第20話 幸せと不安の雨音
目覚めると外は雨が降っていた。
慌ててエアコンを入れてから始まる1日。
昨日?寝たのが日付変わってたから今日か…。目覚めの悪い朝になった。
昨夜のお酒も多少残ってるし、出勤すればまた面倒な人がいるのか、と思うと余計に頭が重い…。
でも、仕事が終われば石井くんに会える!
そう思ってモチベ上げて部屋を出た。
「おはよう!秋ちゃん!昨日は楽しかったなぁ!また行こうなぁ!」
この人、2次会も行ってる筈なんになんでこんな元気なん?
「おはようございます。昨日はご馳走様でした。」
そう挨拶だけし、なんも知りませんよの顔してその場から離れた。
なんも言わんかもせんけど、橘さんは気づいている。
目を合わせると何か言われるかと思い、まともに顔も見れんかった。
仕事終わったら連絡して、と石井くんから言われてたから終わり次第、電話してみた。
「お疲れ様。今、終わったよ~。」
「お疲れ様。ほな電車乗ったらまたLINEして。駅まで迎えに行くわ。」
そう!今日は初めて石井くんのお家に遊びに行くんです!
橘さんとの事がなかったら、もっと気分上々やったのに…と考えつつ電車に乗り込んだ。
最寄り駅に着いて改札を出ると丸眼鏡をかけ、立ってる背の高い男の人発見。
はいはーい!この人が私の大好きな人ですよ~!と、叫びたい気持ちになった。
「なんかオモロいことでもあったん?」
近づいてくる私の顔がどうもニヤケてたらしく、顔を見るなり言われてしまった。
「ごめん、ごめん。会えて嬉しかったんよ。」
と言うと、「そっか。」と言いながらも、私の右手を握り歩き始めた石井くんの顔を見ると照れたような表情をしていた。
途中、コンビニに寄り食べ物や飲み物を買って石井くんの自宅に向かった。
「お邪魔しまーす…。」
男の人の部屋に入るって緊張する…。声も態度も小さくなってまう…。
「寒かったし、コーヒー飲む?」
「はいっ」
思わず出た返事が敬語やったから、石井くんめちゃ笑てるし。
「何?緊張してんの?そこ座っときや」と言い大笑いされてしまった。
石井くんにコーヒー淹れてもらうのはこれで2度目。やっぱ美味しいな。
なんて浸ってるのも束の間に
「橘くんのさ、LINE返事してへんねん。」
そうやった、それ話すんやった…。
「そうなんや…。でも見たから既読付いちゃったやろう。スルーになっちゃったんやないの?」
「そうなんよなぁ…。面倒くさいなぁ。」
私と同じ事、思てるし…。
「違うって、思いきって言うとか?」
「それはそれでなぁ…。明日どうせ打ち合わせで会うから話してみるわ。この話終わり。旅猿でも観る?」
どんな風に話すかは分からんけど、任せるしかないなぁ…てか、観る?やなしに、観たいんやろうなぁ。
一通り旅猿も観終わって、お酒も少し呑みつつ話してると時間もあっという間に経っていた。
「もうこんな時間。そろそろ帰るね。」
「帰んの?」
「えっ?!」
アウターを着ようとしていた手がピタッと止まった。心臓の音が爆音になって、隣にいてる石井くんにまで聞こえそうなぐらいドキドキし始めた。
「帰らせるつもりなかってんけど。」
お酒も入ってるからか言うことがいつもの石井くんやない気がする…。
膝立ちしている私を座らせ、手に持っていたアウターを離させて優しく抱きしめ耳元で
「側にいてくれて、ありがとう」
耳が熱くて火傷しそうや…。
私も石井くんの背中に腕を回してギューっと抱きしめ返す。
「石井くん大好き」
石井くんは少し笑って、私の顔を覗き込んできて
「こいときぐらい、石井くんやなしに下の名前で呼んでほしかったなぁ。」
「じゃ、じゃあ…。て、て、るあ、きくん」
「なんやそのカタコト」
大笑いしている、そのくしゃくしゃ笑顔とちょっと引き笑いな声の輝明くんは私は大好き。
また優しく、力強く抱きしめてくれた輝明くんの耳も熱く、赤くなっていた。
明日、橘さんとどんな風に話すのか気になる…。
と、不安な気持ちもあったけど、私もまた強く抱きしめ返した。
外はまだ雨が降っている。
この幸せな気持ちは残して、不安な気持ちだけこの雨で流してくれればいいんになぁ…。
春の雨音が微かだが部屋に響いている。
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