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「スロウ・ファインド・アウェイ」第5話


メグルは洋館を訪ねてからどうにも不安が拭えず、ずっとマドカのことをぐるぐるぐるぐる考えていました。

ミルクに浸したシリアルを食べながら考え事をしているとコーヒーを飲んでいる母から叱られてようやくスプーンを持つ手が動き始めます。

「そういえばマドカちゃんのおうち、召使いが1人残らず辞めちゃったって話だけど。メグルは何か聞いてる?」

「えっ......。」

「マドカちゃん昔からしっかりしてたけど、さすがにあんなに小さい子が1人で暮らすのは難しいわよね。」

「母さん、僕マドカのうちに行ってくる。」

「ええ、行ってらっしゃい。夕べに焼いたスコーンがあるから持っていきなさいね。」

メグルは母に渡されたスコーンをカゴに入れて、もう1度マドカに会いに行きました。


コンコン。コンコン。

「マドカ、いる?」

「いないわ、帰って。」

マドカの声はドアのそばから聞こえてきました。


「館で働いてた人たち皆辞めちゃったんでしょ?」

「そうよ、だからなに?私に口答えするから辞めさせただけのことよ。」

「でもこれでマドカは1人だよ。だから言ったでしょ、本当にひとりぼっちになるよって。」

「うるさい!どうせ私は初めから1人よ!!お父さんもお母さんもどこにもいないし、私を見てくれる人なんてどこにもいないの!!」


ドアの内側からは小さな女の子のか細い泣き声が聞こえます。

メグルがドアをそっと押してみると鍵はかかっておらず、俯いて泣いているマドカがいました。


「大丈夫。大丈夫だからもっと泣いていいよ。」


メグルは持っていたハンカチでマドカの涙を拭ってやりました。拭っても拭っても、マドカの目からは涙が溢れて止みませんでした。


ようやく落ち着いた頃にマドカはぽつりぽつりと話し始めました。


「ほんとはわかってたの、メグルが言ってることの意味。たくさん捨ててたくさん縁を切ってしまったから私も捨てられるし切られちゃう。皆私から離れていくの。」

「............わかってたけどやめられなかったの?」

「だって、大事にしていてもいつか壊れてしまうもの。一緒にいてもいつかそばにいなくなってしまうもの。ならいっそのこと全部捨ててしまいたかったわ。」

「そっか。あのね、マドカ。」

メグルはマドカの手をやさしく取って指先に青い指輪を付けました。

「ずっと生きていたら人が離れていくこともあるし、大切な物が壊れてしまうこともあるよ。でも僕はその人と過ごした時間も物への想い出もなにもかもムダだとは思わない。」

「好きだった人がそばにいてくれなくなるし、好きな物が以前とは変わってしまうのに?」

「離れてほしくないから大事にするし、変わってしまっても気持ちはそのままだよ。僕はマドカのことがずっと好きだしなにも変わってない。」

「私、ひとりぼっちよ。物も人も大事にしなかったからこの先ずっと独りよ?きっと皆謝ったって許してくれないし一生なにも大切にできないわ。」

「僕はマドカのこと大事にするから、マドカも僕のこと大事にして。その指輪を大切に付けていてくれるなら離れていかないから、約束。ダメならその指輪捨てていいよ。」

メグルが微笑むとマドカは堪えきれなくなってまた泣きだしました。
マドカの指先には青い指輪が幸福に光っていました。


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