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僕のプロテクター

はっはぁっはっゲホッゲホ。
大きく息を吸い込んだら、熱い熱気が入り込んできて、思わず咳き込んだ。青と赤どちらを選ぼうか迷っている優柔不断な信号を無視した子ども達が、私を追い越していく。 
 ー期待なんかするからいけないんだよー
今朝、電話越しに友人から放たれた冷めた言葉。たまたま上手く出来た化粧顔も、涙で泥を塗りたくられたようなみっともない顔になっていた。
 生徒が死んだ。自分の持っているクラスの子達の一人で、少し厚い黒縁メガネをかけた、焦茶色の柔らかくて軽そうな髪を持つ、優しそうな印象の男の子だった。でも、みんなとは違っていた。

 6月、いじめが始まりやすい季節だと聞いたことがある。それは、クラスも友達にも慣れてきた頃と関係があるらしく、「きちんと見張っとけ」とも先輩の先生方からも言われた。だからその通りにした。でも…。

 「先生、もし僕が、いじめられてるなんて言ったら、どうしますか?」 
なんではやく気づいてくれなんだよと訴えるような、そんな眼差しに言い訳をするとしたら、見た感じ楽しそうだったし、怪我なんてしているように見えないから。
 とは言っても、実際何も言えなかった。それでも彼は話を続けた。
「じゃあ、僕と賭けをしましょう。」
9月までにいじめをやめられたら死なない。
 友達にも相談して、彼のいじめをやめさせる事はできた。軽いいじめで済んだものの、もっと早く彼が言ってくれなかったら彼はもう自殺していたかもしれない。彼は死なない、そう思った。

「中学1年生の男の子が駅から飛び降りたんだって。」
背筋が凍った。胸が張り裂けそうになる。期待なんてしたから?賭けなんて全部うそ?
その言われた駅に行った。彼の家の近くの駅で、そこには彼が立っていた。
「え?」
はっきりと見える彼に素っ頓狂な声を出した。
「死なないよ。違う人が死んじゃったんだ。」
後から聞いたら、その子も同じく、いじめられていた。自分の生徒ではなくとも、助けれなかった。
「先生、どうしたのその顔。」
彼は困ったように笑っていた。いじめがなくなったから、この子の笑顔が見れたんだと実感した。





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