ツインギャラリー蔵「脈打つ指先」 オノマトペアート鑑賞会〈植田佳奈 作品群〉
ステートメント
制作中に起こる様々な現象(例えば乾燥時のヒビ割れや顔料の垂れた後など意図しなかったもの)を用いて作品を制作している。
完成イメージはなく、制作中に次の作品の手法が決まってくる。
そうして完成したものは自分の中の浜辺のような浜辺のようば場所から拾い集めてきたものなのだと思う。
2階の展示作品は旅先や工房で実際に拾ったものを並べた。もう一つの自分の浜辺も自分の視点や感覚が浮かび上がって見えてくる。
それが動くものと仮定してみることで、なにかが聞こえてくる
植田さんの作品は、何かを作ろうとして作るものではなく、その途中に偶発的に立ち現れたもの。そうして生まれてきたものは、彼女の感性によって選別されて作品となります。
だから、作品を見て「これはなんだ?」「なにを表しているのだ?」と考えるよりも「これ、面白いね」と共感することで植田さんに近づけるような気分になるのが面白い。
植田さんの作り出す作品には、様々な形、質感が備わっており、いろいろな感触が味わえる。硬質な陶の材質とは反対の柔らかなとろみや粒立った表面を見ていると、なぜか生きて蠢く生命力のようなものを感じるは私だけではないようでした。
みんなのオノマトペ
作品9/✴︎ 2024 陶
作品10/呉須染、陶衣、陶片練り込み 2024 陶
作品11/岩、岩+棒、岩+棒+棒、岩+球 2024 陶
作品14/象嵌一輪挿し
作品22/感覚の浜辺 2024 漂流物 陶
作品23/Hint 2024
ダイアローグ @4/27
・中心の点から外へ向かって触手のようなものが伸びたような印象を受けた(作品9)
・はとても乾燥した薄い表膜をイメージした。(作品10・タマゴ型)
他にも、いろいろな質感があってオノマトペがたくさん出てきた
・ゴツゴツした表面が大きな何かからこぼれ落ちたカケラに見えた
そこから転がる音を想像した(作品11)
・異素材のもの同士がピタッと重なったり、それを置くときにコツといったりしそうだなと思った(作品11)
・表面の細かく密度の高い模様が周りから真ん中に集合して、穴のところでポンと抜ける感じ(作品14)
・模様の細かさが、そこに至るまでの時間の長さとリンクして重さのようなものを感じた(作品14)
・作家さんの「好き」が集合している感じ 楽しくて嬉しい気持ちになる
いろいろなものが集合して楽しい感じ(作品22)
・たくさんの物が並んで、賑やかな感じ(作品22)
ダイアローグ @5/4
・チロリロリーンは、軽くてふたつが触れ合ったら、こんな音がしそう(作品9)
・動いたとしたらコトン、ハランハランと上から落ちてきそう(作品9)
・見た目とげとげ、触るとちくちく(作品9)
・小さくて可愛いトゲが、ピッピラピ〜とかピニョニョニョニョーと生えてきた感じ(作品9)
・ピンピンと活きがよく、ツンツンと突いてきそう(作品9)
・クルクルと転がりながら移動しそう(作品9)
・ツポッは、丸い陶の真ん中に、小さな穴が空いている様子 突然現れた穴(作品10)
・オンオンは、中の空洞に響く音のイメージ(作品10)
・んごごごご〜 みしししし〜 作品が自分で発している音(作品10)
・色々な質感が面白い ザラリ ザクザク ピリピリ ピシッ プツプツ(作品10)
・ガッガッガッと削ったような質感やポン・ピトッ・フワワワーッと柔らかなものの組み合わせで不思議な感じがした(作品11)
・なぜか、動き出すような気がして、ゴゴン ゴゲンゴガン ツツツツツと動いたときの音を想像した(作品11)
・まるごつ、違うものの組み合わせ なんでくっついているんだろう(作品11)
・ペトピトパニョ〜な感じ♪(作品11)
・ツルツルとした硬質なものとゴツゴツ、ザックリしたもの、トロリとした感じもあり、ちょっと口に入れてみたい(作品11)
・表面の感じとかたくさんある感じが、ぞぞぞぞぞぞぞぞ〜っ オオオオオオオオ〜っと感じた(作品14)
・見ていると、アアン ンンン…と何か胸に詰まったような気持ちになる(作品14)
・一方で、丸い形が並んでいる姿が、まるぴよな感じ(作品14)
・プスプスプス プシュシュシュシュー 真ん中の穴の感じ(作品14)
・ずっと見ていたら、少しずつ動いているように感じる ニュルリニュルリ ゾゾゾ ズワズワ ジワジワ シャワシャワ(作品14)
・いろんな小さなものが並んでいるものを、ひとつずつ見ていくと、ちく ぷっ すら まるっ 全部の感じがぞらーーッ チョチョチョ(作品14)
・ひとつひとつの表情が、くん… ケラケラ トツトツ カラカラ ザリンザリン、全体の雰囲気がフニャムニャヘニャハニャ てててててーん(作品22)
・わいわい がやがや、ワクワク きらり ワラワラと、賑やかさを感じる(作品22)
・一人の女の子の「好き」が集まった「ワクワク」感を感じる(作品22)
まとめ
全体として、子音が「p」や「c」、「t」、「k」、母音は「i」や「u」といった音が収縮するイメージの音が多く表出したように見えます。
小さな作品が多かったことが、関係しているのかもしれません。
しかし、作品ごとに見ていくと、そこには明確な質感の違いがあることがわかります。
作品9は、形状を捉えたツンツン、とげとげ、ピンピン、軽さを捉えたコトン、ハランハラン
作品10からは、パキパキ ピシッパシッといった乾いた硬質な印象から、
ザラリ ザクザク、プツプツといった表面の様子を捉えたオノマトペ。
ズワズワ ニューン、ゾーズゾーズ わわわといった動きのようなものもありました。
作品11は、異なる質感を組み合わせた作品であったことから、様々な質感の違いが現れましたが、面白かったのは、「大きなものの一部ではないか」発想から、ピタッ コツ だらーッが現れました。
2回目の鑑賞会では、そこから「これが動いたらどうなる」と新しい視点が生まれ、ゴゴン ゴゲンゴガン ツツツツツという表現が現れました。
さらに、作品14は表面の質感が有機的なものが多く、ぞぞぞぞぞぞぞぞ〜っ オオオオオオオオ〜っ アアン ンンン…
ニュルリニュルリ ゾゾゾ ズワズワ ジワジワ シャワシャワ など、生命体をイメージしている人が何人かいました。
陶という人工的に作り出したものではあるけれど、焼くという工程を経ることで火がもたらす変化を
生命力やエネルギーと捉えている可能性があるなと思いました。
そして、2階の作品からは、ひとつひとつの質感を捉えた、ちく ぷっ すら まるっ くん… ケラケラ トツトツ カラカラ ザリンザリン
あとは、ぞらーーッ てててててーん ワラワラ など全体の雰囲気を表現したものもありました。
一方で、わいわい がやがや フニャムニャヘニャハニャ ワクワク など、気分やムードを表現したものは、
作家の気分と同調して出てきたオノマトペなのかもしれません。
おそらく、これらを集めた作家の感覚は1階に展示された作品と共通の審美眼が働いていて、収集されたものを見ると、作家が1階の作品をなぜ作ったのかわかるのではないかと思いずっと考えてました。
でも、それはきっと言葉にできないもので、作家の手が探りあてた感覚が作品として立ち上がり、ものとして存在している。
その周りに漂っているものをオノマトペにして拾い集めてもなお、もやもやとした霧に包まれたままそこにあり続けるのだろうと思います。
鑑賞者がその感触を味わうことで、世界の彩りを感じ、共感することで豊かさを実感できる作品でした。