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ヘタレ師範 第12話「スキ」



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はた目にはミヒがジオンを指さしているように見える。その姿勢のままミヒは。

「お姉さんスキ、だからワタシ・・・」
あまりに場違いの言葉だ。

ジオン「な、何ィ?」

ジオンも他の連中も、道場破りの緊張感がどこかに吹っ飛んだ。

ミヤギ「好きって、ミヒお前、試合中にコクるなんて?しかも女相手に?」

テッキはまた失望して
「 浴衣(ミヒのこと)は女が趣味なのかよ?」
ガンカク、ヘンにうなずきながら。
「時代ってやつか?」

ミヒがあわてて
「スキだよスキ」

オバさんは一応大人の対応をした。
「わかった、好きなら好きでいいよ。わたし、ミヒちゃんの味方だから」

ここで五郎が下を向いたまま。

「あの、皆さんそれ、ひどい勘違いですよ」
ミヤギ「え?」
テッキ「か、勘違いってどうゆうこと?」

ミヒは貫手の人差し指を、ジオンの目の前に寸止めしたまま

「さっき、お姉さん、『始めるぜ! どっからでもかかってきな』って言った。それ試合の始まりでしょ?」
ミヤギ「まあそうだよな?」

「でもあの二人(ガンカクとテッキ)がケンカしたら、お姉さん怒って、そっち向いた。スキできた。だからヌキ手で攻撃した。
スキ見つけたらカンパツ入れず攻撃。これ格闘技のジョウシキ。だから二回目もそうしたヨ」

また、みんなの気が抜けた。

テッキは嬉しそうに
「なんだよ、そっちの隙かよ。俺てっきり‥へへへ」
ミヤギ「そりゃそうだ。美人ふたりが向かい合ってスキスキなんて言ってりゃ誰だって、なあ」
笑いながら一瞬目を合わせるテッキとミヤギ。が、はっと気づき、お互いしかめっ面に戻り
、すぐに顔を背けてしまう。

ガンカク「しかし、あの浴衣ムスメの理屈はスジが通ってるよな。『格闘技の常識は、相手の隙を見つけたら間髪入れず攻撃する。』か」
ジオン「‥‥」
「ジオン、一本とられちゃったな? いや貫手二本だから二本取られたってことか」

ガンカクは軽いジョークを飛ばしたのだが、ジオンの心には火を点けた。

ジオンは寸止めとはいえ貫手を二回も入れられたのだ。
しかもミヒの片言の格闘技理論にも反論できず。今度はガンカクまでが‥‥‥。

何もかもが頭にくる。それでジオンは。

「やかましい!」

そう叫ぶと同時にミヒの貫手を上段受けにハネあげた。

 「スキもクソもあるか!てめぇ、浴衣着るんだったら日本語、はっきりしゃべれ!」

稲妻のように突きと蹴りを猛然とミヒの全身に叩き込んだ。
ミヒは避けようするが、全くかわすことも反撃することもできず、タコ踊り状態になった。

テッキは青くなり震えながら。
「3ヶ月前とおンなじだ。俺もジオンを舐(ナ)めたばっかりに、執拗ににいたぶられた。ギブアップしても、泣いて頼んでもシオンはまるで、気が狂ったように殴り続け、蹴り続けた。俺が気を失うまでな」
ガンカク「そんなにジオンが怖いんだったら、仲間になんかならないで、さっさと逃げ出しゃ良かったじゃないか」

「でも、今みたいに、夜叉になったジオンも捨てがたくてよォ」
目がうっとりしている。

あきれるガンカク
「バカバカしい。お前変態か? 夜叉でも浴衣でも好きにしろい!」

ズン!

壁に何かがぶつかり、据え付けられていた数枚の大型鏡の画面ががユラりと揺れた。
その下にミヒが倒れていた。

彼女はジオンの後ろ回し蹴りを腹部に受け、道場の壁際に吹っ飛ばされたのだ。
どうやら意識を失っているようだった。
ーーーーーーーーーーーーー本文終わりーーーーーーーーーーーー

13話 「陽キャ道場」へつづく


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