第17話 小悪魔な振り
「おーっ、秋ちゃんこっちやこっち~!!」
と橘さんに手招きされ呼ばれた席は、橘さんの隣りやった。
内心「えっっ…!マジか」となったが、そんなん顔に出せる訳もなく…100%とはいかないが満面の笑顔で答えた。
「石井くん、こっちなぁ~」
自分の真向かえに、石井くんを座らせ満足気な顔をしている。
歓迎会が開かれる店に入った早々これ…。
今から始まるんにどうなるんやろう、と渋い顔した私に斜め迎えの石井くんに咳払いをされ、ハッとした。
「秋ちゃん、何呑む?とりあえず生でええの?」
「あっ、はいっっ!」
石井くんにハッとさせられてからの橘さんからの問いかけにびっくりし、大きな声で返事してしまった。
「なんや元気ええなぁ!皆は?とりあえず生でええかぁ?」
と、橘さんの方が元気そうな大きな声を上げていた。
広間にざっと10人ほど集まっての橘さんの歓迎会。あとから遅れてまだ何人か来るとかどうとか…。
掘り炬燵式になっていて暖かいし、冷たい生ビールは美味しいのだけれど、私の横の橘さんはずっと1人で石井くんに話してる。石井くんは時々、話しては相槌をうつ、苦笑いしてても橘さんにはお構い無し。
いいなぁっ
私も石井くんと話したいっ
と、心で叫びながら他のスタッフさんと話してると、つま先にコツンと何かが当たった。
何やろ?と思いながら足元に目をやると、石井くんの足が私の足をつついていた。
なになに??!誰かに見られたらどうすんの?と、顔を上げると石井くんと目が合って急にドキドキしてきた…!
目が合ったのは、ほんの一瞬やったけどなんか嬉しかった。ニヤけそうになる自分を抑えるのに必死。
嬉しくて、しゃーない。
「ねぇねぇ!秋ちゃんってさ、彼氏いてんの?」
前に誰かにもこんなこと聞かれたような…。
「なんですか?!急に…!」
せっかくのドキドキの余韻が一気に冷めてもうたやないのっ…。
失礼極まりないけど…。
「いてるの?いいひんの?いてないなら…俺、立候補しようかな」
その場が一瞬にして無音になるが、それも束の間に
「こんなチビッ子のどこがいいですか??!」
先輩の一言で、無音の空気はドッと笑いに変わったが、変わらなかったのは石井くんと私。
「立候補なんて…!橘さん、こんな私なんかっ。他にもっとキレイな人かていてるんですから、ダメですよ!彼女さんに失礼ですよっ」
「彼女なんていいひんって。いてたらこないな事、言わんもん。」
おおおっ!!と、盛り上がり始めた。
この空気…嫌やなぁ…。
「なぁ!石井くんかて、秋ちゃん可愛いと思わへんか?彼女にしたいと思わん?」
うっわ…ぁっー!なんつう振り
しかも、よりにもよって石井くんに…っ!
この時に感じた。
橘さん、なんか気づいてる…?!わざと言うてる?!
またしても無音な瞬間。時間にしてほんの数秒なのに、私には5分にも1時間にも感じた。いや、もっとかもしれん…。
ひとつ、ふぅーと息を吐いてから一言。
「俺、今 彼女いてるから。」
その場はまたしても無音から爆音にも近いほどの盛り上がりの声が上がった。
私、この時どんな顔してたんやろう…。覚えてない。
覚えているのは、横で軽く舌打ちをして、右の口角を上げ何かを企むような表情をしていた橘さんの意地悪そうな顔やった。