香川のおむすび山 自由研究(前編)
香川のおむすび山たちを見て思い出されたのが中学理科だ。火山の形を3種類提示され、溶岩の粘性を並べ替えたり、岩石の種類を答えさせられたりする分野で、富士山や九州の雲仙普賢岳がよく例に出ていた。
香川のおむすび山はAに近い形をしていた。香川の山々が火山だったと仮定すると、四国の成り立ちが明らかになっていくはずで、高校受験の頃を思い出しながら色々と調べ物をしてみたら改めて楽しく学ぶことができた。
検索に多くヒットしたのが香川大学工学部および創造工学部部長、特任教授の長谷川修一氏のコラムや論文で、とても分かりやすく、かつ面白く学習できた。
四国には活火山がひとつもない。厳密にいうと、瀬戸内地域では約1400万~1100万年前(参考までに、人類誕生が約5、600万年前)には火山活動が活発に行われており、当時の火山で代表的な山は
・香川最北端の五色台
・小豆島の寒霞渓(かんかけい)
・愛媛の石槌山(いしづちさん)
とその北東に位置する
・久万(くま)高原
などである。現在これらの山がどういったものになっているのか紹介すると、五色台には瀬戸内海を見下ろせるスポットを楽しむドライブコース(五色台スカイライン)や休暇村(リゾートホテル)。寒霞渓は瀬戸内海国立公園に含まれる、日本三大渓谷美のひとつとも呼ばれる渓谷で、ロープウェイで登れて散策できる。石槌山は日本百名山のうちのひとつで、標高1982m、西日本最高峰となっており、登山やロープウェー、スキーなどが楽しめる。久万高原は四国最大渓谷の面河渓(おもごけい)や、日本三大カルストのひとつである四国カルスト(*1)を含む自然遺産の宝庫である。いずれも昔話に出てくるようなおむすび山とはかけ離れた、複雑な地形をもつ山たちだ。
話を元に戻す。はるか昔、瀬戸内火山活動によって、香川一帯の領家花崗岩(深成岩)なる地質の上には火山灰や溶岩が流れ重なった。これらをまとめて瀬戸内火山岩類と呼ぶ。
地表で冷やされた溶岩は安山岩となり、これはのちに讃岐層と称された。瀬戸内火山岩層が地震や雨などで侵食され、長い年月を経て円錐形になった。これが香川各地のおむすび山であり、現在は“讃岐七富士”と呼ばれ親しまれるようになった。
長谷川氏の論文によれば、香川の多くのおむすび山が花崗岩の上に安山岩、というシンプルな二層構造となっており、そこに流紋岩質凝灰岩地層が挟み込まれるような地形は地滑りを起こしやすく、山の形が円錐形に保たれにくくなるという。おむすび山が近年もなお研究されており、歴史を紐解くような研究結果が開示されていることがとても興味深かった。
調べていく内に“しんかんせんはかりあげ”という火成岩を覚える際使う語呂合わせに辿り着き、懐かしさ抜群だった。
深成岩は『花崗岩・閃緑岩・班レイ岩』、等粒状組織。
火山岩は『流紋岩・安山岩・玄武岩』、班状組織。
地中深くで圧力のかけられた深成岩の方が、組織が等粒状になっており風化などの侵食を受けやすい。これは粘度、硬さではなく、組織上の壊されやすさを考えると理解しやすい。
讃岐七富士を構成する花崗岩、安山岩もそれぞれこのような特性をもつことにより、まさに鉛筆が削られていく要領で山を形成していった。そして数万年単位で山の形状を見た時に、硬い鉛筆の芯だけ――安山岩だけが円柱状に残る岩頸(*2)へと変化していくのではないかということも予想できる。むしろ、その頃人類はどんな暮らしをしているのかの方がはるかに想像に難いが…。宇宙戦争でもしてるだろうか。果たして人類は存続しているだろうか…。
と、ここまで“風化”と称して話を展開していったが、厳密には風化のみで語ることのできない分野である。四国はフィリピンプレートの沈み込みにより押し流されてきた堆積物が重なってできた島だ。そしてその過程で、現在香川に位置する場所も海であったり、湖であったりした。
1985年(昭和60年)10月、香川県さぬき市大川町富田中の雨滝山化石層で世界最古のなまずの化石が発掘された。一帯は約1400万年前の地層で、当時の世界最古とされたナマズの化石は約500万年前のものだった。
かの有名な屋島も水中で出来たとのことだが、おむすび山のある土地一帯も湖底であったという。
香川の山々は湖底火山であったものもあり、“侵食”され、その後地盤の隆起に伴い風化もしていった、というケースも見逃せないトピックだ。
余談となるが、讃岐七富士を構成する安山岩はサヌカイトと呼ばれる産地の限られる岩石で、地質的、歴史的に貴重な資源とのこと。石器時代の打製石器や磨製石器として出土したものにもサヌカイトが含まれているという。香川、讃岐地方一帯の地質が実は世界的にも類を見ぬ貴重なものであり、保存されるべきものということがどこまで周知されているかは分からないが(国、県、市、行政、業者、etc…)、山のみとは言わず自然保護や緑化活動などがいかに重要かということがわかる。
四国自体、フィリピンプレートの沈み込みによって長い年月をかけて隆起し、現在の地形となった。愛媛北方や香川の最下層である領家花崗岩も、白亜紀(約1億4550万~6550万年前)に隆起して出てきたものだ。地盤の隆起により四国の地底はどんどん高温のマントルから遠ざかり、火山ができる条件と一致しない地質へと変化していった。そして“火山のない四国”が出来上がった。
一方、数千、数万年前に起こった九州での大噴火が西日本全域に火山灰を積もらせ、四国各地でもその際の火山灰が検出されるといった研究結果もあり、太古の火山の規模は想像も絶するほどだ。”火山のない四国”と言えども、複雑な地質から成り立っていることには違いない。
ところで富士山がなぜ末広がりなのかといえば、サラサラな溶岩が流れていくままに広がりそのまま冷えて固まったからだ。周りに山や湖がなければ、もっと遠くまで溶岩が流れていったとも言われている。
富士山と、讃岐七富士、双方似ているようで、同じように形作られてはいないことが分かった。
◇
讃岐七富士と呼ばれ、古くから親しまれてきた香川のおむすび山たち。
江甫山(つくもさん)→ 有明富士 153m
爺神山(とかみやま)→ 高瀬富士 214m
飯野山(いいのやま)→ 讃岐富士 422m
堤山(つつまやま)→ 羽床富士 202m
高鉢山(たかはちやま)→ 綾上富士 512m
六ツ目山(むつめやま)→ 御厩富士 317m
白山(しらやま)→ 東讃富士 203m
登山するにあたりメジャーな山とそうでない山があるようだが、有名どころの飯野山は、30分~1時間程度で登ることができ、頂上では讃岐平野眺望を楽しめる。
続く
(*1 カルスト:石灰岩地質が浸食によって地表(または地下)に露出した地形。草原に出現した石の羊の群れ、などと紹介されることもある。)
(*2 がんけい:火山が風化により浸食され、火道(マグマが地表に噴出するまでの道)内マグマの硬化形成物が地表に露出している状態のもの)
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参考
・15.讃岐七富士になる山とならない山|香川大学工学部 長谷川修一・鶴田聖子・三野愛香・山中稔
・連載講座「古代山城屋嶋城跡から歴史と地域を考える(2)」2013.7.27 屋島のメサはどのようにしてできたのか?| 香川大学工学部 長谷川修一
・「おむすび山」なぜ多い?専門家に尋ねた|朝日新聞DEGITAL
・おむすび山の秘密|ビジネス香川
https://www.bk-web.jp/post.php?id=1590
・香川県と土砂災害|香川県公式ホームページ
・メサ地形とビュート地形|インターネット自然研究所
・自然科学館館長は「ナマズ博士」|朝日新聞DIGITAL
・風化作用|中国地質調査業協会
・四国山地の火山灰はどこから来たか?|国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 四国支所
・火山学者に聞いてみよう-トピック編-
石槌山|日本火山学会
・A002四国の地質の概要|産総研 地質図調査総合センター
・讃岐七富士は火山ですか?|Yahoo!知恵袋
・深成岩と火山岩では深成岩の方が硬いのでしょうか。|Yahoo!知恵袋
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