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第5話 ドキドキとぐるぐる

んー、何度考えてもあの顔の意味が分からん。
「芸人の彼女は大変なんかなぁ」
と、言った時の石井くんの苦笑い。
カフェの店員さんに「彼女さんですか?」って聞かれたことも私に言うたとて、私はどう返せば良かったんやろうか…。

考えが一晩中ぐるぐると私の頭の中を巡っていた。

が、結論。

考えるのやめる。
石井くんはお仕事仲間、手の届かない芸人さん。
よし!解決。
「さて!仕事仕事っと!」
恐らくブツブツ独り言を言うてたろうな、と思いつつパソコンに目を戻した時

「あきちゃーん!おはよう。」
「ケイさん、おはようございます。」

もうそんな時間かぁ。どんだけボーとしてたんやろうかぁ…。

「あきちゃん、明日誕生日でしょう?お祝いしようよ!」
「あっ、そうかぁ。誕生日やった」
「何それ。他人事みたいに」

この所、頭の中も気持ちも忙しくて自分の誕生日なんぞ忘れていた。でも、社会人になるとそんなものかなぁ、と思う。いつの間にか過ぎていく日常。気づけばなかなかな歳やった。
おっと、ケイさんには言えないから黙っとこう。

「ね!それでどう?明日!」
「こっちのセリフですよ。いいんですか?私なんかの為に」
「私なんかって…。はい、決定!お店は私が予約しとくからね!」
「ありがとうございます」

なんかって言うたけど正直に嬉しかった。
楽しみぃ!
人は嬉しいことが待ち構えたり、起こると態度に現れてしまう。私は単純な人間やから、スキップとかしてしまう。

「なにしてんの?」
「おっとと…石井さん。おはようございます…」
恥ずかしい所を見られてしまった。

「ちょっと嬉しいことがあったので、つい。」
「そっか。良かったなぁ。」

昨日の今日でなんとなく気まずい。だからって謝るのもおかしい気がするし…ケイさんに相談したらいいんかなぁ。

「あきちゃーん!Happybirthday!!」
「山添さん…恥ずかしいから止めてくださいっ」
「明日、俺も行くよ~」
「ありがとうございます」

「明日なんかあんの?」
山添さんとのやり取りを黙って見ていた石井くんが聞いてきた、そりゃそうやんね、こんな大きな声で言うてるんやし。

「石井さん知らんのですか?秋ちゃん、明日誕生日なんですよ」
「そうなんやぁ」
リアクション薄い…まぁ、いいんですけど。

「石井さんも今月ですよね!」
「よう知ってんなぁ」
「明日ね、それで秋ちゃんのお祝いするんですけど、石井さんも良かったら一緒にどうです?」

おっと、山添さんそれは…そんなことされたら私の心臓もたんかもよ…このなんだか気まずい空気を読んでほしいんよ…

「ええよ。また店とかLINEしといて」
「えっ…」まさかの返答にびっくりした私の顔を見ていた石井くんはニコニコと笑顔で返し、楽屋に向かって行った。

「あの顔は何か企んではるよ…」
「えっっ、なに??!」

もうスキップなんかする気分じゃなくなった。
一気に何があるんやろう、というドキドキとそれでもお祝いしてくれるという、ワクワクとが入り交じってまた頭も気持ちもぐるぐるしてしまっている。

また今晩も余り眠れそうにないなぁ…

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