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《禁断》への挑戦

《侵略》がデュエル・マスターズへのハックを新たに仕掛けたギミックであったとしたら、《禁断》はDMにおけるポイント・オブ・ノー・リターン、すなわち、もう元のゲームには戻り得ない決定的な転換点だった。


遂にデュエプレにも《伝説の禁断ドキンダムX》が登場した。
TCGデュエル・マスターズにおいては初の『ゲームの開始時から、予めバトルゾーンに存在するカード』であり、登場と共にデュエル・マスターズというゲームの在り方を根底から変えてしまった、この《ドキンダムX》。

今回の記事ではそんな《ドキンダムX》のデュエプレ実装記念として、このカードが塗り替えたTCGデュエマの固定観念について振り返っていく。

・手のひら禁断解放

まずは《ドキンダムX》の基礎スペックについて見ていこう。

禁断解放前の形態である《禁断 ~封印されしX~》は先述の通り、デュエル・マスターズ史上初の『最初からバトルゾーンに存在するカード』としての特性を持つ。
これまた史上初のカードタイプである『禁断の鼓動』を持つこのカードは、そのままではバトルゾーンを離れないだけのただの置物に過ぎないが……
身に纏った6つの封印を剥がす事で、真価を発揮する。

《伝説の禁断 ドキンダムX》。
その身を縛る封印が全て剥がれた時、禁断解放によって全てのクリーチャーを封印する禁断中の禁断の存在。 
加えて種族なし、コスト99・パワー99999という従来のカードでは有り得ない異質なカードデザインに、初めて見た者全てが度肝を抜かれた。

ゲーム的な観点で言えば、火のコマンドを6体バトルゾーンに出す事で解放できる『ノーコスト全体除去持ち・SA・耐性付きTブレイカー』という、極めてゲームへの影響度が高い強力なカードと言えるが……

《ドキンダムX》が公開された直後、当時のプレイヤーにとっては、その下のテキストが問題だった。 

このクリーチャーがバトルゾーンを離れた時、自分はゲームに敗北する』。

つまりはそう書いてあるこのテキストは、このカードの本質的な強みを見失わせるのに十分な枷だった。

『ゲームに敗北する』とテキストに書かれているカードが強いものか。
かつて《ボルバルザーク》が引き起こした誤謬が、またしてもプレイヤーに襲いかかろうとしていた。

***

《ドキンダムX》の本質的な強さを検討する上で、プレイヤーが見逃していたポイントは2つあった。

1つ目は、『バトルゾーンに全体除去を放つ置物が常に存在し、機を窺っている』という状況の強さに対する認識が薄かった事だ。

ゲーム開始時からバトルゾーンにある、という事はつまり、あらゆるカードが抱える問題である『まずそのカードを手札に引けるかどうか』の確率に左右される事がない、という事実を意味している。
ゲーム開始時に《禁断》が封印6枚を付け、バトルゾーンに鎮座している時点で、ゲームに対する選択肢は確実に増える
《禁断》の封印を能動的に剥せるデッキにとっては、全体除去+SA・Tブレイカーが無から登場する可能性を残しておけるし、そうでないデッキでも39枚+《禁断》の構成にすることでデッキの圧縮を行える。

デッキボトムに行ってしまえば絶対にプレイできないカードが存在するこのゲームにおいて、ゲームの干渉度に対する保証としては最高級のものを持っているのがこの《禁断》というメカニズムだった。

加えて、《禁断》状態であればこのカードはどうあってもバトルゾーンを離れる事はない。
この特性によって、《ドキンダムX》になる前にこのカードの対処をする事は基本的にできない。
そのせいで、禁断解放後ならいざ知らず、禁断解放前は『干渉できない時点で無視しなければならない』のに、『解放のタイミングを意識してゲームメイクしていかなければならない』という、『見えている地雷』に対するアンビバレントなプレッシャーを相手に与える事ができる。

そして、そもそもの問題だが……

『相手に全体除去を構えられている』と分かった状況で、盤面にクリーチャーを並べる行動を積極的に行いたいだろうか?

《ドキンダムX》の強さはまさにここだ。
確かに封印は、コマンドが場に出次第強制的に剥がさないといけないギミックだ。
だが、そのコマンドの召喚スピードを調整する事で、ある程度自力で禁断解放のタイミングを見計らう事もまた可能である

例えば、《禁断》の上に封印を1~2枚残された状況で【バイク】の《レッドゾーン》達に攻撃を受けた時、ブロッカーを並べて受けに回ろうとするのがプレイヤー心理だろう。

だが、いくらブロッカーを並べようと、禁断解放によって全て封印されてしまえば水の泡だ。

面を作らねば攻撃をいなせず。
面を作っては禁断解放によって無に帰す。

【バイク】のような能動的なコマンド召喚+重量級生物による早期攻撃を行うデッキにおける、《ドキンダムX》の突きつけるこの2択は極めて強力であり、回避するのは至難の業なのである。

そして、プレイヤーが見逃していた2つ目のポイント。
それは実戦的な禁断解放のタイミングだ。

先ほど『禁断解放のタイミングは自分である程度操作できる』という事を述べたが、その通り、《ドキンダムX》が場を離れて負けるテキストを持つなら、『負けないタイミング』あるいは『本来なら負けていたタイミング』に焦点を当ててそのタイミングで禁断解放できるように調整すればいい。

その点、封印6枚という《禁断》解放の初期条件は、クエスト系カードとしては極めて適度な難易度に設定されていた。

封印6枚が解放されるという事は即ち、火のコマンドを6体場に出したという事、それはゲームの速度帯に読み替えれば大体中~終盤だ。

それは正しく、『どちらかのプレイヤーが勝利せんとしている』状況に他ならない。

【バイク】のような攻めっ気のあるデッキにおいては前述の様に、リソースが切れ優勢が揺らぎそうな時、禁断解放で受け手の面を無に帰し大型SAで押し切る手段として。

【モルネク】のようなミッドレンジ以降のデッキでは、《ボルシャック・ドギラゴン》による革命0トリガーからの禁断解放カウンターで負け状況をひっくり返すギミックとして。

今年のTCGデュエマは『逆転こそがカードゲームだ』を標語としているが、まさに《ドキンダムX》が齎すのは、昏く燿る逆転そのものだった。

そして、デュエル・マスターズは机上論を戦わせるゲームではなく、自らが机上で戦うゲームだ。

机上論では《禁断》に懐疑的な視線を向けていたプレイヤーたちは、実際にその力を手にするとすぐさま上記の事を理解し、《ドキンダムX》の評価を改めた。

《ドキンダムX》の力は、プレイヤーたちの手のひらすら禁断解放させてしまったのである。

・《禁断》というタブーを犯す

しかし、《禁断》がひっくり返したのは発売前のプレイヤーの認識だけではない。

そもそも、《禁断》の持つ特性である『設置型カードタイプ』。これこそが、カードゲーム的禁忌を破る禁断の一手だった。

まず大前提として、《ドキンダムX》の切り開いた道に倣って、後発の設置型カードタイプとして《終焉の禁断ドルマゲドンX》と《零龍》が登場している。

これらには『クエスト達成後に全体除去を放ちつつ大型生物へと変化する』という共通点があり、いずれも章ラスボスの使用カードである。

これらの云わば先駆けとして登場した《ドキンダムX》。公式資料によればこのカードは、1枚のカードとしては異例の、テキスト開発に6ヶ月の月日を掛けた事が回想されている。

逆に言えば、開発にそこまでの時間を掛けなければいけなかったのがこのカードなのだ。
では、一体それは何故か?

理由はシンプルだ。調整が疎かになってしまえば、簡単に壊れてしまうからである

前項で触れた内容として、設置型カードタイプの特徴は『必ずゲームに関与する』事である。
この特性を持ったまま、《ドキンダムX》の『火のコマンド』のように、デッキを強く縛る事無く運用できるようなデザインになってしまった場合、何が起きるだろうか。

そう、積み得カードになってしまうのだ。
デュエル・マスターズは色やマナコストなど様々な制約によって多彩なカードを採用する余地を常に担保している。そんなゲームにおいて、あらゆるゲームに関与し、そのカードがあらゆるデッキで運用できるようになれば、それはゲームの多様性そのものを否定する劇薬、否、毒薬になってしまう。

だが、その反対に、デッキを更に強く縛る代わりに更に強大なインセンティブを与えるデザインにしてしまうと、今度は特定デッキに対する優遇が酷くなり過ぎるがあまり一強環境への懸念が発生する。

特に《ドキンダムX》達が持つ全体除去、これがあまりに簡単に使用出来てしまうと、『盤面にクリーチャーを並べる』というデュエマにおいて最も普遍的な行動を完全に拒絶する、言うならば自家中毒のゲームに陥る。

とにかくこのカードタイプはゲームに与える影響が他のカードタイプと比べて大きすぎるが故に、メリット・デメリットの設定・調整が極めて難しいのだ

それらを危惧したからこそ、《ドキンダムX》や『封印』の仕様は極めて慎重に検討されたのだろう。

結果として、封印6枚、強制敗北のデメリット、パワーと比較して慎ましやかなTブレイカーなど、一見すると『弱そう』とプレイヤーが思ってしまう程のテキストを持つ《ドキンダムX》が誕生した。

だが、その実は、何をしても壊れかねない『設置型カードタイプ』の嚆矢として、ギリギリでバランスを取る綿密な調整が重ねられたのがこのカードという訳だ。

『《禁断》への挑戦』。

それは後に《ドルマゲドンX》や《零龍》へと繋がり、《13番目の計画》のようなルールプラスタイプにまで影響を及ぼしている。

そのタブーを犯した事が正解だったのかどうかは、今後のデュエル・マスターズ、もしくは革命編最終章に突入したデュエル・マスターズプレイスが明らかにしていく事になるのだろう


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