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Short Episode 3「はじまりはチロルチョコ」

今日は昼から4ステかぁ、長いなぁ。
新ネタするから安田くんとあとで合わせてみな。
楽屋に着くや否や、GAGの坂本さんが
「石井くんっ今日バレンタインじゃん!チョコ貰った?」
「…家からまっすぐここに来たんでまだですね」

坂本さん、朝から奥さんと娘さんに貰ったって嬉しそうに話してる。幸せそうや。
チョコかぁ。その前に昼飯やな。

「お疲れ様です。注文されてたお弁当持ってきましたよ!」
「おお!俺の唐揚げ弁当きたきた」
「渡辺さん、いつもありがとうね」

俺も自分の弁当を貰おうとした時、小さな手に板チョコを持ってるのが目に入った

「あの、これ。お弁当受け取りに行ったら、おばちゃんに『今日バレンタインだからコレもサービスよ』って皆さんにとチョコ下さいましたよ。置いてくんで食べてください」
と言いながらテーブルに板チョコの入った袋を置いていった。
今年の1番チョコはお弁当屋さんのおばちゃんからか…。ん?でも直で貰ったんやないから1番ではないか。福井さんえらいくいつくなぁ。
「俺はブラックやなぁ」
あんたはなんでもええやろ。

本番が始まり、ネタも順々に終わってフリートークとなった。
「石井くんさ、学生の時とかリアルにチョコいくつ貰ったりしたん?」
内心言うん嫌かったから
「んー…まぁ、トラック1台では足らないですねぇ」
と、ボケたつもりやったんに妙に納得されスベった。坂本さんだけ笑てるで。

なんやかんやとライブも終わり楽屋に戻ってきた。さっ帰ってご飯なに作るかなぁ。
「皆さん、お疲れ様でした!」
と、元気よく小さい子が入ってきた。
「秋ちゃん、お疲れ様~」
あれ?安田くん、この間までなべちゃんやったんにまた呼び名変わってるし…統一性ないなぁ。
帰り支度してると、渡辺さんが俯き加減で少し背中も丸めて俺ら一人ひとりに小さなリボン?の付いた物を渡し周り、最後は俺の目の前で立ち止まった。

「いつも皆さんお疲れ様です。ささやかですけどバレンタインですので良かったら…どうぞ!」
と最後の俺には力いっぱい押し出すように渡してきた。
びっくりと、戸惑いで「あ、ありが、とう…」少しどもってもおた。
「失礼しまーすっ」とそそくさとその場から立ち去って行った小さな小人よ。一瞬見えたが顔が真っ赤やったで。かわええなぁ、そんなとこあるんや。

「渡辺さん、何をくれたんや?」
「おお、可愛いっ。ハートのチョコやんか!」
ひろゆきさんも安田くんも嬉しそうやなぁ。
「ねぇねぇ!石井くんのにはどんなの入ってるの?」
坂本さんがニヤニヤしながら俺のを覗き込んできた。
「皆と一緒やないんですか?」
「ええっ!そんなことないやろ?!だってさ、石井くんにだけ力いっぱい渡してさ、1番恥ずかしそうにしてたやん!」
「もっ、もっ、もしかして石井くんのは本命なんとちゃうんかぁ??」
うわ、ひくねとの嫌な顔…。
「でもさ、俺も気になるなぁ。」
珍しい、ひろゆきさんものってきてるし。
「そんな…本命な訳ないやないですか」
と、口では言いつつ内心では少し緊張していた。まぁ、確かに最後にあんな渡し方されて、顔真っ赤なん見たら…。
そら、少しは期待して…まう…なぁ…。

皆の注目の中、小さなラッピングのリボンを解きそぉっと中身を手のひらに出してみた。

ハート型のチョコ2個とチョコクッキー3枚…。

「…なんや!俺らと一緒やないかい!期待させんなっ」
「そっちが勝手に言うてきたんでしょうがっ」

内心。ちょっこっとがっかり。チョコだけに…しょうもない。
まぁええか。義理でも貰えただけ…良しとしよう。

若干の気落ちしながら出したチョコたちを袋に戻していると横から、ひろゆきさんがそぉっと近づいてきて
「なぁ、数は一緒やけど。石井くんのハート俺らより大きない?」
とボソッと俺にだけ聞こえるように言うてきた。
ひくねとには見えないように2人で背中向けて、見比べてみると確かに俺のハートの方が一回り大きいようだ。
「渡辺さんの気持ちは、俺らよりも石井くんへの方が一回り大きいみたいやね。」
そう言って俺の側から離れていった。
そうなんか?そうなのか?あれはやっぱりそうなんか??

正直、一回りだろうが人から好意を持たれるというのは悪くない。


次の日は囲碁将棋さんと一緒やった。
文田さんが「ちょっと小腹すいたなぁ」とニヤニヤしながら鞄から何かを出していた。
「じゃあん!秋ちゃんからチョコ貰っちゃったんだぁ!」
嬉しそうに、そして、高らかに崇め愛しそうに鞄から出してきたのは俺も見覚えのあるもの。
ハートチョコとクッキー…。ん??!
「…文田さん」
「どしたの?石井くん」
「文田さんのチョコ…なんか大きないですか?」
明らかに俺が貰ったやつよりでかい気ぃする。
俺のがスープマグぐらいの円形ほどやとしたら、文田さんのはカツ丼の器ほどの大きさ…。
あれ?俺への一回りはどこへ?
一回りどころか二回りほど上ですけど…。

「石井くんどうしたの?ぼーっとして。」
「あっ…いや!なんでもないです。」

俺は一人で舞い上がっていた。
なんか…ダサ…。

「おはようございまーす!」
と、こちらも高らかに入ってきた小人よ。
俺への一回り上の気持ちはなんやったんや…。
期待さすな…。
そんな俺の気落ちも知る由もない文田さんは
「秋ちゃん、ありがとうね!秋ちゃんからの愛、受け取ったよぉ!食べてもいい?」
「はい、どうぞ。でもやっぱり少し大き過ぎましたかね?」
「ん?そんなことないよ。どして?」
「囲碁将棋さんたちが1番に大きいので、1番大きいチョコにしたんです。」

ん??1番に大きい…???

俺はボソッと
「身長準?」と呟いたのが聞こえたようで
「そうなんです!分かりました?石井さんのも安田くんのも他の方より少し大きかったんです!」

「なんだぁ、愛情準じゃないのかぁ。」
「あっでも!美味い!!さすがじゃん!」

小人よ
なべよ。小鍋…バカにしてる訳ではないが…。
ちょっとでも期待した自分がダサすぎ…。
何故に身長準にしたのか?
不思議なやつや。

「なべ…」
「はい?石井さんなんですか?」
丸椅子に座って床を見つめながら俯いている俺の顔をしゃがんで覗き込んできた。
「…なべ。小さいやつめ」
「えっ?なんですか?お鍋ですか?」
俺はそれから渡辺秋をなべさんと呼ぶようになり、会う度に小さいと恨み?ではないがおまけに言うようになった。

二回り…
俺と囲碁将棋さん、そんな身長差ないで。
5センチ…の差。

お返しはチロルチョコにしよう。
俺となべとの身長差分を個数にして。30個ぐらいか…。
「なんかバカにされた気分ですけど…」
なべのふくれた顔を想像したらオモロかった。






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