは、きっと、そこから先の未来の物語で出来た推しを見たかったからだ。浮気性と罵られても仕方がない。私は、進めた。始めてしまえば、止まらなかった。苦しくて、苦しくて。そして、彼は私の小さな世界から姿を消した。記録はあるのに、そこから先にはいなくて。その日、私は胸の痛みを抱えて眠った。
その物語が、映像化すると言われたとき、私はああ、見れないと感じた。それと同時に、見たいとも。相反する気持ちを胸に、その日を焦がれた。
そして、推しは死んだ。もう年甲斐もなく泣きじゃくった。声を殺して、ただ幕引きの音楽を聞きながら、彼の死を悼んだ。
そして、ノートを開いている。ただ、気持ちを書きなぐっている。彼は全能を疎んだ。人間の今を一生懸命に生きるその輝きを愛した。
確かに彼は、愛多き王だった。そして、平凡な男だった。
さよなら、浪漫に夢を見たただ一人の男よ。私は、貴方にきっと恋をしていたのだと思う。気がつくのに、三年も掛かった。それに、不毛で、叶わない恋だ。始まる前から終わっていた。
けれど、今でも貴方の帰りを待っている。待ち焦がれている。でもどうか、今は。ゆっくりお休み。