第15話 甘苦いなデコピン
「俺も明日、休みやねん。ほんなら、会おう。」
昨夜の電話での石井くんからのお誘いに
電話が終わってからもドキドキがずっと続いて、殆ど眠れんかった…。
「行きたい所あったら、考えといて。」
行きたい所かぁ…どないしようかなぁ。てか、その前に何着ていけばいいんかなぁ。そもそも、あのオシャレな石井くんと一緒に歩けるような服持ってたか??どうしよう…。
考え込んでると、あっという間に待ち合わせ時間が迫ってきていた。
「大変っ!急がないとっ」
自分のセンスの無さに呆れながら、なんとか決めた服を着て慌てて家を飛び出した。
待ち合わせ場所に着いたけど、まだ石井くんの姿は見当たらなかった。
「はぁー…良かった、まだ5分前やった」
大きな息を吐いて、深呼吸をして心と体を落ち着かせなければ…。
ふと、ガラスに映った自分の姿を見ると、走ってきたから髪がボサボサ…。
それを決して上手とかやないけど、直してるとそのガラスに映った自分の後ろに大きな人が重なるようにして映ってきた。
ビックリして振り向き見上げると石井くんやった。
改めて石井くん大きいなぁ…私が小さいだけなんか…。
「おはよ。早いね。」
「お、おはよう。石井くんこそ。今着いたんよ。」
ん?なんか石井くん少しニヤニヤしてる?
「行きたい所、決まった?」
「うん!私ね、水族館に行きたいっ」
「ベタやなぁ。まぁええか、ほな行こ。」
すっと、自然に石井くんの左手が私の右手を掴んできた。私は久々に会えて嬉しくて、その手をギューっと握り返した。心の中では喜びで溢れ大声で叫んでいる。
『 久しぶりに会えて嬉しぃーーーー!!』
って、大きな山ならぬ、大きな石井くんに向かって叫ぶ。
電車に乗って目的の水族館に到着。
平日なのもあって、人は疎らでお陰様で館内をゆっくり周る事ができた。
出て来た時はお昼も回っていて、お腹も空いたし、石井くんが行きたいって言うたカフェでランチも食べれるとなっていたのでそこに行く事にした。
カフェに着いて、2人でおまかせランチセットを注文。食べながら久しぶりに会えて話したい事も沢山あって話は尽きなかった。
「そういえばさ、朝待ち合わせ場所に来た時、なんか笑てた?」
「ん?…あー…あれか。」
「あーあれかって何?」
またなんか思い出したのやらニヤつく石井くん。
「えーっなんなん?」
「俺さ、実は秋より先に来ててん。」
「えぇーっ!」
思わぬ不意打ち。慌てて走ってきたのとか見てたって事か…。
「ほんで、走ってきたからガラス見て髪直したりとかしてたやろ?」
「うわぁー、最悪…恥ずぅ」
私の顔はまたしても熱い…。ただでさえ熱いのに。石井くんその後に何を言うのかと思ったら…
「それ見てたら、なんか可愛いなぁって。俺の為に走って来たんやなぁって。愛しくなった。」
やて
石井くん滅多にそんなこと言わんのに、どしたん?何かのリミッター解除しちゃったの?
もう2度言うてあたらんかもせんから、私の中の辞書に書き込んでおきます。
「恥ずすぎるっ…!。てか、石井くん普段そんなこと言わんのに、どうしたの?」
「たまにはな。言わないと、と思てね。」
どうしよう…。
私、こんな幸せでいいのだろうか。
これは、もしかすると、まだ夢なんかしれん。
「ねぇねぇ。これって、夢?」
と、私が聞くと
顔がくしゃっとなるほどに笑って
「さて、どうでしょう」
と言いながら、私のおでこにデコピンをしてきた。
「いっったぁいっー!」
痛いから夢やない。
嬉しいけど、痛い…。
隣に座っている石井くんは、ニコニコとあのくしゃくしゃ笑顔で私を見つめていた。
「夢やなかったな」