昼空の星
「地下なのに最上階にいるみたいな気分にな れるの」
この辺りの光を全部集めたような、そんな目で遠くを見る友達は、まるでパレードや手の込んだイルミネーションを見ている人そのもののようだった。
「星でも見えるの?」
友達の目線を追うように前を見ると、友達の目を輝かせる標的を見つけてはっとする。
「まあ、言ってみたらわかるよ。楽しみはネタ バレしたら面白くないからね。」
風に撫でられて体をフィギュアスケートの選手のように綺麗に煌びやかに回転する、おそらくカラス避けとされた5枚のCDの光は目に当たり、眩しくて、人間避けにもなりそうだと思った。
「そう。」
そんなことを考えながら適当に返事をした。友達はノリ悪いな〜と笑いながら目を合わせてきた。その瞳には光なんてもう映ってなくて、そこに映されたのは現実を知らされた幼い子供のような、追いかけていた夢を諦めた大人のような、そんな表情をしている少女が映っていた。私はなんだかその少女と見つめ合うのが申し訳なくて、ふいとCDを見た。カラスが学習したのか、いつの日か猫屋敷と言われた空き家のドアのそばにある、ちょっとした花壇に植えられている赤い木のみが一つ、またひとつともの凄い速さで食べられている。
「あのカラス、欲張りだね。」
「でもあのきのみ甘いんだけどなんか飽きるんだよね。」
何に対しても粘り強い友達がそういうくらいの食べ物を、どうして沢山食べようとするのかが不思議だった。
「変なカラス。」
そう言って友達の方を見ると、友達は視点を上に映してあと3、4時間ほどで沈みそうな太陽をじっと眺めていた。どうしたのかというように顔を覗き込むと友達は少し真剣な顔つきで行った。
「やっぱ、今地下室行こう。」
「え、昼だよ。」
「昼だからだよ。まだ間に合う。」
さっき出たばかりの学校に走って戻る友達を追いかける。忘れ物でもしたのかと見る他生徒の目が痛い。
「やっぱ帰ろう。忘れ物したやつみたいで恥ずかしい。」
「いや、せっかくここまで来たんだし。」
理科の林山先生に鍵をもらったと友達は古そうな鍵を見せる。いよいよかと地下に続く階段を降りた。
「ねえ、よくよく思い返してみれば地下室って何気に行くの初めてなんだけど。なんか怖い。」
夏なのに少し腕に鳥肌が立っていて温めるようにさする。
「大丈夫。じゃ、開けるね。」
重い扉のキイイという音にドキドキと暴れている心臓に手を当てて宥める。
電気もつけていないのに辺りがなんとなくわかるのを違和感に覚えて周りを見渡した。すると、夜空に映し出される満天の星のような、そんな光景が広がる。
「カーテンが虫食いやら昔の生徒の悪戯やら何やらで穴だらけになっちゃったんだって。もう虫は駆除したし、新しいカーテンに交換しても良かったんだけどね、林山先生がこれみてしばらくは変えないって。」
「へえ、林山先生らしいね。」
星空好きの子どもじみた林山先生なら確かにこの景色を残すなと思った。
「あとさ、見え方次第で凄く素敵なものに変わるって凄くない?」
「わ、本当だね。」
見え方次第では悪いようにもいいようにもできる。良いようにできる林山先生が羨ましい。
「あのさ、ありがとう。現実味がないって親はいうけどさ、私、諦めないから。」
そんなことを口にしたら、友達は頑張れと笑った。そんな瞳には、新しい道を見つけたような、そんな笑顔の少女がいる。
帰り道、一羽のカラスが5匹の雛に餌をあげていた。親鳥として懸命に生きる、母の姿だった。
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