MSBP #便乗する母
入院中、母方の祖父母が大きな苺を持ってお見舞いに来てくれた。
私は術後だったのか調子が悪かったのか、自覚するくらいに衰弱していた。
母は興奮気味だ。
祖父母が来てくれたことがよほど嬉しいのだろう。
母は永遠の『娘』なのだ。
例えば夏休みの里帰り。
私は背筋を伸ばし、言葉に気を付け祖父母と「面会」をする。
成績表を見てもらい抱負を報告する。
粗相が無いようにと張り詰めた私の傍らで、あれを買ってこれを買ってと腕を絡ませ祖父母に甘え、ねだる母。
それを私は横目で見る。
祖父母が私の祖父母であったことはない。
私は彼等に甘えたことがない。
傍に行くことも、母の許可なしにはできなかった。
それ以前に、傍に行きたいという感情も芽生えなかった。
「あんたは私の子供だからこんなに(祖父母から)してもらえるのよ!私に感謝しなさい!」
何度も言われた言葉。
祖父母は、あくまで母の両親なのだ。
お見舞いの苺を見て母が言う。
「よかったわね。おじいちゃまとおばあちゃまがこんなに立派な苺を持ってきてくださったのよ。感謝して食べなさい。」
そう言うと私の口元に苺を近づけた。
先述のとおり私は衰弱していた。
とてもそんな気分ではなく、それでも後で何を言われるかと思い、何とか一口だけかじった。
母が叫ぶ。
「おとうちゃま!おかあちゃま!見て!ほら、ちょっとしか食べない!この子は苺が大好きなのよ!いつもなら一口で食べるのに!きっと具合が悪いのよ!かわいそうに!ああ、かわいそうに!・・・!」
私はもともと果物があまり好きではない。
苺を一口で食べたりもしない。
苺が好きで丸ごと食べるのは、私ではなく長兄だ。
悲痛な顔で叫び涙を浮かべる母を、祖父母はなんとか慰めようとする。
コノヒトハ ナニヲ イッテイル ノ ダロウ
私は重い頭の中でそう呟き、状況を受け入れ、黙って横たわっていた。
その空間は、子供でも感じる程の疎外感に満ちていた。