第2話 少しずつ…
「なんじゃい!」
ななまがりの初瀬さんばりにはいかんけど、それでもこの言葉をあの時に言ってやりたかったと考えつつ、舞台袖で小道具の準備をしながら、MCしてる2人を見ていた。あんな顔した石井くん見たんわ初めてやった。悔しいけど、デコピンは踏み台にでも上がらないと私は届かないし、威力がない…。
「それでは、コーナーいきたいと思います」と、言う石井くんの声に少し、ドキッとしながら我に返った。
仕事、仕事!!
あーまだ、少しヒリヒリ痛いねん!と、思いつつ、小道具を舞台上に運んで行くと、そんな顔してたつもりないけど、パッと石井くんと目が合うと、イタズラ僕くんみたいに一瞬笑ってるし…!
「むっ」
ゲーム負けてまえっ!と心の中で叫んだ。
そんなこんなで、無事に公演も終了。
帰ってかれる方々をお見送りしていると、安田くんもきて
「おつかれー。まだ痛いか?」
と、心配してくれた。
「大丈夫。あれで冷やしたから大分マシになったよ。ありがとうね。」
ホンマに加減ってものを知らんのか、というぐらいやったから…今年1番の痛いエピソードかもしらんわ…とか話してると、またしても、帰り支度したイケメンいじめっ子がやってきた。お気に入りの水色のシャツ着て。
「お疲れ様でしたー」と、何事も無かったかのように挨拶する。
「石井くん、なんであきちゃんにデコピンなんかしたん?」
えぇーっ、安田くんよ、今それ聞くん?!!止めてや~!あーーもう!そんなん、もう忘れたいんやから止めてや~!!!それで、石井くんが何か言うわけないやんか…!!
「石井くん、あきちゃんに謝りぃ」
「安田くんっ、良いって!びっくりしただけでもうなんともないし」
安田くんよ、優しい心は有難いけど、もうええって。それは、それで謝られても後々やりづらいし…。てか、あなたたち、明日もここで出番でしょうよ…。なんて、そんな私の心での叫びは安田くんに届くわけもなく…。「石井くん、俺もびっくりしたよ」と安田くん優しさ全開ステキ…!奥さん、こんな良い人と居られて幸せだね!なんて、思ってると
「なべさん、何時に終わるの?」
と、言うてきた。
「あともう30分ぐらいで今日は上がりですが…???」
きっと、私の頭の上には漫画の様に?マークが浮かんでるだろうと言うような顔をしていると
「ごめんて。飯奢るから、安田くんも行こう」
と、言ってくれた。
石井くんって、もちろん優しい所もたくさんあるんやろうけども、私にはあんまり見えんかったんよ。この頃は。ちょっと、マイペースのいじめっ子というイメージが強かったんよ。
今思えば、安田くんにすこーし、ヤキモチやったんかな??
そんな事はこの頃の私には想像もできなくて
慌てて、「荷物持ってきまーす!!」と、急いで自分のロッカー室へ向かった。ルンルン気分で何食べさしてくれるかなっと考えながら、もうすっかりデコピンの事などおでこの痛みとともに消えていた。