対抗心

母は絞り出すように言った。
「そんなことしてない!だって・・・あなたは女の子一人だったから可愛かったの!」

幼少から大人になって以降も日常に溶け込む母の心無い言動。

私の視点から、そこに潜む感情は「可愛かった」とは程遠い。

自分に似ていないから私の子じゃない。そう言って泣かせる。
女の子なのに父親に似てかわいそうと皆が言っている。と容姿を貶す。
色白な母に似ない私を祖母に似て黒くて汚い。と非難がましく言う。
誰かが私を褒めたりすると後から執拗に嘲り否定する。

母が小さな私に日常的に行っていたのはこんな意地悪で否定的な扱い。
そんな母が辛く、泣きながら反抗した。
「・・・もうおかあちゃまなんか嫌い!!」

それを聞いた母は鼻で笑った。
「あっそ。別にかまわないわよ。私だってあんたのこと嫌いだもーん。」

幼いながら衝撃だったことを覚えている。
それ以降、私は母に言葉で試すようなことをしなくなった。

母は親とは思えない言動を続ける。
幼児の時から。
闘病中も。
小学生、中学生、高校になっても変わらない。

私は母に肯定してほしくていい子でいようと努力する。
そんな私を親戚が、知人が、他人が、時折褒めてくれる。
すると母が否定する。

「あんたのどこがいい子なのよ!ほんと外面ばっかりよくてお父さんそっくり!いやらしい子!」

高校生になる頃、母の私に対する否定は一層酷くなっていた。
あれも、これも、「あんたなんか・・・あんたのどこが・・・私の方が・・・!!」

あまりの言い様にいたたまれなくなり、あの時の衝撃が浮かぶも努めて冷静に聞いてみた。

「なんでそんなこと言うの?普通は・・・母親って娘が褒められたら嬉しいものなんじゃないの?」

母はあの時と同じ、鼻で笑った。

「だーって。私はそうは思わないんだもん。なんであんたが褒められるのか私にはちっともわかんないわ!あんたのどこがいいのよ!」

あの時の衝撃ほどではなかったけれど、それでも失望した。
私の欲しいものは手に入らないのだ、と。

当時、母親というのはどこもこんなものなのだろうと思い込もうとしていた。
大人になり、やはり普通ではない母の言動の理由を知りたくて対峙した時、母は冒頭の言葉を言った。

どうして幼い子供にあんな酷いことをしたのか問う私に母は知らぬ存ぜぬの挙句、逆上して怒鳴った。

「なによ!あんただって今私に酷い事言ってるじゃない!」

ああ。

この人にあるのは対抗心だけだ。

いいなと思ったら応援しよう!