ドギョムを忘れない③
※この記事はミュージカルXcaliburのネタバレを含みます。
ドギョムの自己表現に関しては前に記したように、素朴で無骨だけど丁寧で透き通っている、そんなところがポイントと言えるが、SEVENTEENの楽曲たちは息の合った群舞と世界中の人たちに寄り添う等身大の歌詞が最大の魅力だ。179㎝、重心低めのドギョムがメンバーたちと振り付けを合わせる様は結構器用だなと思うし、かなり迫力も感じられ見ごたえがある。歌に関しても、メインボーカルとしての重要なパートはもちろんのこと、観客をゆっくり見渡して、胸に手をあてて丁寧に慎重に、ありのままをなんとかして全力で歌うドギョムの姿は、ファンでなくても印象に残ると思う。
ドギョムの内面に関して考えるにあたって、あくまでも個人的に避けて通れない曲を備忘録として何曲かあげておく。ドギョムがカバーした曲。ドギョムがファンにおすすめした曲。ドギョムが感情を乗せやすい曲。…自己肯定、継続、忍耐、慰め、応援歌、祈り…といったフルコンボラインナップである
明るい応援歌もあるよ。
ここで疑問に思うわけだが、自他共に素材を大事にし、されているドギョムが、演技なんてできるのだろうか? 物語の中で自分とは別の人間、アーサー王になって、民を統治したり、反勢力と戦って人を斬ったり、愛しい人と結婚したり、親友に剣を向けたり、できるのだろうか? 私はまず、演技はきっと面白い感じになっちゃうだろうな、と確信していたので、ミュージカル俳優ドギョムの初々しいデビュー姿を冷やかs…見守る気持ちで臨む心積もりはあらかじめしていった。彼は元々、お手本の誰かのように立ち振る舞えるような器用な男の子ではない。いつも体当たりで成長していくような、本当に眩しいほどに純粋な子なのだ。そんな瞬間に立ち会わせてくれて、本当にありがたいと思う。幸運なオファー、果敢な挑戦に感謝したい。
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世宗文化会館は地下鉄5番線、光化門駅を降りてすぐだ。駅構内はこぢんまりとしたミュージアムショップがあったり、絵画のレプリカが売られていたりと文化的な雰囲気が既にある。トイレも綺麗だった。光化門はよくデモ隊のスタート地点として使われるようだが私が降り立った日は特に何もなかった。金曜日だったからだと思う。
この垂れ幕の向こうが劇場への入り口。
階段を上がって行ってロビーに入ると、よく目にするフォトブースがすぐあって気分が高揚してきた。これはそのフロアを上の階から撮ったもの。
Melon Globalなどでチケット予約を済ませた人たちはカウンターにてチケット引き換えを行う必要がある。予約画面をスマホで見せたりすれば充分だと思うが、私は画面を印刷したものを持ってきていたのでグローバルチケッ~…などと言いながらそれと本人確認用のパスポートをカウンターに出した。Phone number please、といったようなことを言われるのでゼロ、エイ、ゼロ…などとたどたどしく伝えたら伝わったようだった。ここで封筒に入れられた紙チケットを手渡ししてもらえるので私はこれからミュージカルを観ることが出来る。泣きそう。
空港泊で痛む体は高ランク席で癒すべし、という飴と鞭ルールを発動した私は2階の最前に緊張しながら座った。私は両目1.2の裸眼族なのだがオペラグラスは元々不感症すぎる実感が更に鈍く遠くなるので絶対に使わない。会場を把握し、自分が同じ空間にいるという実感は視野というものが本当に重要だ。とはいえキャパ3000の劇場はやはり遠かった。いや、完全に全て見える。誰の頭も邪魔じゃない。座って観られる。何も問題はないはずなのだが、自分の鈍い感覚が恨めしい。2.5次元オタクの友達はいつも最低限初日と千秋楽、大楽は入っているけれども本当にその必要性が痛いほどわかる。空間把握と表情把握はひと公演では網羅不可能である。公演はプロジェクションマッピングを所々取り入れた演出で、後ろで炎が上がったり竜が飛んだり(笑)となかなかエキサイティングだった。だからなのか3次元の人間が目の前にいて、縦横無尽に駆けずり回っているというのに本当に実感が湧かなかった。
そう、表情もなんとなくしか見えなかった。声だけではドギョム、否、アーサーの感情があまりよくわからなかった。喜んだり、怒ったり、悲しんだりというモーションはもちろんある。大きな体を昂らせて怒鳴るアーサーはかなり迫力もあった。しかし表情や言語が飲み込めないだけでこうも解釈から遠退いてしまうのか? 自分を酷く責めたくもなったが、ああドギョムが習ったことを精一杯やっているようだ、という解釈で私は自分を納得させた。それでも、それでもドギョムの透き通った声はミュージカルの魂のつぶてにまでは至ってなかったと、今反芻してもやっぱりそう思う。周りの大ベテランたちの歌があまりにも重い拳で殴られているような、魂が揺さぶられるような、本当に見事なパフォーマンスだった…。グィネヴィア役キムソヒャンさんは小柄で弾ける笑顔が印象的で軽いステップでステージを駆け回り、弾むような歌声。そのお顔が後半ずっと悲しそうに歪んでいたのは本当に辛かった。(エクスカリバーは悲しい物語です) モルガナ役チャンウナさんは、あの細い首のどこからどうやってあんなにも長く強く大きな声が延々と出てくるのか…。強い怨念を持ったキャラクターなので歌もとにかくパワーがすごくて、それを全く揺るがず、弱まることのないビブラートで歌い上げる様は本当に圧巻だった。一際歌唱力に長けていたのはマリーン役ソンジュノさんだったと思う。言葉が見つからない…本当にすごかった。昇天。
(正:モルガナ) 周りから力をもらって呼応するように歌を紡ぎ出すドギョムをアーサーの中からも感じた。
演じるにあたって自分がこんなにも声を張り上げて怒鳴ったり怒ったりすることができるのかということに気づけた、といったようなことをインタビューで話していたけれど、やはり演技としての歌唱はかなり苦戦したのではないかと感じた。その中で、一番最後、物語を締めくくる曲、大切な人たち全員を失ったアーサーが、ただ残されたエクスカリバーと共に英国の王として進んでいくという決意を歌う曲。これだけは、本当にファンみんながドギョムと重ね合わせて聴いたと思う。一番上手く自分を溶かし合わせ、感情が乗せられていたように思う。前半に載せた曲たちや、ドギョムの性格と照らし合わせると言いようのない気持ちに包まれる。
明るくてかわいくて天真爛漫さも持ち合わせたグィネヴィアと恋に落ち、二人で掛け合いしながら歌う場面はキラキラと輝いていた。ずっと見ていたかった…
そして特に前半、「マリーン!☺️」「マリーン!😤」なんて呼ぶ声はつい先輩もメロメロになっちゃうのではなかろうか…天性の弟気質もバンバン発揮していて可愛らしかった。私も名前を呼ばれたい。
ステージ上部に渡り廊下みたいな舞台セットがあって面白い。
これ、このエクスカリバーが刺さってた三角岩、裏返すとマリーンのドライフラワーのお部屋(語弊)のセットになってて滅茶苦茶笑ってしまった。マリーンは魔法使いなので薬草を吊るしまくった洞穴?地下室?のようなお部屋に住んでいる。傷ついたアーサーがマリーンのお部屋で眠っていて、看病しに来たグィネヴィアにサランヘと言われるシーン、そしてタイミングよく目を覚ましたアーサーは…というロマンチックなシーン…。人の部屋で…(そのあとすぐ暗転した。健全。)
と、なんとなく締まりのない感想ばかりを書いてしまったが、若々しい好青年アーサー王はともかく、マリーンやモルガナ、サクソン人(敵対民族)たちのパフォーマンスなんかが始まるとバシッと締まって本当にステージとして見ごたえがあった。観客を飲み込む禍々しさや熱気、人数を揃えた群舞…ミュージカルの醍醐味をこれでもかというくらいに堪能することができた。
そして言及してこなかったが今回初めてのミュージカルで、ドギョムの側で兄のように支え、励ましてくれたのはランスロット役の演者さんたちだったのではないかと推測する。忙しくツアーをこなしながら少ない時間の中で稽古をしなくてはならなかったであろうドギョムと、例えば剣を交えるシーンなんかはかなり練習を重ねなければならなかったと思う。(個人的に剣を振るうシーンはうんしょよいしょ!せーの!123!みたいな感じがしてこれらを魅せるまでもっていくのは本当に難しいのだなと感じた。重たく大きな剣を誰も怪我することなく振るうのは本当に大変。)
↑投稿削除されとるやんけ😭
イジフンさんは本当に何枚もInstagramに写真を上げてくれていた。もちろんイジフンさんも本当に歌唱力の高い役者さんで、憂いの帯びた歌声が最高に切なくて上手かった。
イジフンさんをはじめとして、本当に雰囲気もよく、素晴らしいファミリーに支えられていることが伝わったし、本当に素晴らしい現場だった。
正直、カーテンコールの記憶はそんなに残っていない。私自身とてもヘトヘトで、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた演者さんたちに歓声や拍手を送ることで精一杯だった。更に私は即地下鉄に飛び乗って仁川空港まで行かなくてはならなかったので、頭の切り替えをする必要があった。こうして私の弾丸ソウル旅は終わった。ずっと頭の片隅に、新訳アーサー王物語とはなんだったのだろう…という憤りが今もある。(新訳アーサー王物語に罪はない。)
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