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ヘタレ師範 第15話「ゾンビ」
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ガンカクは立ち上がり、倒れている3人を見まわし。
「何だ? 俺たちをシロウトあつかいしてたのがこの程度って」
テッキ「へへ、弱すぎ。コイツら、まあ、自慢にはならないな。相手は年寄りと女だし」
ガンカクはジオンに
「これでも手加減してやったんだぜ」
ジオン「格闘技オタクなんてのはこんなモンだよ。こいつらも、痛い目見て懲りたろう。さて、道場破りの仕上げといくか」
「道場破り」の仕上げとは、その道場の師範と交渉というか、脅しをかけて金銭をせびることである。
ジオンは、脇でパイプイスに腰かけて固まっている五郎に。
「おいヘタレ師範さんよ?」
五郎はあいかわらず下を向いたままだ。怯えているのか何も言わない。
ジオン「こんどこそ相手をしてくれるよな?戦えそうなお弟子さんも、もういませんけどネ」
ジオンとガンカクはニヤりと顔を見合わせる。
しかし。
五郎はあいかわらず返事をしない。
ジオンは今度はカッと大声で
「おい! びびって口もきけねえのか? 情けねえ。弟子はあんな年寄りや女でもちゃんと戦ったんたぞ!」
反応がない。ガンカクが、歌舞伎メイクで睨み付け
「てめえ聞いてんのかコラ!」
反応がない。
業を煮やしたガンカクは、五郎のアゴをグイと掴(ツカ)み上げた。
「わあ!何なんです?いったい?」
五郎は驚いて目を見開いてシロクロさせている。寝起きの顔だ。
テッキは呆(アキ)れて
「おネンネかよ? 自分の弟子がボコられてるのに‥‥? お前ってヤツは冷酷なのか無神経なだけなのか?」
「両方だろうぜ。自分を庇ってくれた弟子が倒されても気にならないし、もう味方は誰もいないってのに、おネンネしてられるんだ」
ガンカクはそう言いながら五郎の首根っこを捕まえ、まだ倒れているミヒたちを見せた。
「てめえ、少しは気にならないのかよ?お前師範なんだろ? あいつらの?」
すると五郎はいきなり大きなあくびをした。
ガンカクは爆発した。
「ふざけるな!このヘタレ野郎!」
いきなり五郎が座っていたパイプイスを蹴飛ばした。
「わあっ!」
大きな音をたててパイプいすごと倒れこむ五郎。
ジオンが冷たく。
「立たせなガン」
ガンカクが五郎の襟首をつかんで吊るし上げた。
五郎は、手足をバタバタさせて。
「止めてください。離して、い、息が‥‥」
すると。
「ちょっと、ゴロちゃんイジメんのやめてよね」
ミヒだった。見ると、彼女は道場の大型ミラーで自分の姿を覗きながら、ジオンとの格闘で乱れた浴衣の裾をパタパタ叩き、帯を直している。
ジオンたちは一応に驚いた。回復が早すぎる。
それに、ミヒはあまり五郎を心配している風(フウ)でもなかった。
だって、五郎がホントに心配だったら、鏡で自分の服装を正す余裕なんてあるワケがない。
テッキ「何だ?もう立ち上がれんのかよ?って、何でだよ?」
ミヒは鏡から目をはなさず髪の乱れを整えながら
「オバさん、さっき言ってた。ホットケ、そのうち立ち上がるって」
そしてジオンたちに顔を向けた。
テッキは息を呑んだ。
ミヒの顔はアザだらけで、頬も少しだが腫れているし、くちびるも切れて血が滲んでいた。
彼女は、その顔で。
「アナタガタ、ゴロちゃん空手、ナニモ知らない」
ガンカクが笑い出す。
「ははは、何が『五郎ちゃん空手』だ。 笑わせんじゃねえや。おめえ、そんなお化けか幽霊みたいにボロボロにされたのに、まだミエはる気か?
まあ認めてやるけどよ。さすが、韓国ムスメだぜ、そこらの日本人とは根性が違う‥」
すると。
「根性なしの日本人で悪かったな‥‥」
ギョッとジオンたちは声の方を見た。いつのまにかミヤギが立っている。またも驚く3人組
テッキ「ジジイ!? さっきガンに絞められて、アワ吹いて半殺しの目に‥」
ミヤギも大型ミラーをちらっと覗いた。
彼はミヒとは違い。顔には何の損傷もなかった。ただ口のまわりがアワだらけだった。
ミヤギはタオルで口の周りを拭(ヌグ)いながら。
ミヤギ「驚くこたあねえやな。アワでも吹いて見せなきゃ、ホントにオシャカ(釈迦→仏様→死ぬこと)になっちまうもんな‥」
ガンカクは信じられない。
「ジジイ、まさかこの俺に負けたフリしてたってのか?」
ミヤギはすまして。
「無理できないんだ。コチトラおめえらより、倍以上、もしかしたら3倍くらい歳くってるからな。そこは年の功ってヤツでよ」
テッキ「ひ、卑怯だ。俺たち騙しやがって」
ミヤギはケロッと
「卑怯ねえ、お前たちがよく言うよな。
ま、確かに一芝居打ったさ。
リアルな戦いの世界じゃ、負けたフリ、逃げたフリ、死んだフリ、女子供だってよ、ケンカに負けそうになったら泣いたフリするじゃねえか。
公式の試合じゃ全然使えない戦い方だがよ。
リアルな世界じゃ、そんな戦法いくらでもあるだろ? パフォーマンスってやつだよ。パフォーマンス」
ガンカク「戦う?パフォーマンスで?」
ガンカクは自分のことを考えた。
「(俺はヒールのプロレスラーだ。マスク姿で、反則もするし、凶器で流血騒ぎ起こしたりもする。客には相当憎まれてる。
でもそれはホントの俺じゃない。
だって試合の後は、リングで敵だった相手と酒飲んだり、ツルんだりはしょっちゅうなんだから。
俺はただリングの上で悪役を演じているに過ぎない。
考えてみれば、気絶フリしたこのジイさんも俺と同じなんだ‥‥)」
「戦い方は色々さ。まあ年寄りの知恵ってやつでね」
ミヤギは自分の頭を指でツンツンとつついてそう言った。
ジオンたちは唖然となった。こいつら、2人とも負けたフリしてたのか? 俺たちをコケに?でもあんなにリアルに殴られまくっていたのに?
また声がした。
「なにが年寄りの知恵だよ。どっちかと言えば年寄りのミエつてヤツじゃないか」
なんと、今度はオバさんまで立ち上がっている。
オバさんも、ミヒと同じように顔は腫れ上がってアザだらけだ。ただオバさんだけに、若いミヒよりはるかに不気味だ。
それがふらりと、近づいてきた。
テッキは目を見開いて身体をブルッと震わせ。
「わあ!来るな!お前らゾンビかよ?」
ガンカク「これまで、俺たちが破ってきた道場の奴らは‥」
彼らは、立ち上がれないどころか、関節を外されて病院送りになる者さえいた。
それもたいていは、黒帯の若い道場生たちだった。
ところが、ここの連中は、中年過ぎの夫婦とコリア娘。
それに彼らは、黒帯どころか、色帯さえもつけていない。一体何段何級なんだ?
しかも突きと蹴りをさんざん喰らっていたはずなのに。
オバさん「ゾンビって? あたしら化け物じゃないよ。ただ、ここで習ったことやってるだけ」
ガンカクが詰め寄る。
「習ったって? 誰にだよ?」
オバさんはあきれた顔で。
「それよりあんた、もうウチの五郎ちゃん、離してくンない?」
オバサンはガンカクの足元を指さした。
「あッ?」
ガンカクは、やっと気づいた。まだ五郎の襟首をつかんで引きずったままであることを。
彼らは、ミヒやミヤギ夫婦を倒し。その後、ヘタレ師範の五郎を締め上げていたのだ。
ところが、倒したはずのミヒたち三人たちがケロッと回復したことにすっかり驚き、締め上げていた五郎のことなんかすっかり忘れていたのだ。
五郎がガンカクの太い腕からドサリと落ちた。
相当苦しかったのだろう。咳き込みながらヒューヒュー言っていた。
ーーーーーーーーーーーーー本文終わりーーーーーーーーーーーー