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【脚本】戯曲「ハッピーX'masバースデー」(4)


○喫茶マネッチア(夜)

美咲、入ってくる。回覧板を持って来て読んでいる。
高木、入ってくる。

高木   こんばんは。
美咲   ぁ、あの……今日はもう閉店なんです。
高木   ……。
美咲   すみません……ぁ、えっと……。
高木   高木といいます。あの──裕人さんは?
美咲   ぇ……ぁ、あの……父は亡くなりました──私が小学生の時に……。
高木   ……。
美咲   ……。
高木   そ、そうですか……。(美咲を見つめる)
美咲   ぇ……ぁ、美咲です。
高木   そうか、美咲さん……。
美咲   はい。
高木   ……今は早紀さんと二人で?
美咲   いえ、美奈も……ぁ、妹です。
高木   ……。
美咲   あの……。
高木   そうですか……。
美咲   ……。
高木   ……。
美咲   ぁ、あの……母は出かけてて──今日は遅くなるみたいなんですが……。
高木   ぁ──すみません。ご迷惑ですよね……。
美咲   ぇ、そ、そんな……ごめんなさい、そんなつもりじゃなくて……ぁ、あの、商店街の人の送別会で……あぁ、すみません……。
高木   そんな、こちらこそ。
美咲   あのっ、母に何か伝えましょうか?
高木   いや、また改めて……。
美咲   あぁ……。
高木   失礼します。

亮介、入ってくる。馬の被り物を被っている。

美咲   きゃ……。
亮介   ちっす。
美咲   ぁ、亮ちゃん……強盗かと思っちゃった。
亮介   (否定する)
高木   ……。
亮介   ……。

高木、亮介、互いに会釈し合い、高木は去る。

美咲   ……可愛いね、それ。
亮介   (照れる。お腹空いたアピールする)
美咲   え、何?
亮介   (ニンジンを欲しがる)
美咲   え……?
亮介   (小声で)ニンジン。
美咲   ニンジン?
亮介   (喜ぶ)

美奈、出てくる。

美奈   わ……え、何?
亮介   ちっす。
美咲   美奈、ニンジンだって。
美奈   ぇ……?
亮介   (ニンジンを欲しがる)
美奈   亮ちゃん……ウチはニンジンなんか無いのっ。
亮介   (そっぽ向く)
美奈   こらっ! (馬を叩く)
亮介   いてっ。(馬を外す)
美奈   何してんの……お姉ちゃんも相手しなくていいよ。甘やかすとすぐ調子に乗るから──って言うか、それ被って来たの?
亮介   うん。
美奈   不審者じゃん……捕まるよ。
亮介   ニンジン。
美奈   ……何しに来たの?
亮介   美奈の為に持って来たんだから。はいっ。(馬を渡す)
美奈   え、何で?
亮介   トナカイ、トナカイ!
美奈   これっ……馬じゃん!
亮介   一緒だって。トナカイも馬みたいなもんじゃん。
美奈   えぇぇぇ……。
美咲   亮ちゃん、面白いね。
亮介   へへ、やったぁ。
美奈   もぉ……。

美咲、回覧板を持って出て行く。

亮介   いいなぁ……美奈んちはお姉ちゃんもお母さんも優しくて。
美奈   えへへ。
亮介   ウチのお母さんはすぐ怒るからなぁ……お父さんは無愛想だし……。
美奈   あぁ……怖い?
亮介   いや、怖くはないけど、なんていうか……例えば、それ被って帰ってもノーリアクションみたいな。
美奈   わ……。
亮介   美咲さんはちゃんと驚いてくれるのになぁ……。
美奈   ダメだよ。お姉ちゃんホントに怖がっちゃうから。
亮介   あ、美奈のお父さんは? どんな人だった?
美奈   う~ん……分かんない。あんまり覚えてないもん。
亮介   そっか……。
美奈   ……。
亮介   ……。

美奈、亮介の顔に馬を押しつける。

亮介   おぉ、ぉ……。
美奈   えへへ、お母さんとお姉ちゃんがいるもん。寂しくないよっ。
亮介   今日から馬も一緒だぞ。
美奈   トナカイって言ってたじゃん。
亮介   へへっ、じゃあ、可愛がってやってくれよな。ぁ、ニンジン代ツケといて。
美奈   10万え~ん。
亮介   ぼったくりじゃん。
美奈   あははっ……バイバイ。
亮介   ちぃ~っす。

亮介、去る。
美奈、嬉しそうに馬を眺めている。

美奈   えへへ……あ(馬の鼻を触る)……えっと……(カウンターの引き出しから赤マジックを取り出す)あったっ。

美奈、赤マジックで馬の鼻を塗ろうとする。
早紀と美咲の声が聞こえてくる。

美咲(声) あ、おかえり。
早紀(声) ただいま。
美咲(声) 早かったね。
早紀(声) そう?
美咲(声) うん、もっと遅くなるかと思ってた……。

美奈、カウンターに隠れる。
早紀、美咲、入ってくる。

早紀   任せちゃってごめんね。大丈夫だった?
美咲   うん……ぁ、今日ね……あの、いつものよく喋る人……。
早紀   赤い眼鏡の人?
美咲   うん……私、あんまり話せなくて……。
早紀   気にしなくていいよ。ありがとね。
美咲   うん……ぁ、あと、お母さんにお客さん来てたよ。高木さんって男の人。
早紀   高木……。
美咲   うん……お父さんと知り合いみたいだったよ。
早紀   ……。
美咲   ぁ、お風呂沸いてるよ。

カウンターから馬が顔を出す。鼻が赤く塗られている。
二人は気が付かない。

美咲   ……お母さん?
早紀   慎一さん……。
美咲   誰?
早紀   ……美奈のお父さん、来たんだね。
美奈   ……。(馬を引っ込める)
美咲   ……。
早紀   今頃どうして……。
美咲   ……。
早紀   大丈夫……大丈夫だよ。
美咲   うん……。
早紀   はぁ……なんか今日は疲れちゃった。お風呂入ってくるね。
美咲   うん。

早紀、美咲、去る。
美奈、カウンターから出てきて無言で立ち尽くす。
赤マジックを引き出しに片付け、去っていく。


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