FRIENDSHIP. がキュレートするライブイベント『FEAT.』5組のアーティストが各々の持ち味を存分に出し切ったライブ
2月10日(土)渋谷CLUB QUATTROにて、FRIENDSHIP.がキュレートするライブイベント『FEAT. by FRIENDSHIP.』が開催された。出演者はGhost like girlfriend、WOLVEs GROOVY、アツキタケトモ、First Love is Never Returned、ベランダの5組。どれもカルチャーの前線で活躍するキュレーター達が厳選した音楽を配信するサービス FRIENDSHIP.が、自信を持ってオススメするアーティストとのことだ。
トップバッターは、兵庫出身のSSW・トラックメイカー岡林健勝のソロプロジェクトであるGhost like girlfriend。マニピュレーター兼ギターのサポートメンバー、土器大洋(Gt/MO MOMA)が先に登場し、1曲目の『Highway』を流した。後から登場した岡林は、クールな佇まいながらも軽々しく伸びやかな歌声を乗せていく。初っ端から見事な歌唱力に聴き惚れていると、アウトロからそのままアレンジして『(Want) like (lover)』に繋いだ。優しく呟くような声も、気持ちよく抜けるハイトーンも自由自在に操る歌声に、観客もグッと聞き入る。そして楽曲終わりの「ありがとう」という言葉にかかるようにぼんやりと音が流れ、だんだんと音像がハッキリしていたところに、途中から歌に入るという洒落た始まりで『サイレント、幻』へ。土器の歪ませたギターサウンドも響き、岡林はゆるりと身振り手振りをしながら情感たっぷりに歌い上げた。
続いて『Birthday』を届け、デビュー曲『Fallin'』へ。〈東京都渋谷区道玄坂 渡きるスクランブル もう感動はない〉というフレーズが渋谷QUATTROにふさわしい。歌詞からは憧れていた東京の街にいつしか慣れ、抱いてた期待とは裏腹に自信を無くした劣等感を感じ取れるが、最終的に〈「何にもない」と嘆くか 「こんなにも」と喜ぶか 幸せの数え方が自分次第なこの世界さ〉という言葉に行き着くところにグッとくる。優しい声で歌われる言葉を聴きながら、きっとこの楽曲に共感し救われた人が多くいるだろうと思った。そんな陶酔感たっぷりな雰囲気から一転して奏でられたのは『ERAM』。イントロから激しいストロボの照明でガラリと空気を変えハイテンポで駆け抜けていくと、「どうもありがとう。Ghost like girlfriendでした」と最後の挨拶をし、ラストに『光線』を披露。それまで若干土器の方に向けていた体を真正面に向け観客に向き合い、力強く届ける。MCもなく、終始照明やステージングもシンプル。純粋にひたすら音楽を浴びせ続けた岡林がステージを去り、イベントの幕開けをかっこよく飾った。
2番目はWOLVEs GROOVY。先に詩音(Dr)が登場してドラムを鳴らし、ましのみ(Gt/Vo)とアヤノコ(Ba/Vo)がお互い向かい合う形で定位置に着く。3人が中央を見るようなライブフォーメーションだ。ライブは『BUG』で始まり、ましのみとアヤノコがツインボーカルを存分に活かして交互に歌っていく。2人ともとてもキュートな歌声だが、表情はクールで色気を纏っていてとてもカッコイイ。2曲目に披露した『ANGEL BEAT!』は1月17日に配信された新曲で、ポップな曲調に〈結婚してよ 天使ちゃん もう人間界に希望が持てない〉と皮肉の効いたリリックのバランスが面白い。ましのみもアヤノコも、歌、ギター or ベース、そしてシンセサイザーの三刀流で、詩音は2人と交互にアイコンタクトをとりながら確実なビートでバンドの土台を支える。そんな3人のグルーヴが非常に気持ちよく、フロアも自然と手拍子をしたり揺れたりと音に身を任せて楽しんでいた。
続いて演奏した『つまらんタクシー』はリズムと語感が気持ちよく、3人の演奏がビタっとハマって中毒性満点だし、次の『bomb』では、フレーズごとに音階を一つずつ上げていきながらましのみが大胆にグリッサンドをする独特なメロディが個性抜群。後半はユニゾンで一気に一体感を増し、気怠い雰囲気で言葉を吐いてく『spicy boy』、アヤノコのベースラインが存在感を示す『no please』を立て続けに披露。そしてノリの良いイントロで『passion&groove』が始まるとアヤノコがベースを置いてマイクを手に持ち、ステージの中央に歩み出た。ダンサブルなサウンドに乗せて自由に飛び跳ねればテンションがフロアにも伝播していく。〈COME ON!〉のフレーズと共にフロアを指差し煽り、ましのみの隣まで歩いて〈誰にどう頼ってどうもなんないって決めつけるのまだ早くない?〉と問いかけるように歌う。歯切れの良い高速フレーズも気持ちよく、縦ノリする人も増え一気に盛り上がった。曲を終えて「WOLVEs GROOVYです。今日は来てくれてありがとうございます」と挨拶すると、先程のパーティモードとは一転、『左右盲』をしっとりと届けた。青い照明のもと、水面に雫が落ちるように、ポツリポツリと一言一言を優しく歌っていく。歌い終わると3人で丁寧に深いお辞儀をしてステージを去った。個性的な楽曲の連続に、体感時間は一瞬。結成1年未満には思えない、3人のグルーヴがバッチリ合った素晴らしいライブだった。
3番手は、作詞・作曲・編曲を自ら手がける新世代の音楽家、アツキタケトモ。ライブは『不純』で幕を開け、初っ端からセンチメンタルを強く掻き立てる美曲に唸ってしまう。他人に見せつけるような恋をしてる友人に〈アクセサリーみたいに身につけて自慢するための恋なのか〉という痛快なリリック。同じ体験をしていなくても感情が手に取るように伝わってくる。ただ、そこにアンチテーゼを示すだけではなく〈ほんとなら僕が結ばれるはずの糸がするりほどけるようで〉という嫉妬心も描くことで人間味溢れたバラードに仕上がっていて最高だ。そして、社会に対する批判性を孕んだリリックと軽快なメロディのバランスが面白い『outsider』を披露し、カッコイイセッションで、初のタイアップを果たした『#それな』へと繋いだ。誰かと繋がることを嫌でも強いられるような現代で浮き彫りになった疎外感や孤独感を、見事な歌唱力とポップなサウンドでコーティングして優れたポップソングとして昇華していく。
続くは様々な音楽要素を絶妙に落とし込んだ『自演奴』。地鳴りのような低音が響き、生バンドにより重厚感を増した迫力満点の演奏の前で、手を広げたり、言葉に合わせて身振り手振りをしたりと堂々の佇まいで歌い上げていく。社会に感じる窮屈さや鬱屈とした感情を音楽を通してカラフルにデザインし、没入感満点に歌う姿は危うさも含めて美しい。そのまま疾走感満点のロックチューン『匿名希謀』へなだれ込むと、間奏では竹村仁(Dr.)やハナブサユウキ(Gt.)を指差しソロフレーズを煽り、バンドセットでのライブが2度目なんて思えないステージングを魅せて会場のテンションは最高潮に。本人も言っていたがまるでジェットコースターのようなライブだった。しっとりとした幕開けから少しずつボルテージを上げていき、『自演奴』と『匿名希望』で一気に加速。MCでは、お金が無かった大学生時代に渋谷QUATTROの下にあったブックオフで宝物を探すようにCDを買っていたこと、そしてパッと見あげた時に目に入る渋谷QUATTROの出演者一覧に前に対バンした人がいて悔しい気持ちになったことを語った。そして今日のステージに立てることの喜びを伝え、そんな時期に作ったという『愛なんて』の話へ。愛という感情の曖昧さについて「愛ってなんだろう…っていう。結局孤独なのかもしれないし。でもきっとその先に続いていくものも何かあると思うので、そんな祈りを込めて」と、ゆっくりと言葉を搾り出すように伝えて、歌を届けた。想いを噛み締めるように情感を込める歌声が伸びやかに、エモーショナルに響き渡ってライブは締めくくられた。
4番手は、札幌発の5人組バンド、First Love is Never Returned。イントロセッションと挨拶を経て、1曲目の『バックミラー』へ。初っ端からゴスペルクワイア要素を含んだ綺麗な歌声に圧倒されながらも、レゲエの要素も感じられる洒落たノリにフロアは手拍子をして盛り上がる。そしてコロナ禍における活動休止期間から再始動した時にリリースした『シューズを脱がないで』を奏で、『OKACHIMACHI FRIDAY NIGHT』へ。隅々まで満たすコーラスが心地よく、最後の最後までポップ全開のキラキラした1曲。MCでは、Keita Kotakemori(Key/Gt.)が「僕らのこと知ってる人いますか?」とフロアに問いかけた。札幌を拠点に活動していることもあり「基本、東京に行くときは僕らのことなんて知らない人しかいない、みたいな卑屈な気持ちでライブに臨んでる」と笑いを誘ったが、既に今年5月には彼らにとって1つの目標だったというVIVA LA ROCKへの初出演、6月には4月に発売するミニアルバムを引っ提げてのツアーで東京・大阪でのライブが決まっている。どんどん活動の幅を広げている最中だ。
そしてMCを終え、新曲の『Unlucky!』を初披露。ミラーボールがフロアを煌めかせ観客が左右に手を振って一体感を生む。過去一でメンバーが音楽で遊んだというおもちゃ箱のような音像が、会場全体にキラキラと充満した。〈The game is over! 底に落ちて リトライ/コンティニューを選び〉というフレーズは再始動した彼らにも重なるようで、精度の高いポップソングが彼らの未来も明るく照らしているようだった。そして「友人が結婚した時の指輪を見て作った曲」「同時に自分たちにとっても大切な曲になった」という『プラチナ』を奏でて、再度MCへ。活動休止を経たことで「本当にバンドっていうものが続く、できることが普通じゃないことだなって強く思う」と述べ、多くの人に曲を聴いてもらえることのありがたみを噛み締めて言葉にし、最後の曲『Twenty-Twenty』へと繋ぐ。NYにヴォーカル留学経験を持つKazuki Ishida(Vo.)の圧倒的な歌唱力が4人のバンドサウンドに綺麗に乗っかる完成度の高いライブ。もっと大きな会場で観客を踊らせている姿も想像に容易い。どこへ行っても"知らない人なんていない"くらい大きくなってほしいと思った。
そして、今年結成10周年を迎えるベランダがイベントのトリを務める。ライブは『海になれたら』でしっとりと始まった。彼らが大切に紡ぐ繊細な音をゆったりと堪能する時間はとても贅沢に感じられた。そして約6年ぶりの新曲となった『Not Bad』を奏でる。歌詞からは少し重たい生活感が感じられるが、高島(Vo/Gt.)の優しさを帯びた歌声に包まれることで、どこか爽やかさを感じて心地よい。そんな長閑な雰囲気の中、途中差し込まれる田澤(Gt/Cho.)のノイジーなギターが存在感を醸し出し、でも最後にはトボトボと歩くようなテンポ感で終わっていく。そして「遅くまで残って頂き、ありがとうございます」と謙虚に挨拶をすると、独特なイントロが印象的な『しあわせバタ〜』を演奏し、MCに突入した。
初めて渋谷QUATTROのステージに立てた喜びに笑顔をみせ、音の良さに感動し、FRIENDSHIP.から新曲をリリースしたことをきっかけに呼んでもらえたことの喜びを語る。言葉の一つ一つから真摯さが伝わってくるようなMCで、控えめだが終始楽しそうな姿が微笑ましい。そして小さな感情の起伏も掬い上げ、独特な言い回しで歌う『早い話』を、男女混成バンドである良さを存分に生かした中野(Ba/Cho)とのハモリを美しく響かせ、続く『エニウェア』では、それまで素朴だったサウンドやステージングが徐々に加熱していき、サポートドラムである若松祥太郎(Dr.)のドラミングもダイナミックに。そして最後の曲『オーバードライブ』で一層、沸々と熱を湧き上がらせていった。時にメロウで、時に激しさがある絶妙なバランスにずるずると惹き込まれていく。その余韻をもう少し味わいたくアンコールを求める拍手が起こると、再度ステージに登場し爽やかなナンバー『Let's Summer』を演奏。繊細さと力強さを同居させたパフォーマンスに、この日のライブが見事に締めくくられる。アウトロで全てを出し切るようにギターを弾き倒す田澤を、中野と高島が見て笑いながら演奏する。彼らの生み出す空気感が温かく会場を包んだ。
多種多様な5組のアーティストが、それぞれの持ち味を存分に魅せた夜。今後の音楽シーンを各々がどう駆け上がっていくのか、とても楽しみだ。
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