【脚本】戯曲「ハッピーX'masバースデー」(1~3)
配信期間
2021/1/29(土)18:00~2/21(月)23:59喫茶マネッチアで働く美咲は12月24日生まれ。
母と二人で特別なバースデーを計画する妹の美奈。
二人は本当の姉妹ではない。
今年のクリスマスは少しだけ特別な日になるはずだった……。
不器用で優しい人達の物語。
作:みつる
登場人物
橘 美咲 (たちばな みさき) 喫茶店の看板娘
橘 美奈 (たちばな みな) 美咲の妹・高校生
橘 早紀 (たちばな さき) 美咲の母
橘 裕人 (たちばな ゆうと) 美咲の父
高木 慎一(たかぎ しんいち) 美奈の父
高木 聡美(たかぎ さとみ) 美奈の母・早紀の妹
橋本 唯 (はしもと ゆい) 高校生
佐伯 亮介(さえき りょうすけ) 高校生
川嶋 隼人(かわしま はやと) 雑誌記者
香川 翔子(かがわ しょうこ) 専門学生
仲宗根 徹(なかそね てつ) 食堂店主
舞台上手奥にカウンター、厨房入口、手前に椅子とテーブル。
上手側手前に入口の扉、中央奥と下手側に通路がある。
1
○喫茶マネッチア
明転。
取材が終わり、カメラの画像を確認している隼人。
美咲、出てくる。ケーキの入った袋を持っている。
隼人 これ──凄くいい笑顔だよ。(写真を見せる)
美咲 ぁ、うん……。
隼人 へへっ。
美咲 隼人君が笑わせるからだよ。
隼人 いや、緊張してたからさ。
美咲 ……してないよ。
隼人 ははっ、分かるよ。
美咲 だって……お店の取材なのに、私の写真撮るから……。
隼人 あ、これ──ほら。(別の写真を見せる)
美咲 あぁ……なんか恥ずかしい……。
隼人 この写真載せていい?
美咲 もぉ、やめて。
隼人 はははっ……美咲が元気そうで良かった。
美咲 うん……久しぶりだよね。
隼人 うん……なんかさ、こうやって美咲が働いてるところを俺が取材してるなんて──思ってもみなかったな。
美咲 うん……でも、なんか……ね。
隼人 ん?
美咲 ぁ……こういうの、何て言うか……えっと──。
隼人 へへっ。
美咲 もぉ、笑わないで……なんか、いいなぁって……。
隼人 美咲、ケーキ屋さん、夢だったもんな。
美咲 うん……ぁ、ウチは喫茶店だけど……。
隼人 翔子もさ、洋菓子店から内定貰ってるって。
美咲 へぇ……凄いね、翔子ちゃん。
隼人 美咲は製菓の専門、行こうと思わなかったの?
美咲 うん……ウチはあんまり余裕ないから……それにお店、お母さん一人じゃ大変だから。
隼人 そっか……。
美咲 うん……。
隼人 ……。
美咲 翔子ちゃんと仲良くしてる?
隼人 うん、まぁ──。
美咲、にっこりと微笑む。
照れくさそうな隼人。
隼人 あぁ……まぁ、しょっちゅう喧嘩してるけどなっ──ほら、すぐヤキモチ妬くしさ。
美咲 相変わらずだね。
隼人 はは、まぁ……あぁ、美咲は? 居ないの?
美咲 ぇ……ぁ、私は……別に……。
隼人 そっか……。
美咲 うん……。
隼人 ぁ、そう言えば、佐渡先生、結婚したんだってな。
美咲 ぁ……う、うん……。
隼人 ──ショックだった?
美咲 ぇ……別に……だって、中学の時だし……い、今は別に、そ、そんな……もぉ……。
隼人 へへっ、そんなに照れる事ないだろ。
美咲 隼人君が変な事聞くからだよ……だから言いたくなかったのに……。
隼人 え?
美咲 誰にも言わないからって、しつこく聞くから……。
隼人 ぁ……あの時は、その……俺も気になってさ。
美咲 ……。
隼人 ……。
美咲 ──そうだよね……あの、ごめんね……隼人君の気持ちは──その、えっと……。
隼人 へへっ、いいよ。
美咲 ぁ、う、うん……えっと……ぁ、これっ……ケーキ持っていって。
隼人 ぉ、ありがと。
美咲 ううん、こちらこそ。
隼人 しっかり宣伝しとくからな。喫茶マネッチアの自家製スイーツっ。
美咲 ぁ、あんまり褒めすぎないでね……。
隼人 へへっ、大丈夫だって。
早紀、出てくる。
美咲 ぁ、お母さん。隼人君、そろそろ帰るって。
早紀 そう、今日はありがとうね。
隼人 いやぁ、少しでもお役に立てれば。
早紀 凄く助かるよ。ね?
美咲 うん。お客さん増えるといいね。
早紀 ふふ……隼人君が来るって聞いて、美咲、喜んでたよ。
美咲 ぁ……う、うん……ほら、久しぶりだから……ね? ──元気かなって思って……。
早紀 かまってあげてね。美咲は大人しいから。
美咲 お母さんっ……。
隼人 知ってます。
早紀 ふふ、知ってるって。
美咲 ん……もぉ……。
隼人 へへっ。
早紀 ──隼人君、また遊びに来てね。
隼人 はい、また。ありがとうございました。
美咲 またね。
隼人 おぉ。
隼人、去る。
早紀 ふふ、良かったね。
美咲 ぇ……そ、そんなんじゃないってば……。
早紀 ふふっ、さてと──。
早紀、嬉しそうに去っていく。
美咲 もぉ……。
美咲、去る。
2
○喫茶マネッチア(朝)
早紀、出てくる。クリスマスツリーを持って来て飾る。
美奈、出てくる。その様子を嬉しそうに見ている。
早紀 よしっ。
美奈 もうすぐクリスマスだね。お姉ちゃん、誕生日かぁ……。
早紀 そうだね。
美奈 ねえ、お母さん。
早紀 なに? 美奈。
美奈 お姉ちゃんね、『美奈はクリスマスも誕生日も祝って貰えていいな』って。
早紀 え?
美奈 お母さんの前では言った事ないでしょ?
早紀 美咲が?
美奈 うん、お母さんには言わないでって。
早紀 あ、聞いちゃった。
美奈 えへへっ、子供の頃の話だよ。
早紀 へぇ……。
美奈 お姉ちゃん、言えばいいのにね。
早紀 ……ねえ、今年はクリスマスも誕生日も両方やろっか。
美奈 わ、ホントに!?
早紀 うん、同時開催ね。
美奈 それ……いつもと一緒じゃん……。
早紀 ふふ、今年は特別っ! クリスマスと一緒に済まされたって思われないようにしようね。
美奈 うんっ。
早紀 美咲には内緒ね。
美奈 えへへ……(携帯で時間を確認する)行ってきま~す。
早紀 はぁい。
美咲、お弁当を持って出てくる。
美咲 美奈、お弁当っ。
美奈 あぁ──お姉ちゃん、ありがと~っ。(携帯を置いてお弁当を受け取る)
早紀 あれ? これ昨日も見たよ。
美奈 うるさいなぁ、いいのっ!
美咲 あはは……行ってらっしゃい。
美奈 行ってきま~す。
美奈、携帯を置いたまま出て行く。
早紀 ふふ、誰に似たんだか……ね。
美咲 あはは。
早紀 ぁ……。
美咲 え、何?
早紀 ──母親に似てるかな。
美咲 ……そうなんだ。
早紀 うん、ホントにそっくり。
美咲 ……。
早紀 美奈がもう少し大人になったら、ちゃんと話すから……大丈夫だよ。
美咲 うん……。
早紀 さてと──。
美咲 ぁ、お母さん……。
早紀 ん?
美咲 ──何も変わらないよね……お母さんはお母さんだし……私も美奈のお姉ちゃんだし……今まで通り……。
早紀 うん、そうだね。大丈夫だよ。
美咲 うん……。
早紀 (微笑む)さぁ、表、掃除してこようかなっ。
美咲 ぁ、私やるよ。
早紀 ──ありがとう。
美咲 うん。
徹、入ってくる。
徹 よぉ、早紀ちゃん!
早紀 あぁ、徹さん。
美咲 おはようございます。
徹 おはよう美咲ちゃんっ。朝から偉いねぇ。
美咲 ぁ、いえ……。
徹 ウチにもさぁ、美咲ちゃんみたいな看板娘が居てくれたらなぁ。
美咲 そんな──私なんか全然……。
徹 そんな事ないよ。なぁ?
早紀 うん。美咲、頑張ってるもん。ね?
美咲 ぅ、うん……ぁ、掃除してくるね。
早紀 うん、お願いね。
美咲、徹に軽く会釈し、箒とちりとりを持って出て行く。
早紀 ふふ……ウチの看板娘は人見知りで……。
徹 控えめなぐらいがちょうどいいんだよ。ウチのなんか我儘で、甘えん坊で……まぁ、アレはまだまだ子供だしなぁ。
早紀 ふふっ、美咲も小さい頃はね……。
徹 へぇ~。
早紀 でも──主人が亡くなってからかな……色々、気遣ってくれるようになって……子供って敏感なんだよね……。
徹 あぁ……良い子だよなぁ、美咲ちゃん、真っ直ぐでさぁ……。
早紀 うん──少しは我儘言ってくれていいのに……。
美奈、戻ってくる。
美奈 スマホ忘れたっ。
徹 お、美奈ちゃん!
美奈 あぁ、おはよ~。
早紀 また忘れたの?
美奈 またじゃないもん、たまたまっ。
早紀 ふふ、昨日も忘れてたよ。
美奈 昨日もたまたまなのっ!
徹 はははっ。
早紀 ちょっと徹さん、何とか言ってあげてよ。
徹 いやぁ、美奈ちゃんは見てて飽きないなぁ。
美奈 何なのそれ?
早紀 毎日見てたらそんな事言えなくなるよ。
徹 よしっ、じゃあ美奈ちゃん、ウチの子になってみるかい?
美奈 えぇぇ、やだ。
徹 幸せにするからさっ。ほら、ウチの女達は可愛げがなくてさぁ──。
美奈 あ、言ってやろっ! サボって悪口言ってたって!
徹 いやいやいや、これは、そのぉ……あれだっ、ちょっと近くまで来たついでにさ……ほらっ、息抜きってやつだよ! この歳になるとなぁ、もうそういうのが無いとやってけなくてさぁ……。
美奈 奥さんに怒られちゃうよ。少しはウチのお姉ちゃんを見習ってよね。
早紀 美奈、遅れるよ。
美奈 え、あぁ~っ!
早紀 気をつけてね。
美奈 はぁ~い!
美奈、急いで出て行く。
早紀 もうちょっとしっかりしてくれるといいんだけど……。
徹 手のかかる子ほど可愛いとはよく言ったもんだ。
早紀 ふふ……。
徹 それにしても……美奈ちゃん、母親に似てきたなぁ……。
早紀 うん……。
徹 あいつが見たらどんな顔すんのかなぁ……。
早紀 ……。
徹 ぁ……そのぉ、なんだ……あんまりそっくりだからさ……つい……。
早紀 うん──聡美が帰ってきたみたい。
徹 だよなっ! そうなんだよな……嬉しくなっちゃうよなぁ……。
早紀 ホントにね──元気に育ってくれて……。
徹 うん……早紀ちゃんは立派な母親だよ。女手一つでさぁ──大したもんだよ。
早紀 ちょっとやめてよ。
徹 美咲ちゃんと美奈ちゃんを見てりゃ分かるよ。それに比べてウチのカミさんときたらよぉ──。
徹の携帯が鳴る。
徹 ぁ、噂をすれば……。
早紀 奥さん?
徹 (電話に出る)もしもし……え、あぁぁ、今、あれだ、あのぉ……ぃゃ、分かってるって、今もう、あぁの──すぐそこだから……ん? いや、すぐすぐ……(電話しながら帰って行く)あぁ、もう、もぉ、あれだ……もう着く、すぐ着くから──うん……。
去っていく徹を笑顔で見送る早紀。
早紀、去る。
3
○喫茶マネッチア
美咲、入って来る。入り口の拭き掃除をしている。
早紀、出てくる。雑誌を持っている。
早紀 美咲、これもう見た?
美咲 何? あ、この前の取材の?
早紀 うん、ちゃんと載ってるよ。ほらっ。(雑誌を見せる)
美咲 へぇ……ぁ──。
早紀 いいね、この写真。
美咲 載せないでって言ったのに……。
早紀 ふふ、いい笑顔だね。さすが隼人君。
美咲 もぉ、恥ずかしい……。
早紀 そんなに気にする事ないよ。大丈夫だよ。
美咲 うん……。
美奈、唯、入ってくる。
美奈 ただいま~。
唯 こんにちは~。
早紀 いらっしゃい。
唯 あはっ、美咲さぁん。
美咲 唯ちゃん、こんにちは。
早紀 あれ、今日は二人なの?
美奈 ──亮ちゃんは?
唯 信号に引っかかってたよ。
美奈 え?
唯 美奈、気付かずに行っちゃうんだもん。
美奈 何で一緒に来て一人だけ信号引っかかんの?
唯 あはっ、亮ちゃんっぽいね。
美奈 もぉ……。
早紀 ふふ……ねぇ美奈、これ見て。(雑誌を渡す)
美奈 あ、もしかして、はやぽんが取材に来たやつ?
早紀 うん。
唯 わぁっ。
亮介、入ってくる。
亮介 ちっす。
美奈 あ、亮ちゃん、やっと来た。
亮介 置いてくなよぉ。
美奈 何やってんの?
亮介 靴脱げた。
美奈 えぇぇ……。
唯 (雑誌を見て)きゃあぁ~! 美咲さんだっ!
美奈 ああぁ~っ!
唯 可愛い~っ!
亮介 なになに?
美奈 見て見てお姉ちゃん!
亮介 おぉ、ホントだ! モデルさんみたい!
美奈 お姉ちゃん、お姉ちゃんっ!
美奈、写真の美咲と同じポーズをする。
美咲 ちょっと、恥ずかしいからやめて。
亮介 あ、通販のカタログみたい。
美奈 もぉ、なんなのそれ!? 亮ちゃん、出禁!
亮介 褒めてるのに~。
唯 美奈すぐ拗ねるぅ。
美奈 拗ねてないもん。
早紀 ふふ──何か飲む?
亮介 あ、俺いつもの。
唯 おばさん、私もっ。
早紀 はぁい。そこの拗ねてる子は?
美奈 ……オレンジジュース。
唯 あはっ、拗ねてる。可愛いっ。
亮介 可愛い可愛い。
美奈 馬鹿にしてんの?
亮介 え、なんで?
唯 亮ちゃんが言うと嘘くさいねっ。
美奈 心がこもってないもん。
亮介 かぁわいぃい~。
美奈 絶対、馬鹿にしてるじゃん。
唯 あはっ。
美奈 もぉ……。
翔子、入ってくる。
早紀 あぁ、いらっしゃい。
美咲 翔子ちゃん。
美奈 しょこたんっ。
翔子 久しぶり。
美咲 うんっ……ぁ、どうぞ。
美奈 ねぇ、あの人しょこたろうのお姉ちゃんなんだよ。
唯 じゃあ、しょこたん?
美奈 うん、しょこたん。
亮介 え、しょこたろうってウチのクラスの?
美奈 他にしょこたろういる?
亮介 いや──しょこたんなら2、3人いるけど。
唯 美奈、こっち見てるよ。
美奈 わ……。
翔子 ちょっと、小声で『しょこたん、しょこたん』言わないでくれる?
美奈 えへへ……しょ~こたんっ。
唯 あはっ、しょこたんさん、こんにちはぁ。
亮介 ちっす。
翔子 ったく……。
美奈 ねえねえ、お姉ちゃん雑誌に載ったんだよ。ほらっ。(雑誌を見せる)
美咲 美奈っ、いいよ──。
翔子 知ってる。見たよ。
美奈 なぁんだ、そっか。
美咲 あぁ……。
美奈 (雑誌を指差して)これっ、美味しそうでしょ? お姉ちゃんが作ってるんだよ。
翔子 あ、やっぱそうなんだ。
美奈 えぇっと──(記事を読み上げる)マネッチアの自家製スイーツは優しい味わい。下町の隠れた名ぱてぃ……パティスリーだ──だって!
美咲 もぉ、大袈裟だよ……。
美奈 えへへっ。
翔子 隼人が書いたんだよね? この記事。
美咲 うん、取材したいって連絡くれて。
翔子 ずっと連絡とってるんだ。
美咲 ぁ、でも、なんか久しぶりだったなぁ……。
翔子 ふぅん……。
美咲 隼人君ね、撮るだけで記事には載せないからって言ったのに、写真載せちゃって……。
翔子 そうでも言わないと、美咲が恥ずかしがって撮らせてくれないからでしょ?
美咲 もぉ、なんかやだな……。
翔子 とか言って、凄くいい笑顔で写ってるし。
美咲 だって──笑わせるんだよ。近所の猫が暴れてる時の真似とかして。
翔子 あははっ、何それ……ホント仲良いよね。
美咲 うん、幼馴染だし。
翔子 いいな、そういう関係……ほら、なんかちょっと特別っていうかさ──。
美咲 ぇ、そうかな……?
翔子 そうだよ、美咲と居ると凄く楽しそうじゃん……。
美咲 ぅ、うん……ぁ、でも隼人君、昔からああいう感じだし……それだけで、別に……。
美奈 ……。(翔子をじっと見る)
翔子 何見てんの。
美奈 えへへっ。
翔子 っ……。
美咲 ぁ、あの……翔子ちゃん、製菓の専門ってどんな感じ? 楽しい?
翔子 うん、まぁ……基本から習えるし、製菓理論とか知っとくとやっぱ違うしさ。
美咲 へぇ、いいなぁ……。
翔子 美咲も行けば良かったのに。
美咲 ぅ、うん……。
翔子 ──でもやっぱさ、ちゃんとした知識を身につけるのって大事だなって思った。ほら、自分でやってると気付けない事って絶対あるしさ。
美咲 ……。
翔子 ぁ、まぁ、美咲んちはこういう昔ながらの喫茶店だもんね……(メニューを見る)ねぇ、ケーキ頼んでいい?
美咲 うん、どうぞ。
翔子 じゃあ……これ。
美咲 はい。
美奈 ……ねぇ、お姉ちゃん、はやぽんとはホントに何でもないの?
美咲 何でもないよ。
美奈 しょこたん、絶対ヤキモチ妬いてるよ。
美咲 そんなんじゃないってば……。
美奈 えぇ、だってぇ……。
美咲、去る。
唯 ねぇ、どういう関係?
美奈 えっとね、しょこたんとはやぽんは付き合ってて──でね、この二人は高校からなんだけど、お姉ちゃんとはやぽんは幼馴染だからさぁ……。
唯 あぁ~、そっかぁ……。
亮介 え? そんなの別に気にする事ないじゃん。
美奈・唯 えぇ~っ!?
亮介 だって、付き合ってるんだしさぁ──。
美奈 もぉ、これだから男子は……。
唯 分かってくれないよねぇ。
美奈 ねぇ~、そうやって知らない内に相手を傷つけてさぁ──。
唯 かわいそぉ……。
美奈 亮ちゃん、最低っ。
亮介 何でだよぉ。
美咲、出てくる。ケーキを持っている。
美奈 あのねっ、お姉ちゃんは何でもないって言ってるけど、はやぽんは中学の時お姉ちゃんの事が好きでね、告って振られて──。
美咲 美奈っ……恥ずかしいから……。
美奈 ぁ、えへへ……。
美咲、翔子と目が合う。お互い視線を逸らす。
美咲 ……。
亮介 何で振ったの?
美咲 ぇ、ぁ、えっと……。
美奈 (亮介を叩く)お姉ちゃん、恥ずかしがってるじゃん。
唯 あはっ、美咲さん、可愛いっ。
亮介 ──(小声で)何で振ったの?
美奈 う~ん……お姉ちゃん、聞いても教えてくれないんだよ。
亮介・唯 へぇ~……。
美咲、翔子にケーキを持って行く。
美咲 お待たせしました……。
翔子 ぁ……うん。
翔子、ケーキを一口食べると無言で手を止める。
美咲 ぁ……あの……。
翔子 ぁ、もういいや……ご馳走さま。ちょっと急ぐから、はい。
翔子、千円札を置いて去っていく。
美咲 ぁ……。
美奈 しょこたん、どうしたの?
美咲 ……用事あるみたい。
美奈 えぇぇ、何で?
亮介 お腹空いたのかな?
美奈 ケーキ残してるのに?
美咲 ……。
美奈 ほらぁ、お姉ちゃん、黙っちゃったじゃん。亮ちゃん、出禁っ!
亮介 えぇぇ~。
美奈 はい、しっしっ。
唯 美咲さんっ、そんなに気にする事ないですよ。
美奈 そうだよ。
亮介 そうそう。
美咲 うん……。
美奈 あ、そうだっ。ねぇ、クリスマスのさぁ──飾るやつとか、サンタさんの帽子とか持ってない?
唯 え? あったかなぁ……。
美奈 あそこの百均、そういうの全然ないんだもん。
亮介 あ、ウチにトナカイあったかも。
美奈 わ、亮ちゃん、役にたったじゃん! どうしたの!?
亮介 珍しそうに言うなよ。
唯 あはっ、やったね、亮ちゃんっ。
亮介 へへっ……あ、俺、そろそろ──。
唯 えっ、帰るの?
美奈 何? お腹空いた?
唯 あはっ、しょこたんみたい。
亮介 空いてないって。
美奈 ねぇ、唯は?
唯 え?
美奈 お腹空いたっ?
唯 しつこいよ、美奈、出禁っ。
美奈 やだぁ~っ、私んちだもん! 唯、出禁っ!
唯 はいはい。
亮介 んじゃ、ご馳走さまっ。ツケといて。
美奈 あ、また食い逃げ。
亮介 違うって、出世払いで。
美奈 出世しなそぉ……。
早紀 はぁい、ツケとくね。
美咲 気をつけてね。
亮介 ちぃ~っす。
亮介、去る。
美奈 もぉ、飲み屋じゃないんだから……。
唯 あはっ、しょうがないよ、亮ちゃんだもん。
美奈 あ~ぁ、お母さんが甘やかすからぁ~。
早紀 ふふふ……。
美咲、ケーキを片付ける。
翔子の帽子が置いてある。
美咲 ぁ……。
美奈 忘れ物?
美咲 うん……。
美奈 ねぇ、しょこたん、なんか変じゃなかった?
美咲 うん……これ……。(早紀に千円札を渡す)
早紀 お釣り渡せなかったね。
美奈 今度来たとき渡せばいいよね?
早紀 そうだね。
唯 (携帯を見つける)あっ、こっちも忘れ物っ。
美奈 あ、亮ちゃんの。もぉ、しょうがないなぁ……唯、亮ちゃんトコ行こっ。
唯 隣だもんね。ちょっと行ってきまぁす。
早紀 はぁい、行ってらっしゃい。
美奈と唯、亮介の携帯を持って出て行く。
美咲 ……。
早紀 美咲……?
美咲 ぇ……。
早紀 どうしたの?
美咲 ぁ……ぅ、うん、えっと……。
早紀 ん?
美咲 ……お母さん──ケーキ、お店で出して大丈夫なのかな……? 翔子ちゃんみたいにちゃんと勉強してる人は……その……どう思ったのかなって……。
早紀 気にしなくていいよ。
美咲 うん……でも……。
早紀 翔子ちゃん、どうしたんだろうね?
美咲 ……。
早紀 お腹空いたのかな?
美咲 ──ケーキ残してたよ。
早紀 あはは、そうだね。
美咲 もぉ……。
早紀 子供の頃さ、『美咲の作ったケーキ、店で出そう』って言ったら、喜んで一生懸命作ってたよね。
美咲 うん……。
早紀 あの時の約束が本当に叶っちゃうなんて──凄いね。
美咲 ……。
早紀 もっと自信持っていいよ。
美咲 うん……でも……。
早紀 大丈夫だよ。美咲のケーキ大好きな人がちゃんといるから。
美咲 ぇ……?
美奈、唯、戻ってくる。
美奈 だってさ、亮ちゃん、3回くらいスマホ失くしてるんだよ。
唯 あはっ。
早紀 亮ちゃんに会えた?
美奈 うん。亮ちゃん、家のお手伝いだって。
唯 美奈も少しは見習ったら?
美奈 いいのっ。ウチはお姉ちゃんがいるもん。ねっ?
美咲 うん。
美奈 えへへ……ねぇ、お姉ちゃん、ケーキっ!
唯 私もっ!
早紀 ──ほら、いた。
美奈 何がいたの?
早紀 別にぃ。(去る)
美奈 え、何?
美咲 ──何でもない。(去る)
美奈 えぇ~? お姉ちゃ~ん。
唯 美咲さぁ~ん。
美奈、美咲を追いかける。その様子を見て美奈について行く唯。
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