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オルタナティブ・タイム
《禁断機関VV-8》と《時の法皇ミラダンテXⅡ》。
強力無比な殿堂カードとして知られるこの2枚は、実は両者ともパック『革命ファイナル第2弾 世界は0だ!ブラックアウト』に収録された同期のLEGENDレアだった。
無論、背景ストーリー上でも関係があり、『時を止める』能力を持つ《ミラダンテXⅡ》と『時を組み替える』権能を持つ《VV-8》の戦いは、革命ファイナル背景ストーリーの山場の1つだ。
だが、今回はそんなストーリーの都合から少し離れて、各々が持つそのカードテキストから、『時を操る』という事はどういう事なのか、なぜこの2枚は『時を操る』という点において対比された存在になっているのか、について、改めて考察を深めていきたいと思う。
奇遇な事に、デュエル・マスターズの歴史をなぞるDTCG『デュエル・マスターズ・プレイス』でも、おそらく今月この2枚が実装される見込みだ。
デュエプレでも展開されるであろうこの2枚の関係性に想いを馳せながらこの記事を読んでほしい。
1.『一度だけ、時を止める』
まずは《ミラダンテXⅡ》のカードテキストを確認してみよう。
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やはり目を引くのは、《時の革命ミラダンテ》の進化発展系クリーチャーとしてその面影を引き継ぐ『コスト7以下クリーチャーの召喚ロック』のテキストだろう。
《ミラダンテXⅡ》の持つ召喚ロック、そしてもう1つの能力である『光のコスト5以下呪文の無料詠唱』から《ジャッジメント・タイム》⇒《ファイナル・ストップ》と繋げ、相手の行動を全て封殺する事はデザイナーズのアクションとして設定されており、メディア上では『ファイナル・タイムストップ・デュエル』と表現された。
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そう、つまりこのアクションは『相手に何もさせない』=『時を止める』という解釈の元でデザインされている挙動なのだ。
ところで、デュエル・マスターズの歴史において『時を止める』、とフレーバーテキストで明示されている最初のクリーチャーと言えば何か、諸兄はご存知だろうか。
答えは《海王龍聖ラスト・アヴァタール》。
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《ラスト・アヴァタール》の持つフレーバーテキストは、自身の能力を説明する為の文章、いわゆる『効果フレーバー』と呼ばれる類のフレーバーである。
見ての通り、最後のシールドが破られる時、そのターン攻撃できる他のクリーチャーの動きを全て止めてしまうこの能力は、『敗北の運命を変える為、1度だけ時を止める』フレーバーテキストの内容と合致している。
《ミラダンテXⅡ》のロック能力と共通して、そのターンの行動を止めてしまうこの能力もやはり、『相手の時を止める』というテーゼを表現するテキストなのだ。
そして、《ミラダンテXⅡ》《ラスト・アヴァタール》の持つ青白という色、この色の持つ特徴こそが、『相手の行動の封殺』による『時間停止』の表現なのである。
2.『そして時は凍りついた』
翻って、《禁断機関VV-8》の時間操作性とは何だろうか。
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このカードの特徴的な部分といえば『禁断機動』だろう。
登場時に付いた3つの封印、それを剥がし切れば自身のターンをもう一度追加できるこの能力は、水文明のクリーチャーには珍しい(というより、《VV-8》が初である)『EXターン』獲得能力だ。
『EXターン』の獲得は、《無双竜騎ボルバルザーク》に始まり、《「勝利宣言」鬼丸覇》、《熱血星龍 ガイギンガ》のような主人公の切り札カードに受け継がれてきた能力だ。故に必然として、その能力は代々火文明が保有してきた。
だが、デュエル・マスターズの兄とも呼べる『原初のTCG』マジック・ザ・ギャザリングでは、EXターンの獲得は赤(火文明)と並んで青(水文明)の役割である。
実際に、《アクア・マスター》の開発時には『水文明にEXターン獲得能力を渡す事』が検討されたそうだが、当時は水文明全盛期、これ以上その強さを増長させる事を嫌った開発陣はその能力を《雷撃炎獣バーレスク》へと譲り渡し、今のように火文明固有のカラーパイとなった(そのせいで当の《アクア・マスター》の能力は悲惨なものになったが)。
そんな余談はさておき。
この《VV-8》の持つ『EXターン』獲得能力、そのテキストが示すフレーバー的な意味合いは『時間の凍結』、つまり『時を止める』事である。
例を挙げよう。
《ザ・ユニバース・ゲート》というカードがある。
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山札の上から3枚を確認し、その中のフェニックスの数だけEXターンを獲得する、この呪文のフレーバーに記されている文章は
『そして時は凍りついた』。
すなわち、『ターン』という時間的な概念を自身だけ何度も繰り返す事によって、相手に決して主導権の移らない"時間軸の固定"が成される、という意味合いを持っているのだ。
そして、"自分のターンを何度も繰り返す事"、その概念を裏返して捉え直すと、そこには"相手のターンが訪れない(1ターン中の相手の行動を不能にする)事"が暗に指し示される。
そう、ここにおいて、《ミラダンテXⅡ》の持つ『相手ターン中の完全ロック』は、《VV-8》の持つ『EXターンの獲得』とパラレルの状況になる。
相手の行動を縛り、時が止まったかのように錯覚させる事が青白の『時間停止』ならば。
自身のターンを永遠に繰り返す事で、誰にも平等に訪れる筈の"時間"すら与えないEXターンは、赤青なりのオルタナティブな『時間停止』の形と言えるのだ。
3.アナザー・タイム
ここまでで《ミラダンテXⅡ》と《VV-8》の対比性について論じてきたが、無論、この2体、あるいはこの色たちだけが『時間』に関するテキストを持っている訳ではない。
『時間』とはすなわちタイムアドバンテージの事を指す。
つまり、火文明の持つスピードアタッカーや自然文明のマッハファイター、あるいはマナ加速によりいち早く大型獣に辿り着く戦術もまた、『時間的概念』を扱うフレーバーの一部として捉える事ができる。
それらの"加速"を抑止する事ができる闇文明の『タップイン』能力は、前述の効果たちとは真逆の『遅延』の作用として見なす事ができる。
《停滞の影タイム・トリッパー》などを見ても分かる通り、時間を止めるまでには至らないとしても、時間を低速化させる事が可能であれば、勝利へ大きく近付く。
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闇文明の持つ効率主義的な思想は、大きなリソースを投じて得る『時間停止』よりも、より少ないリソースで成果を得られる『遅延』に向く傾向が強い。
各文明、特に光文明に多く備わる『コスト増加』系のメタカードもまた、これらの『遅延』的時間操作に分類する事ができるだろう。
その逆に、自然文明はより火文明のEXターンの概念に近しい、豪快なリソース力による『時間』の捉え方をする。
その代表的な例が『使用マナの全アンタップ』だ。
《ボルバルザーク・エクス》や《天地命動バラギアラ》を見ても分かる通り、これは自然文明の持つ莫大な生命エネルギーの奔流の表現であり、ゲーム的な視点では『実質的なEXターン』と見なす事もできる。
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事実、EXターンの第一人者とも言えるかの《無双竜騎ボルバルザーク》は元は自然文明のドラゴンであり、死に直面した結果他文明のドラゴンとの融合を図ったという経緯がある。
そのリメイクカードである《ボルバルザーク・エクス》が『使用マナの全アンタップ』というテキストを持つ事になった事は、この2つの能力が極めて近しい所にある事を示している。
あるいは、《終末の時計ザ・クロック》や《完全不明》のように、相手のアクションに合わせて直接的にターンを飛ばす『タイムトラベル』能力を持つカード郡も近年では現れつつある。
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水文明は古来からバウンスのようなテンポ除去を多く抱えており、それは度々『時間を巻き戻す』というフレーバーで表現されてきた。
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ターン飛ばしやEXターンの隆盛は、水文明がそれらの時間操作に長けている事を示し、そして現代、その急先鋒に位置しているのがバウンスと封殺を合わせ持つ《飛翔龍 5000VT》である事はもはや言うまでもないだろう。
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デュエル・マスターズのカードデザイン上において、これほどまでに多くの『時間を止める』能力の表現がある事は驚嘆すべき事実である。
そして、革命ファイナル第2弾『世界は0だ!ブラックアウト』では、この『時間を止める』概念を持つ2つの異なるテキストが、陣営を分かち相克し合っているのだ。
異なる過程を踏まえた文章が、同じ結論を指し示すこの妙味。
これこそがカードテキストを読み解く面白さであり、この文章でその醍醐味を少しでも伝えられたなら幸いである。