第12話 ヤケド注意
いつも物静かで口数も少ないし、スマホ見たり何か考え込んでたり、寝てたり。改めて思うことは、石井くんってホンマにマイペースやなぁって感じる。
さっきの突然の事に気持ちの方がいっぱいになって、おにぎり食べれんかったし。
気持ちを落ち着かせ、切り替えして仕事に戻った。
公演前に飾り付けしたツリーを置いてきたり、イベントのポスターを張り替えしたり、バタバタと動き回っていたら
受付のスタッフさんに
「これ、コマンダンテさんに差し入れですので渡しといてください。」
と、手渡されたので2人の楽屋に向かった。なんだか気恥しいなぁ…
平常心、平常心…とぶつぶつ唱えながら楽屋に向かった。
「お、お疲れ様です」
若干、どもってしまい安田くんに
「ん?あきちゃん、どないしたん?」と笑われてしまった。
「いや、大丈夫です!あの、これファンの方から差し入れです」
と、渡してさっさっと楽屋から出ようとするとパッと石井くんと目が合ってしまった。
ドキッ
さっき、突然のキスされたんを思い出してもうて、思わず両手で口を塞いでしまった。
それを見た石井くんは、フッとちょっと意地悪そうに笑って口パクで
「ア・ホ」と言って、人差し指を口の前に立てて
しーっとポーズを一瞬し、直ぐに目線を下に下ろした。
さっきで、今でってのは無理やよぉ…。
私は逃げるようにして楽屋から去った。
「なんかいつもより倍、疲れた…」
公演終了し、客席の掃除や小道具の片付け等しながらつい大きな溜息とともにもれた愚痴…。肉体的より精神的に…。さっさと終わらせて帰ろう、とトボトボと劇場裏を歩いてると
「あきちゃーーん!」とケイさんの声が響いた。
ビクッとし、その場で立ち止まってしまった。
「あきちゃん!今からご飯行くけど、一緒に行こうよ~」
あー、やっぱり…。こんな暗い顔で振り向いてはいかん…、笑顔笑顔と自分に言い聞かせて振り向いた。
ケイさんが側まで駆け寄ってくる後ろに山添くんとコマンダンテの2人も見えた。
「あー、ケイさん。ありがとうございます。でも私ぃ…」と断ろうとした時に石井くんが私の方を向いて左手でこいこいっと静かに手招きをしてるのが見えた。
「ん?あきちゃん、どしたの?」
「あー…わたしぃ、行きます。」
嫌って訳やないけど、私の心臓もつのか?
お店に着くと、部屋まで案内されそれぞれが好きな所に座ろうとしてる中、石井くんがこちらを見ないまま私の袖をちょいっとひっぱってきて、自然に自分の横に私を座らせてきた。私の右手は熱くてしゃあない。やっぱ心臓もたんかも…。
とりあえずビールで乾杯して、各々が楽しく食べ、会話も盛り上がってきていた。
「そういえばさ、もうすぐクリスマスやん?あきちゃんって彼氏いんの?」
山添くんの思わぬ質問に口に含んでいたレモンサワーが吹き出しそうになった。
「なっ、なんですか急に!??」
「だってさぁ、実は前から聞いて見たかったんよぉ」
「うわぁ、山添キモォ。もしかして狙ってんの?」
まるで相席スタートのコントの様な会話。
「彼氏?ですかぁ??!」
オロオロになって焦る私。チラッと右側にいる石井くんを見ると右手で頬杖ついて、少しトロンとした顔でこちらを見ていた。呑んだらすぐ顔赤くなるんよ…この彼は…。この子はなんて答えるんでしょうね、とまるで試すようにイジメっ子みたいな顔してはるわ…。
「…い、い、今はいませんっ」
挙動不審な私に呑んで酔っている皆は気づかず、私の返答に1人喜ぶ山添くん。
こういう時ってなんて答えたら正解なんやろうなぁ…。「います」って言うて「誰?」とか聞かれるのも嫌ややしなぁ…。
帰り道
同じ方向な石井くんと2人、タクシーに乗ることなく静かに横に並ぶわけでもなく、少し前を歩く石井くんの背中を眺めながら歩いていた。
「なぁ」
立ち止まるわけでもなく、急に話しかけてきた。
「はい、どしたんですか?」
ひんやりとした、冷たい風が熱くなった頬に心地よかった。
「なんで、彼氏おらんって言うたん?」
「えっ…。あー…。いてるって言うて、誰?って聞かれるのが嫌かったから」
と、正直に答えた。だってホンマにそうやし。
「そうか…。」
何か言いたそうに、一口も二口も含んだ言い方。
怒ってるの?
いらんこというたかな、と俯きながら歩いてると急に立ち止まった石井くんに気づかずその背中にぶつかってしまった。
「ごめんなさいっ見てなかった…」
顔を上げると、こちらを振り向くことなく
「手出して。両手」
「?両手?」
言われるまま、石井くんの背中をすぐ目の前に見つめたまま両手を前に伸ばすと、その腕を掴まれ私が石井くんの背中にしがみついてるような形になった。
「えっ?!どしたん?」
そのまま背中にしがみつかまされたまま、石井くんがボソッと
「秋は…俺の。他に渡さん」
石井くん
背中に焦げあとつきますよ…きっと大火傷です。