【脚本】オーディオドラマ「思い出の公園で」
夢に出てきた小学校の同級生『翔』に導かれるように、
悠太は思い出の公園を訪れる。
作:みつる
登場人物
秦野 悠太(はたの ゆうた)
中島 翔 (なかじま かける)
小宮 涼花(こみや すずか)
SE 公園 電車の音
悠太M この公園は、あの頃と変わってなかった──池に架かる大きな橋は思ってたより小さくて……俺が夢で見たのは、子供の頃の記憶だった。
SE 蝉の声
翔 悠太~っ、こっち、こっち!
悠太M よく一緒に遊んだ同じクラスの翔。
翔 ほらっ、あそこ。木の枝にボール引っかかってんだよ。届くか?悠太 あぁ──。
SE 枝の揺れる音
翔 おぉ~、すげぇ~!
悠太 ほらよっ。
SE ボール
翔 背、でかいな、悠太!
悠太M 背は翔の方が高かった筈だ。俺は、翔が羨ましかった。
翔 なぁ、橋のところまでダッシュしようぜ。
悠太 よぉ~し、位置についてぇ──(早口で)よぃドンっ!!
SE 足音
翔 あっ、きったねぇっ!
悠太M 翔は足が早かった。俺は、何度やっても勝てなかった。
SE 足音
悠太 ぜぇ、ぜぇ……あぁ~っ……くっそ、駄目だぁ……はぁ……ああぁ……。
翔 ははっ、何だよ、悠太~っ。
悠太 あぁ……体力落ちてんなぁ……。
翔 おい、大丈夫か?
悠太 お前、元気だなぁ……ちょ、ちょっと休憩しようぜ……はぁ……。
悠太M 芝生の上で空を見上げると、草の匂いがした……明日の筋肉痛の 心配なんてしなかった筈なのにな……。
M
翔 なぁ──。
悠太 ん?
翔 俺、好きなヤツ居るんだ──涼花。
悠太M 同じクラスの小宮涼花──俺の初恋の人だ。
翔 悠太は、いいのか? 涼花に言わなくて。
悠太 俺は……。
翔 だって、引越すんだろ?
悠太 そうだよ、だから、別に──。
翔 二度と会えない訳じゃないだろ。
悠太 俺なんかより……。
翔 ……何だよ?
悠太 何でもない──俺はそんなんじゃないから。
悠太M 引越しの前日、翔がウチに来た。『涼花が公園で待ってる』、翔はそれだけ言うと、雨の中、ずぶ濡れで帰って行った──夜の公園、そこに涼花は居なかった。
SE 公園
悠太M どこか曖昧な記憶、楽しかったという感覚だけが鮮明に蘇ってくる──俺は……俺は何故ここへ来たんだろう……仕事を辞めて3ヶ月──自分探しなんて都合のいい言葉だ……こんな事してる場合じゃあ……。
SE 足音
悠太M 向こうから歩いてきた女性と目が合った。俺は、何故かその顔に見覚えがあるような気がした。
涼花 あの……。
悠太 え……。
涼花 あ……もしかして、ゆう──秦野、秦野悠太……?
悠太 そう、だけど……あ──。
涼花 あぁ……ぁ、分かる?
悠太 涼花──。
涼花 悠太ぁ、久しぶりっ。
悠太 え、何で……?
涼花 何でって、悠太こそ何で居るの?
悠太 俺はたまたま──。
涼花 え、たまたま居たの?
悠太 うん。
涼花 ちょっと~、そんな訳ないでしょ~っ!
二人 (笑う)
悠太M 久しぶりに笑った気がした。涼花の笑顔は、あの頃ままで──ほとんど変わってなかった。
涼花 懐かしいね──ホント、びっくりした。
悠太 俺だって……その、良かったよ、会えて。
涼花 え、ホントに?
悠太 何だよ、ホントだって。
涼花 へぇ……ねぇ、悠太が引越しちゃう前に、私、ここで悠太のこと待ってたんだよ。覚えてる?
M
悠太 え……?
涼花 勇気出して、悠太の机に手紙入れたのに──。
悠太M 手紙……そうだ、俺はこの公園に呼び出されて──行かなかったんだ。涼花の手紙を翔の机に入れて……。
涼花 そしたら翔が来て……しかも、翔、手紙の18時と8時を勘違いしてて──私、雨の中、ずっと待ってたんだよ。翔は──傘貸してくれて、そのままどっか行っちゃうし……。
悠太M 俺は──翔の涼花に対する気持ちを知って──いや、あれは──翔に対する劣等感だ。
涼花 もう、ウチ帰って大泣きしたよ……あ~ぁ、また色々思い出しちゃった……私、翔と付き合ってたんだ──。
悠太 えっ?
涼花 ──びっくりした? え、そんなに?
悠太 いや、別に……そうか──あいつ、今、どうしてんのかな?
涼花 ──居ないよ、もう。
SE 電車
涼花 悠太……もし、自分があと少ししか生きられないって分かったらどうする?
悠太 何だよ、それ……。
涼花 翔は、距離、置いちゃう派だったのかな……悠太は?
悠太 さあな……翔なら距離、置くんだろうな。
涼花 ふふっ……翔とこの公園に来た夢見たんだ……来て良かった。悠太にも会えたし──翔のおかげかな。
悠太 あいつ──意外とお節介なんだよな。
涼花 なんか色々、吹っ切れたかも。
悠太 ──俺、仕事探そうかな。
涼花 え?
悠太 翔に負けたままじゃ、格好つかないからな。
涼花 そっか……ねぇ、近くに美味しいお店あるんだけど、行かない? 私の奢りでいいから。
悠太 え? 何でだよ?
涼花 だって、ニートなんでしょ?
悠太 うるせぇ。
涼花 あははっ。
悠太 また今度……。
M
悠太 その、あの時のお詫びに、奢るから。
涼花 あ──気にしてくれてたんだ。
悠太 ……仕事、決まったらな。
涼花 ふふっ……分かった。じゃ、その時は『18時に公園で待ってます』。今度はちゃんと来てよね。
悠太 分かってるよ。
M・FO
─終─
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