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「ミラクル」でも、ましてや「ミステリー」ですらなく

《ミラクルとミステリーの扉》。


デュエプレ界隈は今や、このカードの話題で持ちきりである。
SNSでは今日も、このカードを使用したデッキタイプに対する怨嗟の声がそこかしこから聞こえてくる。

流れてくる様々な意見に身が押し潰される前に、ここは1つ、まずは自分なりのこのカードに対する見解を示しておきたいと思い、筆を取った。

他人の「思考の整理」を覗く程度の軽い気持ちで読んでもらいたい。


・「ミラクル」?

まずは《ミラクルとミステリーの扉》というカードの性質について考えてみる。
"山札の上から4枚を見て、その中のクリーチャー1体を相手に選ばせ、選ばれた1体を踏み倒す"
パッと見は運否天賦、文字通りの『ミラクル』を前提としたカードに見える。
が、実際の所、そんな正攻法でこのカードを使用するのはナンセンスの極みである。そしてカードゲーマーはいつだって"ズル"のできる領域を見つけ出す習性の元に生きている。
《ミラミス》のハック、それは『このカードを使用する側が踏み倒しの選択肢を提示する』という性質を利用する事。
この性質が存在する限り、構築を工夫すれば《ミラミス》の出力を(ある程度の所までは)運に任せる事なく思いのままに行使できる。
つまり、あらかじめデッキの中に《ミラミス》の外れになるようなカードを入れず、選択肢そのものを狭めておけば、実質的な確定踏み倒しカードとして扱う事ができるようになる、というカラクリだ。

ここにおいて、《ミラミス》は単なる『ミラクル』に頼るカードではない事が分かる。
それは同系列のガチャカードとして語られる《ホーガン・ブラスター》や《ミステリー・キューブ》とは一線を画している事を意味している。
構築を縛った上で最後の瞬間まで運が絡み続け、踏み倒しすら確定しないこれらとは違い、《ミラミス》は構築を工夫さえすればほぼ確実に『踏み倒せる』所までは行けるからだ。

・「ミステリー」?

また、「デッキ内のクリーチャーをファッティに絞る」というやり方は、『相手に踏み倒し先の選択権を与える』という《ミラミス》のカードコンセプトすら超越する。

そもそも、見せた4枚の中にクリーチャーが1枚しかないのなら、選択の余地など無くそのカードが降臨するだけだからである。
その場合、このカードは『ミステリー』ですらなく、「"明白"な"運命"」を告げるだけの踏み倒しマシーンでしかない。

これらを総合すると、《ミラミス》を使用する為に構築を特化させた【ミラミス】というデッキは、単なるガチャデッキ以上の性質を持っている事になる。

・「ミステリー」に至る病

先述の通り、【ミラミス】は《ミラミス》を使用する為に特化した構築であり、そのデッキビルドのロジックには『ミラクル』の挟み込まれる余地はない。

だが、デッキビルドの段階ではそうでないとしても、実戦においてはどうか?

ここで『踏み倒される側のファッティ』の事情が関係してくる。
現在の【ミラミス】におけるファッティとしては
《神聖貴 ニューゲイズ》
《ニコル・ボーラス》
《偽りの王 ヴィルヘルム》
《勝利宣言 鬼丸「覇」》
《完全不明》
などが採用されがちだが……
これらのカードの強みとそれが発揮されうるコンディションは、厳密にはそれぞれ異なる。

いつ場に出ても強力なのは《ヴィルヘルム》《ニューゲイズ》くらいで、例えば《ボーラス》は相手にハンドがない状況で場に出ても何も起きず、トリガー《ミラミス》から出ても攻撃を止める手立てにはならない。
《鬼丸「覇」》も同様で、自分のターン中に場に出た場合と相手ターン中に場に出た場合でバリューに大きな差が生まれる。自分ターン中に出た所で、EXターンを獲得できなければ享受するのは強大なリスクである。
《完全不明》だって、シールドが割り切られた際のトリガー《ミラミス》で場に出ても意味のないカードだ。

《ミラミス》は確かに"奇跡"を祈るカードではない。というより、構築の段階で起こる奇跡を選別する事ができる。
だが、いくら当たりだけを用意したクジだとしても、採用したそれぞれのファッティは当然それぞれ出来る事が違い、解答となる状況も違うのに、《ミラミス》はそれを選択する事ができない。

《ミラミス》の抱える一番の運要素はここである。
どこまで構築でミラクルを排そうとしても、こと実戦においてはあらゆる裏目に至る事が、ほぼ必ずと言っていいほどある。

そして、そんな《ミラミス》の抱える弱点が最も顕在化しない状況が、『相手がシールドを刻んだ際のトリガー発動』というコンディションなのである。この状況ならばどのファッティが出ても強力無比であるからだ。
だがしかし、【ミラミス】と対峙する側は、《スパーク》系と天秤を掛けてこの行動を選択せざるを得ない。故にこの行動を行う時こそ最もプレッシャーが掛かり、最も《ミラミス》というカードの理不尽さを実感するタイミングとなる。

こうしたカードロジックのズレによって、《ミラミス》使用者側は自分ターン中の使用に嫌気が差し、《ミラミス》に対峙する側はシールド攻略時に必要以上のプレッシャーと不快感を覚える。

それぞれが《ミラミス》に対する不満を抱えながら、視線のズレたロジックの上で議論を交わしていく。

・ありふれた「ミラクル」

また、こうした【ミラミス】デッキの使用を選択するプレイヤーがランクマッチにおいて想像以上に多い事もプレイヤー間の不満に繋がっているのだろう。

【ミラミス】は従来のガチャデッキほど「ミラクル」に頼るデッキではないが、先述の通り実戦面において「ミラクル」に頼らざるを得ない、所謂「都合のいい引き」を行わなければならない状況が存在する事は否定できない。
また、デッキビルドロジックを差し引いても、【ミラミス】というデッキの在り方からして
「どの対面にも勝て、どの対面にも負け得る(そしてその勝ち試合の大半は相手側に理不尽な負け方として捉えられる)」
という可変相性であり、そういったデッキは特に上位層には好まれにくい。

そんなデッキがランクマッチにおいて高確率でマッチングするデッキになったらどうなるか?

https://mtg-jp.com/reading/translated/ld/0018263/

これはデュエル・マスターズの兄弟TCG「マジック・ザ・ギャザリング」の禁止制限声明である。
ここに書かれている《霊気池の驚異》というのが《ミラミス》のような踏み倒しカード、《エムラクール》というのが踏み倒し先のファッティと捉えてほしい。

要するにこの文章は、実際のゲームプレイの試行回数に晒された際の踏み倒しデッキの在り方に言及している。
開発のテストプレイで複数回使われる程度であれば「面白い」と反応できるカードに対しても、競技的な視点が入るほど、あるいは単純にプレイ回数が重なるほどに不快感だけが募っていく。それはまさにDCGにおける踏み倒しカードへの反応に近しい。
ありふれた「ミラクル」など、身に受ける側にはもはや不愉快しか感じさせない。
現実のカードプレイですらこれなのだから、DCGのランクマッチのような膨大な試行回数の中で、こうしたカードが槍玉に挙げられてしまうのも納得だ。

また、この《霊気池の驚異》自身が禁止された制限改訂では以下のような文章が綴られている。

https://mtg-jp.com/reading/publicity/0019023/

この文章は、【ミラミス】における4t《ボーラス》・《ヴィルヘルム》と同列の問題を扱っていると読み取る事ができる。

【ミラミス】というデッキは確かに"強力すぎる"デッキではない。実際全体の勝率としても大した事はないだろう。
だが、「早期にファッティが着地し、ゲームが破壊される」というその在り方について、ここでは問題視されている。

特に《ミラミス》のような相手に選択権のある効果においては、相手のリソース領域が広がっていない序盤にファッティを叩きつける事こそが常道であり、そこにおいてこの問題は大きく立ち塞がってくる。

すなわちこの声明は、運営視点においても【ミラミス】は出来るだけ避けたいゲーム体験になり得る、という事の証左でもあるのだ。

・「開く扉」

ここまでつらつらとまとまりのない文章を書いてきたが、私個人の意見としては、《ミラミス》というカードそのものに大きな問題があるとは思わない。

今までのガチャカードに比べて《ミラミス》にはロジックが存在し、それを綿密に調整しなければ途端に瓦解する……というのは、自分自身【ミラミス】デッキを調整していて感じた事でもあるし、運否天賦に任せて使うような使い方はやはり強く思えないからだ。

【ミラミス】というデッキを考える事の面白さ、そして何処までもままならないその我儘さに翻弄されるのは楽しい。
このままならなさを自力で発見する喜びは確かにあった。

だが、そもそもの【ミラミス】の絶対数が多い現在、一方で、そういった段階を経ずにただコピーリストの【ミラミス】を選択し、特に何も考えないプレイングながらアームの力だけで勝利する、そうしたプレイヤーも確かに存在するのだろう。

所詮はゲームに過ぎないのだから、別にそれが悪い事だとは思わないが……少なからず、そういったプレイヤーを良く思わない人もいるだろう。そして、この問題はそれこそが本質的な部分でないかと感じる。

「【ミラミス】を使うプレイヤー」という類型(タイプ)は、かつて【ライゾウ】や【モルネク】を使うプレイヤーに対して注がれていた視線と同じである様に私は思う。

「数が多すぎる事」から派生して、「勝者のピックするデッキではない」という烙印が押され、(存在するしないに関わらず)「【ミラミス】を使用する"量産型"プレイヤー」に対するイドラは形成されつつある。

だが、しかし既に《ミラミス》という「扉」は開いてしまった。
ならば、私達が選ぶべきは?

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