第22話 晴れとドキドキ
「あー…バーベキューしたい」
相席スタート、ケイさんの突拍子もない一言からそれは始まった。
「どしたん?急に…」
2人でランチに出掛け、私は隣でカレーを頬張っていた。
「暖かくなってきたしさ、外でご飯とか食べたくない?ほら、今流行ってんじゃん!バーベキューして呑んで最高じゃない?楽しそうじゃん!」
「んーまぁ、そうやけど…。てか、私に探してほしいってこと?」
「うふふっ、分かっちゃった?」
この屈託なく、決して悪気もなく笑うこのケイさんの笑顔に私は弱い…。
「でも…せっかく行くんなら…」
私の頭の中でケイさんにも負けないくらいの企みが思い浮かんだ。
『今流行りの事をやってみよう!行ってみよう!~グランピング編~』
「秋ちゃん…なにこの台本…??」
「ケイさん行ってみたいって話してたから、折角なら劇場のロケ企画でやっちゃおうかなって。作家さんに話したらすぐに通りました!」
「…しかも、メンバーが…相席スタート、コマンダンテ、アイロンヘッド…って…」
「楽しそうでしょう??」
肩を落としつつも、台本をパラパラとめくりながら「んーもう、しょうがないなぁ。ねぇ!もちろん、秋ちゃんも行くんだよね?」
と満更でもなさそうな顔を見せてくれた。
「もちろんですよ!」
私はその台本を手に持ってもう一部屋の楽屋に向かった。ちょうど2組ともいてるから話してこようっと。
「お疲れ様でーす。渡辺です。ちょっと企画の話しに来ました〜」
各々がスマホ見たり、寝転がってたり、お弁当食べてたりとしていた顔が一斉にこちらを向いたので私の方がビクッとしてしまった。
「おはよう、秋ちゃん。なんや久しぶりやなぁ。」
「ナポリさん、昨日も会いましたよ。」
こんないつものやり取りにクスクスと笑いながら
「どしたん?なんの話?」
私の手に持ってる台本に指さしてきた安田くんの側に行き
「じゃーん!ロケ企画でっす!!」
その場にいた面々に台本を渡していくと1人居ないことに今やっと気づいた。
「あれ?石井くんは?」
「そういえば、まだ来てないなぁ。もう来るんとちゃうん?」
辻井さんの声を聞きながら楽屋出入口に向かって行き、廊下の方に顔を向けると目の前に衝撃が当たった。
「うっわぁっ!」
顔を上げると石井くんの顔が目の前にあって、更にビックリして後ろによろけて倒れそうになってしまった。
「何してんの?朝から…」
手で顔を抑えつつ「おは、おはようございま…す」と、もごもごと聞こえるか聞こえんか分からん声で挨拶をした。
どないしよう…急に恥ずかしなってきた…。
「秋ちゃん、どないしたん?顔赤いで。石井さんの胸そんな硬いんですか?どれ」
「ナポちゃん、ええって」
ナポリさんが石井くんの胸に顔を押し付けるような仕草をしてくれてその場はほんわかとした空気になった。
「ほんで、このグランピングってなに?」
安田くんの問いに答えるために、この企画が上がった経緯を説明し始めた。
「…という訳でですね、どうですかね?それでそのロケを舞台でお客さんと一緒に見て皆と話すって事なんですけど…。好評やったら、シリーズにでもなったらいいなぁって思ってるんです、その都度メンバーは代わっていくつもりですが…」
「ええなぁ!オモロそうやん!やろう!やろう!」
辻井さんも安田くんもナポリさんも乗り気になってくれてる!良かったぁ…!
でも、もう1人がまだ黙って台本を見つめてる…。
「…石井くん、どう?」
何でか恐る恐る聞いてしまった…。
「ええよ。楽しそうやんなぁ。」
その言葉を聞いたら安心してウキウキしながら、担当作家さんに報告しに行った。
私はご機嫌な気分で舞台袖で本日出番の漫才師たちを待っていた。
先にやってきたのはMCのコマンダンテの2人やった。
「宜しくお願いしますっ」
マイクと手カンペを石井くんに渡すと、その拍子に私の耳元に石井くんの口元が近づいてきて 、コソコソ話しをするように小声で
「グランピングの時、秋もくるん?」
「うんっ、ケイさんだけ女性はアカンやろうし、寂しいって言うし…」
ヤバいって
今、この場は暗くて周りあんま見えんようやけど、他のスタッフさんもいてるし、目の前に安田くんもいてるしっ
増してや私の心臓バクバク言うてるしっ
てか、耳に石井くんの唇当たってる気がするしっ
「ほな、良かった」
そう言うて私の元から離れて行った。
ヤバいってヤバいって…!
私の左耳は熱くて爆発するかもせん…っ
そんな私をよそに漫才師コマンダンテ石井は平然とした顔で舞台へと出ていった。
なんか、悔しいっ…。私ばっかりこんなドキドキさせられて…。
「あれ?秋ちゃん。顔がフグみたいに腫れてんで、どしたん?」
「…ほんっとに!山添ってデリカシーってもんがないよね!秋ちゃん、こいつ連れてかなくていいからね!」
「えっ?えっ?!なんの話??!」
あっ、山添さんに台本渡すの忘れてた…。